元『週刊現代』編集長・元木昌彦氏が実名で語る『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』トークイベント開催
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7月15日、元『週刊現代』編集長・元木昌彦氏が講談社などについて語るトークイベントが「Readin’ Writin’ BOOKSTORE」(東京都台東区)で開催された。聞き手は毎日新聞記者などを経て本屋「Readin’ Writin’ BOOKSTORE」店主である落合博氏。
元木氏は昨年、NetIBNewsにて「平成挽歌―いち雑誌編集者の懺悔録」を連載しており、それに加筆して『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)を出版した。今回のトークイベントはその刊行記念となる。両名は『野垂れ死に』出版のエピソードや出版業界の現況などについて語り合った。
『野垂れ死に』では、元木氏の生い立ちから始まり、講談社に入社して、売上が週刊誌で5位に低迷していた『週刊現代』の発行部数を過去最多にまで伸ばし、有意転変を経て退職するまでが描かれている。バブル崩壊後しばらくしてから社会に出た世代からは想像もつかない、日本経済が「華やかだった時代」を歩く、ありそうでなかなかない「出版社」を内側から見つめた本だ。
元木氏は「平成挽歌」で連載したエピソードについて「自伝を書こうという気持ちはなかったが、これまで出版社内のことを実名で書いた本はなかったし、一緒に戦った戦友たちのことも書いておきたかった。それに、講談社の歴代編集者のなかで一番カネを使ったとヤツだと言われているので、カネにまつわる話も書いておきたかった」と語る。
出版社の栄枯盛衰
当時、新聞が取材しない事件を取り上げることに雑誌の意義があると元木氏は考え、「立教大学助教授教え子殺人事件」や「首都圏連続女性殺人事件」などの事件を、新聞記者とは違う視点で取材し記事にしてきた。元木氏は今の週刊誌について「多くのスクープを出す『週刊文春』が飛びぬけて強いのは、かつてスキャンダルを競って追いかけていた『週刊現代』や『週刊ポスト』が、発行部数増に結び付かないとスクープを捨て去り、年金・遺言雑誌へと路線変更してしまったからだ。従って、スクープに予算も記者も付けている『週刊文春』にネタの持ち込みやタレコミが集中している」と話す。それを受けて落合氏は「効率化の波で、多くの新聞社が経費を削減していて、制作側の環境も『野垂れ死に』の当時とは時代が変わったと感じる」と語った。
元木氏は「今は、漫画をもっている講談社と光文社の『音羽グループ』と小学館、集英社の『一ツ橋グループ』が強いと言われている。だが1990年代後半まで、多くの出版社は売上が右肩上がりだった。今は生き残りをかけた『サバイバルゲーム』色が強く、厳しい時代。いいものをつくることに力をつぎ込める余裕が社にも編集者にもないのが心配だ」と語る。
落合氏は、読売新聞大阪社会部の『ある中学生の死』や『誘拐報道』に憧れ、読売新聞のなかでも独立色の強かった大阪本社に入社し、出版社を経て、毎日新聞に2017年まで務め、今は本のセレクトショップ「Readin’ Writin’ BOOKSTORE」を運営している。同書店では、一時期よく売れる流行本より、ロングセラーや長く需要があると見込んだ本を選んで置いている。落合氏は「多くの人が右の道なら自分は左の道に行く珍しいタイプだから、新聞記者を退職後、本屋を開業する道を選んだ」と話す。
知られざる過去に迫る
元木氏は「おおらかな点が講談社の長所。だが、多くの人が知らずに過ごしている会社の過去(戦争責任など)を、誰かが実名で伝えなければと思い、本を書いた」と話す。「スクープを出し、「首輪のない猟犬」などと言われて肩で風を切る時代があっても、最後には悲しい亡くなり方をする者もいる。亡くなった名物記者を描く『エピローグ』が印象深い」という落合氏のコメントに対して、元木氏は「『週刊現代』である時代を共有し、ともに戦った人間たちがいたことを、読者の頭の片隅に残してほしい」と語った。
本のタイトルについては「ぼんやりしているときに『野垂れ死に』というフレーズが浮かんだ」という(元木氏)。敬愛する本田靖春氏の書籍『我、拗ね者として生涯を閉ず』の最後にも、「(救いの手がなければ)野垂れ死にしていただろう」と本田氏が回想するくだりがある。「黄金時代」と呼ばれた時代を生き、多くの事件を独自の視線で見つめ続けてきた、元木氏ならではの「挽歌」だ。
【石井 ゆかり】
<プロフィール>
元木 昌彦(もとき・まさひこ)
1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に講談社を退社後、市民メディア『オーマイニュース』編集長・社長。現在は『インターネット報道協会』代表理事。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。
主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、などがある。落合 博(おちあい・ひろし)
1958年生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒。読売新聞大阪本社(福山・大津支局、大阪運動部)などを経て、90年に毎日新聞社に入社。主にプロ野球や高校野球、ラグビーなどスポーツ分野を取材。運動部長や論説委員などを歴任。2017年に毎日新聞を退社後、書店「Readin’ Writin’ BOOKSTORE」を開業。
著書『こんなことを書いてきた スポーツメディアの現場からを開業」(創文企画)。関連キーワード
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