2024年11月23日( 土 )

拡大する九州のベトナム人コミュニティ 九州とベトナムの経済・人的交流の今後(前)

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ベトナム総領事 ヴー・ビン 氏

 就業、留学のため福岡県に滞在するベトナム人が急激に増えている。技能実習生などの労働者、留学生いずれも増加しており、福岡市のベトナム人は数年中には中国人につぐ2位になる勢いだ。在福岡総領事館が開館した2009年から10年経ち、九州におけるベトナムの影響力は増している。その影響と今後の両国関係について、福岡勤務を希望されて19年にベトナム総領事に就任したヴー・ビン氏にお話をうかがった。

日本勤務を希望した理由、福岡の印象

ヴー・ビン駐福岡ベトナム総領事
ヴー・ビン駐福岡ベトナム総領事

 ――日本勤務をご希望されて福岡総領事に就任されたとのですが、どのような理由でご希望されたのでしょうか?

 ヴー・ビン氏(以下、ヴー) 私は従来東アジアに強い関心を抱いていました。日本は経済規模が世界第3位で科学技術が最も進歩しており、中国は世界的な発言力があり経済規模が第2位で、また韓国も大きな影響力をもっており、各国間でも交流が深く行われています。

 これまで米国、インド、ヨーロッパ文明の発祥地であるギリシャで仕事をした経験があり、東アジア、とくに日本で仕事ができれば自分の経験を補完できると考えました。また日本は政治的に信頼できる国であり、ベトナム―日本関係の発展には限りない潜在力があります。私はギリシャで大使をしており、規定では(地位が劣る)総領事に就任することはできないのですが、2018年には大使として4カ国の赴任先候補を打診されたにもかかわらず、どうしても日本で仕事をしたいと思い、日本に行く希望を出しました。(大使館、総領事館のある)東京、大阪、福岡のうち、ポストの空き状況と年齢上の理由から福岡を選びました。家族にも日本との関係を深めて欲しいと願い、息子は今東京に留学しています。

 ――福岡の印象はいかがですか?

 ヴー 2019年5月に福岡に来ましたが、住みやすく、文化、食べ物、人々いずれも気に入っています。福岡にきたのは本当に正解であったと私自身思いますし、ベトナムの友人たちからもそう言われます。

 実は私のような大使経験者でベトナム政府から「生涯大使」外交称号を得ている者が総領事になるのは特別な理由を提示して納得してもらう必要があり、ベトナム外務省に対して九州とベトナムとの関係を発展させると誓約しました。その意味で私は大きな試練に直面しています。ただ、幸いなことに前任者たちが築いてくれた人脈、また福岡にきてからできた日本の友人などが助けてくれており、日本語はできませんが、人と人との関係に恵まれ、試練の困難さはいくらか減少しています。今は両国の関係をもっと発展させたいという願望が強まっています。

 九州は日本の1割に相当すると言われていますが、いくつかの領域ではもっと大きいと捉えています。九州の経済規模は中欧など世界で中規模の国家のそれに相当し、在福岡総領事は実際には他国の大使並の役割を果たせるポストであると捉えています。

日本―ベトナムの関係について

 ヴー 私は文化セクションの業務も比較的長かったのですが、最も好きな業務の領域は戦略であり、日本との関係において、いかに長期的利益を構築するか考えています。これには文化のみならず、政治、経済を含みます。ちょうど総領事館が設立されて10年経ちましたが、この機会に、量的のみならず、質的に両国の関係を発展させたいと考えています。両国は文化面においても共通点を有し、日本人にベトナムのことをもっと知ってもらいたいです。

 両国の関係は広範囲にわたっていますが、これを発展させ、より奥行きのあるものにしたいと考えております。ベトナムでは両国関係は「これまでに見たことのない良さ」と言われます。確かにそうなのですが、私は今の関係を恋愛に例えていうと、結婚した段階にあるようなものだと認識しています。恋愛している時には頭が痛くなるようなことはありませんが、結婚して家庭をもった後はそうではなく、両者で何かを分かち合うことが必要となり、さまざまなことを行っていかねばなりません。より理解し、共有し、協力し、ともに負担することが必要です。

 ――福岡に滞在するベトナム人が非常に増えています。

 ヴー 近年、福岡・九州に住むベトナム人は大幅に増えており、2019年には九州で3万7,000名、福岡県で1万6,000名に達しました。フィリピンより多くなっており、中国、韓国についで3位になっています。ただ、量は増えましたが、質の面も大事です。ベトナム人の日本の習慣、文化などに対する理解を増進させるとともに、知識、技能などを向上させないといけません。また、日本人にもベトナムの習慣、文化などについてより知ってもらうよう努めています。質の向上には、事故の減少も含まれており、ベトナム人が災害に巻き込まれることも減らさないといけない。 

 両国が人材面で協力できる点は非常に大きいと感じています。人材協力に力を入れたいのですが、とくに技能実習生に関しては、頭が痛くなる問題もあります。日本の首相がベトナムの首相に在日ベトナム人は「両国関係における貴重な共有財産」と言ってくれましたが、それを質量ともに拡大させたいです。

 ただ、ベトナム人の不祥事(断りなしの転勤、ベトナムの美徳・モラルに反する行為)も見られますが、ベトナム人として恥ずかしいです。それらを予防するための活動に重点をおいています。そのためには、関係機関との協調が欠かせず、企業、自治体、共同組合、メディアと密接に連携していくことが必要で、協力を仰げればと考えております。

(つづく)
【茅野 雅弘】

<プロフィール>
ヴー・ビン(Mr. Vu Binh)

 1961年生まれ。駐米国ベトナム大使館参事官、ベトナム外務省情報文化局副局長、駐ギリシャベトナム特命全権大使、ベトナム外務省文化外交ユネスコ局副局長などを歴任。「生涯大使」外交称号受賞。2019年5月、駐福岡総領事に着任した。

(中)

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