監訳者に聞く 「MMT(現代貨幣理論)」とは何か?(4)
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経済評論家((株)クレディセゾン主任研究員) 島倉 原 氏
自分たちの尺度でしかものを見ない経済学者たち
――いわゆるリフレ派は、デフレ脱却は「金融緩和すれば良くて、財政出動は必要ない」と言い続けてきました。
島倉 銀行は、現金をもっていなくても、借り手の預金口座に貸出額相当の金額を記入することで、お金を貸し出すことができます。これを「貨幣創造」または「信用創造」と言います。
逆に、銀行の手元現金がいくら増えたとしても、借り手のニーズがなければ貸出を増やすことはできません。『MMT入門』でもこのように説明されていますし、実務に精通した銀行業界の関係者もまったく同じ見解です。
ところが、主流派経済学の教科書では、民間銀行が現金を手に入れれば、必ずその一定比率を貸出に回すことになっています。従って、金融緩和をしてマネタリーベースつまり銀行の手持ち通貨を増やせばその分貸出が増え、借りたお金は必ず何かの支出に使われるのでインフレになる。これがリフレ派の基本的な論理です。「期待インフレ理論」という少し違ったかたちで説明する場合も、時間軸の違いこそあれ基本的な論理は変わりません。ですが、「銀行の手持ち通貨を増やせばその分貸出が増える」という大前提に誤りがあるので、現実にはデフレから脱却できていないのです。
――日本銀行は380兆円を超える金融緩和を行ってきましたが、一向にインフレになっていませんね。
島倉 むしろ再デフレ化してますよね。
政府が直接雇用を生み出す「JGP」
――政府支出のなかでも公共投資は減り続けています。
島倉 緊縮財政の方針の下で、社会保障費の増加に合わせて、公共投資は削られてきました。公共投資から直接所得を受け取っている業界は、大きなマイナスのダメージを受けています。
このグラフは、公共投資額(GDP統計上の公的固定資本形成額)と建設業、製造業、その他産業の就業者数の推移をまとめたものです。
公共投資額のピークは1996年で、ここ数年はピークの6割ぐらいです。製造業の就業者数減少は国内需要低迷による生産拠点の海外移転が主因ですが、建設業の就業者数は公共投資額の減少に連動するカタチで減少しています。公共投資額が減ってビジネスにならないから、人も雇えないということです。
「建設業界は人手不足なので、公共投資を増やしても意味がない」という意見を耳にすることがありますが、因果関係は逆なんです。公共投資を減らしたから就業者数が減り、現在の人手不足につながっているんです。ビジネスをやっている人であれば当たり前のこととして理解いただけると思いますが、公共投資額、すなわち建設業界への需要が増えれば、業界企業の利益は増えます。企業の利益が増えれば人を雇い、設備投資もするようになって建設業界の供給能力は増大します。つまり、これまでの20年間とは逆のプロセスで、需要を増やせば、供給能力を追いつかせようという動きが必ず生まれます。
もちろん、供給能力を一朝一夕に引き上げることはできないと思いますが、過去20年間誤った政策を続けてきたわけですから、回復にある程度の時間がかかるのはやむを得ないことでしょう。政府は短期的な景気対策としてではなく、長期計画に基づいて徐々に公共投資額を増やすことを明確にコミットする必要があります。そうすれば、民間企業が安心して雇用や投資を拡大できるような環境が生じます。需要が増えれば、供給能力は自然に追いついてくるものです。
MMTは就業保証プログラム(JGP)を提唱しています。政府が直接人を雇うJGPと建設業界にプロジェクトを発注する公共投資は異なるところもありますが、直接雇用を生み出す効果がある点では通じるところはあると思います。
公共投資は、最終的には地方自治体が7割ぐらい支出しています。ただ、地方自治体には通貨発行権がないので、公共投資を長期的に拡大するには中央政府の財政的なサポートが必要です。そうしたサポートが不足しているのであれば、地方自治体を巻き込みながら、中央政府にアピールしていくしかないと思います。
(つづく)
【大石 恭正】<プロフィール>
島倉 原(しまくら・はじめ)
(株)クレディセゾン主任研究員。1974年、愛知県生まれ。97年、東京大学法学部卒業。(株)アトリウム担当部長、セゾン投信(株)取締役などを歴任。経済理論学会および景気循環学会会員。会社勤務の傍ら、積極財政の重要性を訴える経済評論活動を行っている。著書には『積極財政宣言─なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論)など。<まとめ・構成>
大石 恭正(おおいし・やすまさ)
立教大学法学部を卒業後、業界紙記者などを経て、フリーランス・ライターとして活動中。1974年高知県生まれ。
Email:duabmira54@gmail.com関連記事
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