【縄文道通信第54号】縄文文化―ユートピア論(前)
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(一社)縄文道研究所
NetIBNewsでは、(一社)縄文道研究所の「縄文道通信」を掲載していく。
今回は第54号の記事を紹介。縄文文化―ユートピア論
新型コロナウイルスの世界的な蔓延で、人類は改めて生存の危機を感じ始めた。
さまざまな世界的な識者の見解を見ていると、人類の危機、文明の危機、資本主義の危機、エネルギー危機、食糧危機、核兵器の脅威による危機と、悲観論が蔓延している感がある。
人類が約700万年前にこの地球に出現して、厳しい自然と対峙しながらさまざまな危機を乗り切って、成長発展を遂げてきた事実は否めない。とくに21世紀を迎え、この20年間はインターネットの普及、AI・ロボットの急激な発達で、人間の働き方が根底から変わろうとしている。
イスラエルの著名な歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ博士が以下のような警告を発していることは、このシリーズでも紹介してきた。
「人は、文明が発達し便利さに慣れて、人間本来の五感を失っている。狩猟時代の本能と本性を呼び戻し、今こそ五感を覚醒する必要がある」。
新型コロナの蔓延で、人が会うことを制限され、人類は原点回帰を強いられていると感じる。たとえば、日本でもこの機会に都会生活から田舎生活へ、さらには都会のサラリーマン生活から農業や漁業に関心を示し、農業や漁業、林業にデジタル技術を応用し、新しい産業に復興させようという動きもある。
この地殻変動のようなパラダイムシフトでは、戦後の日本が経験したことのない領域に入った。筆者の知人には、北海道で約30万坪の大地で農業を営み、敷地内に高齢者の介護住宅を設置し、老若男女が農業を通じて和気あいあいと共存する理想郷を形成している人間もいる。
この組織のリーダーは、老若男女の相互共存を「愛の共同体」と命名している。筆者が「縄文時代への回帰ですね」と尋ねると、「まさに縄文道の実践ですよ」との返事があり、嬉し思った。
日本は約3万8,000年前に旧石器時代が始まり、約1万6,500年前に旧石器時代を終えて、新石器時代、縄文時代が開始した。以来、縄文時代は約1万4,000年という、世界に類を見ない長期の文化を形成してきた。
この間は自給自足で、独特な土器、土偶をつくり、竪穴式住居を建築し、独特の衣装をもつ織物文化や、約1,500種類という動植物、海産物を食してきた。また、死者を祭る環状列石と葬送の儀式を含め、現代の日本文化にも継承されてきている。言わば、日本文明、日本文化の故郷でもある。
日本文明を世界文明と比較して独特な文明を形成した、と高く評価した世界的歴史学者、アーノルド・トインビー博士は、その長期性と連続性にも着目していた。しかし、縄文文化は、縄文道通信第53号にて紹介した世界の4大文明ともまったく異なる独特な文明だ。筆者は多くの識者が指摘するように、日本文明の独自性は日本の自然環境と地政学に秘密があると考えている。
一言でいえば、「水を大事にしてきた文明」ということであり、その姿勢は縄文時代から営々と現代まで引き継がれている。日本列島には3万5,260の河川、1万2,725カ所の湖沼、約6,800の島々が存在する。ほとんどの縄文の遺跡は、海沿い、河川、湖沼の近辺から発掘されているのだ。
「水は命という」言葉があるが、縄文時代から水と安全性を求めて集落を形成してきたのだ。日本は、水の多い自然環境に恵まれ、年間の降雨量も多く、四季に恵まれた山紫水明の国なのだ。北緯45度から南緯25度まで海に囲まれ、オホーツク海、日本海、南シナ海と海峡により大陸と隔てられた島国である。この地政学上の位置は、まさに縄文文化を約1万4,000年という長い期間、安定して平和裏に維持できた要因だと考えている。
縄文人は、このような恵まれた自然環境のなかで、お互いに争いをせずに生活できた。その理由は、海の幸、山の幸、野の幸と食料に恵まれていたことだ。約1,500種類の自然からの恵みである食材を携えて暮らしていたことが、考古学の炭素分析で判明している。
(つづく)
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