ストラテジーブレティン(260号)ポスト安倍は「安倍」~安倍政権の歴史的貢献と日本政局~(前)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。今回は2020年8月31日付の記事を紹介。
市場の最前線での40年にわたる観察者の立場から、安倍政権が成し遂げた偉業は特筆に値する、と考える。数十年後の歴史家は、安倍政権時代を日本の新たな発展の土台をつくった画期的な時代として記すだろう。
数多くの功績を枚挙にいとまがないが、①外交機軸の再設定、②デフレ脱却と経済成長軌道の設定、③未完ではあるが、行政、企業統治、働き方などの諸改革、の3つが特筆される。(1)歴史に残る偉業、外交機軸の再設定
米中敵対時代の日本のポジションを定置した
近代日本の発展と挫折の根本は、世界の秩序を決めているスーパーパワーとの関係性にある。明治・大正時代の繁栄は日英同盟に基を置いている。第二次世界大戦での敗戦はそれに歯向かったことである。
戦後の発展と挫折もまた同様である。1950年から90年のバブル崩壊までの繁栄は、冷戦下の日米同盟に支えられた。バブル崩壊後の失われた20年の根本原因は、冷戦終結後の安保体制の変質にある。
ソビエト連邦という共通の敵を失った後、米国は日本の強大な産業競争力を最大の脅威と考え、日本たたきに狂奔した。従属的日米軍事同盟は、米国が日本を抑制する装置と化し、日本が築き上げたハイテク産業クラスターが壊滅させられた(「安保瓶のふた」時代)。
しかし2012年の安倍政権登場により、日米軍事同盟が米中対決の下で新たな定義を与えられた。米中対決という新たな時代を予見し、地球を俯瞰する外交を展開して、日本のポジショニングを決めた指導者こそ安倍晋三氏である。
激変した米国の安倍評価、危険な国家主義者から信頼できる友人へ
12年の第2次安倍政権発足の直後、靖国神社参拝をした安倍氏を欧米のジャーナリズムは「国家主義者」の登場と酷評した。尖閣諸島をめぐって対決色を強めていた中国は、「戦後体制(戦勝国である米英ソ中による国際秩序)を変えようとする国家主義者、安倍政権」と日本非難のキャンペーンを展開し、日本を孤立させようと試みた。
今では衆目が一致する中国の危険性を世界主要国の指導者のなかでもっとも早くから指摘し、安保法制の改革により日米同盟を強化したことは、揺るがない安倍政権の功績である。大統領に当選した初日に中国を為替操作国に認定し、制裁を科すと主張した米大統領トランプ氏との蜜月関係は、単なる相性によるものではなく、この戦略性に裏付けられたものである。G7での安倍氏に対する高い信頼は、かつての日本の指導者では考えられないものである。
産経新聞ワシントン駐在客員特派員・古森義久氏は「06年の第一次安倍政権発足当初、憲法問題や歴史問題で『普通の国』と明快に主張する安倍氏に対して、米国のメディアは『危険なタカ派のナショナリスト』というレッテルを張っていた」と振り返る。
この安倍氏が「共和党、民主党の別を問わず、完全に現代的で率直な、信ずるに足る友人であることを知るだろう」と、古森氏が当時の『New York Times』で予測した通りになった。古森氏は「米国側の逆風をかつてないほどの順風に変えたのは、安倍首相自身の実力、努力、信念と哲学であった」と述べている(8月30日付産経新聞)。
米中敵対関係が米国の勝利で終わることに疑いの余地はないであろうが、その時には安倍氏の戦略的妥当性がいかに日本の経済とプレゼンスを高めたかが証明されるだろう。この安倍氏の中国や北朝鮮の全体主義体制の危険性の認識は、ヒューマニズムに基づいていると考えられる。
安倍氏が日本の政治家のなかで、もっとも早くから一貫して北朝鮮による拉致被害者救済に奔走し、首相に就任してからは日米外交の最重要項目に組み入れ、トランプ氏の北朝鮮との交渉アジェンダに入れられたことからも、明らかである。
地政学的観点が重要である理由は、それが経済の土台を決めるからである。かつてハイテク王国であった日本が、韓国、中国、台湾の後塵を拝すようになったのは、米国の日本たたきによるものであった。日米関係の劇的好転が日本の国際分業上の立場を有利にして、日本経済を押し上げていくことは疑いない。
(つづく)
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