監訳者に聞く 「MMT(現代貨幣理論)」とは何か?(3)
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経済評論家((株)クレディセゾン主任研究員) 島倉 原 氏
主流派経済学は「財政赤字なのにデフレ」を説明できない
――主流派経済学者からは、「MMTはトンデモ理論」という批判が出ています。
島倉 アメリカの主流派経済学者であるポール・クルーグマンやローレンス・サマーズなどがMMTを批判していますが、MMTをきちんと理解しないまま批判しているところがあります。要するに、彼らは商品貨幣論の発想にとらわれたままなので、MMTの主張が暴論に見えるのです。
そこには、物々交換を前提とした主流派経済学の標準的なモデルにはもともと貨幣が存在せず、そして貨幣を論じようとすれば商品貨幣論を前提とせざるを得ない、という理論的な背景があります。それは当然MMTの誤りを意味するものではなく、むしろ現実をうまく説明できないという主流派経済学の理論的な欠陥を示しているのではないでしょうか。
商品貨幣論あるいは物々交換の発想からすれば、金融緩和によってモノとしての貨幣の量を増やせば、市場にあふれた貨幣の価値は下がり、つまりインフレになります。同様に、国債という政府の債務証書を大量に発行すれば、国債は暴落して金利が上昇するはずです。ですが、政府債務残高のGDP比が世界最高水準なのに日本の国債金利は史上最低水準ですし、大規模な金融緩和で通貨が大量発行されているのにデフレが続いています。ケルトンが「日本は(MMTの正しさを証明する)格好の事例である」と述べたのは、そうした事実を踏まえてのことです。
――日本の多くのメディアもMMTを取り上げていますね。
島倉 MMTは、米国よりもむしろ日本のメディアで取り上げられているという話もあるようです。先ほど述べたケルトンの指摘なども、日本のメディアがMMTを取り上げる原因の1つになっていると思います。
一方で、ケルトンが「日本はMMTの実践例である」と述べたかのように受け取った報道や評論が一部で見られます。しかしながら、彼女自身が来日時の記者会見で明確に否定したように、それはまったくの誤解です。
先ほども述べたように、日本経済は過去20年余り、名目GDPが増えずに経済が停滞し、しかもデフレが続いています。MMTの機能的財政論に基づけば、このような国では財政支出を拡大して総需要を喚起し、経済全体の活動水準を引き上げるべきです。しかしながら、日本政府はMMTの提案とは真逆の緊縮財政を続け、問題をより一層悪化させています。
私自身は、『表現者クライテリオン』という言論誌に寄稿して述べたように、この事実もまた、MMTの正しさを示す「格好の事例」ではないかと考えています。こうした経済状況もまた、日本でMMTが注目される背景の1つではないでしょうか。
財政支出を伸ばさない国は経済成長していない
――緊縮財政が日本経済停滞の原因ということでしょうか。
島倉 そうです。財政支出の伸び率と経済成長率の関係を示すグラフがあります。このグラフを見れば一目瞭然で、ここ20年間で一番財政支出を伸ばした中国が一番成長していて、最も財政支出を伸ばさなかった日本はほとんど成長していません。その他の国々も相関関係は明らかです。
なぜこういうことが起きるかというと、MMTが指摘するところの「誰かの支出は別の誰かの所得」、つまり「政府の支出は民間(企業、家計)の所得」だからです。つまり、政府が支出を伸ばさないと、民間企業が国内事業で得られる利益も全体としては成長しません。GDPとは、国内全体の支出の合計であるとともに、所得の合計でもあるのです。
そんな経済状態にある国で、民間企業が投資しようという気になるかといえば、普通はなりません。投資が先行するため、損益計算上は黒字でも、フリーキャッシュフローは赤字となるのが民間企業全体としては正常です。にもかかわらず、フリーキャッシュフローが恒常的に黒字になっているのが、日本の民間企業部門です。民間企業が黒字になったことの裏返しで、政府の財政赤字がさらに拡大してきたのが、ここ20年間の日本の姿です。「誰かの支出は別の誰かの所得」すなわち「誰かの赤字は別の誰かの黒字」。これは、MMTを持ち出さずとも、当たり前の事実なのです。
政府の財政赤字だけを見て、「お金の使い過ぎ。ムダ使いだ」という批判があります。けれども、本当にお金の使い過ぎならインフレになるはずですが、現実はデフレです。こういう批判は、短絡的で視野が狭いと言わざるを得ません。デフレということは、政府のムダ使いではなく、民間部門の過少投資が根本の原因であることを意味します。民間の経済活動が縮小すれば、当然政府の税収も減ります。社会保障費など支出は増える一方なので、赤字幅は広がります。財政赤字はその結果に過ぎません。
――当たり前のことが理解できていないのでしょうか?
島倉 そうですね。主流派経済学の学者には、「誰かの支出は誰かの所得」という当然の事実を見ずに、物事を語る人が多すぎる気がします。ただ、ほとんどの人は悪意をもってやっているわけではなく、主流派経済学という「歪んだレンズ」で物事を見ているからだとは思いますが・・・。また、本人たちが意識しているかどうかはともかくとして、「MMTが正しい」となると、主流派経済学者は「今までウソを教えていたのか」という批判に晒されることになりますから、そう言わざるを得ないところもあるかもしれません。
(つづく)
【大石 恭正】<プロフィール>
島倉 原(しまくら・はじめ)
(株)クレディセゾン主任研究員。1974年、愛知県生まれ。97年、東京大学法学部卒業。(株)アトリウム担当部長、セゾン投信(株)取締役などを歴任。経済理論学会および景気循環学会会員。会社勤務の傍ら、積極財政の重要性を訴える経済評論活動を行っている。著書には『積極財政宣言─なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論)など。<まとめ・構成>
大石 恭正(おおいし・やすまさ)
立教大学法学部を卒業後、業界紙記者などを経て、フリーランス・ライターとして活動中。1974年高知県生まれ。
Email:duabmira54@gmail.com関連記事
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