2024年12月21日( 土 )

コロナ禍での子ども食堂、フードロス、そして直筆の手紙(前)

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大さんのシニアリポート第94回
 コロナ禍で日常生活そのものに大きな変化が生じた。運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)での子ども食堂も例外ではない。まず、「三密」は避けようがない。子どもの仕事は大きな声で話し、激しく動き回ることだ。
 当然、手づくりの食事提供は不可能となった。食堂を閉鎖することは簡単だが、コロナ禍が長引くと食事づくりのボランティアの士気にも影響する。一度閉めれば、再開は容易なことではない。とはいえ、閉鎖を回避できたのはレトルト食品などの提供のおかげであったが…。

コロナ禍での子ども食堂

マスク姿のボランティアさんたち

 全国の子ども食堂の大半が食事提供を中止している。子ども食堂は、生活困窮者の子どもたちに食事を提供するだけではなく、学習支援などにおいても大きな力となっている。地域の目となり、虐待や育児放棄(ネグレクト)などの発見において地域の見守り役として重要な役目も担っている。子ども食堂は、団地の集会場や公共施設の会場などを利用している例が多いが、コロナ禍で使用制限などの理由によりその役目をはたすことができないでいる。

 (特非)全国こども食堂支援センター・むすびえが6月に、全国の主な子ども食堂のネットワークを通じて37都道府県238団体を調査したところ、「8割近くが休止していたが、そのうちの半数近くは『再開予定が立っていない』と答えた。夏や秋に再開予定だったのに延期を余儀なくされた団体もあるという。『休みが続けば子どもの悩みが十分聞けなくなる。子どもの孤立リスクがある』」(朝日新聞 9月13日付)と悩みを打ち明ける。

 子ども食堂では、「他学年と交流もあって学校とは違う。貴重な成長の場なので早く再開してほしい」(同)という声も少なくない。大阪市港区の子ども食堂「田中食堂」運営者の結城陽子氏は、人数を制限した事前予約制での再開を模索するが、「学校や地域の理解がないと難しい。再開は簡単ではない」(同)と嘆く。

弁当や食材配布の代替案で、運営体制も変化

 135団体が加入する埼玉子ども食堂ネットワークでは、約8割が「代替策として、食事を提供する代わりに弁当や食材を配る団体が増えている」(同)という。「ぐるり」でもこの方式を採用している。子ども食堂の運営には資金が必要となり、社会福祉協議会(社協)が全面バックアップしている拠点が多いが、それにも限界があり、市民の善意に期待することになる。しかし、最近になって、その様子が少しばかり変化しはじめた。

 「無料や低価格で食事を提供する『子ども食堂』を、大手企業が催したり、支えたりする動きが広がっている。食品ロスを減らしながら、地域や社会への貢献を目指す活動。新型コロナウイルスの影響で通常通りの運営が難しいが、オンライン開催なども進めている」(朝日新聞 11月7日付)。

ハロウィーンの飾り付けをした「ぐるり」の入り口

 感染リスクを避けながら、非日常の楽しみを提供したいと大手コンビニストア、(株)ファミリーマートが9月下旬、東京都内の店舗と家庭をオンライン会議システムでつないだ「デジタル子ども食堂」を初めて開いた。「5家族17人が参加。通常だと、食事の提供とともに、レジ打ちや普段は入れないお店の裏側を見るなどの体験イベントがある。デジタルでは、『ファミチキ』調理の様子を見たり、事前に配った菓子を一緒に食べたりして1時間を過ごした」(同)。

 日本ケンタッキー・フライドチキン(株)は子ども食堂への食材提供を年内に100カ所へ広げる。「ぐるり」にも小売店や大手スーパーなどからの「食料品の寄付」が増えはじめ、前回(11月12日)開催の子ども食堂では大量の菓子の提供があり、スタッフがうれしい悲鳴を上げていた。

 企業側の本音は、食品ロスを回避し、「捨てられる運命にある食品を有効に活用したい」というものだ。同時に、社会貢献をすることで、企業のイメージアップにもつなげたいという思惑も見え隠れする。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

(第93回・後)
(第94回・後)

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