ストラテジーブレティン(268号)~2021年、最大のリスクは回復力の過小評価(前)
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Net IB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は2020年12月21日付の記事を紹介。好ファンダメンタルズがブラックスワンを凌駕した
武者リサーチは1年前のレポート「2020年、積極的に株式に向き合う年に」(ストラテジーブレティン241号、19年12月23日付)で、20年は株式投資の大きなチャンスの年になると予想した。その根拠を下記に述べる。
(1)製造業主導のミニ景気サイクルが回復に転ずること。
(2)新産業革命(5Gデジタル革命)が進行すること。
(3)米中貿易戦争が小康状態を迎えること。
(4)潤沢な投資資金の存在、など。リスクは米大統領選挙であるが、トランプ勝利により親ビジネスの経済政策が維持されるだろうと考えた。メディアのアンケートには、21年の日経平均の高値メドを2万8,000~3万円と答えた。
この強気の株価想定は、前提が大きく狂ったにもかかわらず、的中したとはいえないまでも、ほぼ妥当であった。新型コロナウイルスという歴史的な疫病が全世界の経済活動を完全に麻痺させて、世界経済は史上最悪の急速な落ち込みとなった。その結果、当選確実と見られていたトランプ大統領が落選し、民主党のバイデン政権が誕生する。これらは想像すらできなかった「マイナス要素」であり、まさに「ブラックスワン来襲」であった。それにもかかわらず、株高が実現したのはなぜだろうか。
ブラックスワンの来襲という「超ド級のマイナス」を、上述(1)~(4)のファンダメンタルズの強さが打ち消したと考えられる。21年は(1)~(4)の好ファンダメンタルズがそのまま持続し、他方でブラックスワンは消えていく。さらに、ブラックスワンは消えるのみならず、新産業革命の加速と空前の財政金融緩和という恩恵を後に残す。
バイデン次期大統領がイエレン氏を財務長官に指名したことで、米国新政権の経済運営が親ビジネス路線を踏襲すると明確化されたことも好材料である。21年の予測にあたって、この強靭なファンダメンタルズを軽視してはならない。
ダウンサイドリスクからもたざるリスクへ
20年、経済と市場は新型コロナパンデミックの悪影響を驚くべきスピードで消化した。株価は5カ月でV字回復し、経済も製造業の生産は1年で前年水準をほぼ回復し、GDPは中国が6カ月、米国も12~18カ月でコロナ前水準に回復する見通しである。
米大統領選挙を挟んだ11月の1カ月間で、米国株式(S&P500)は10.0%、日本株式(日経平均)も14.4%と大幅な上昇となったが、それはブラックスワンの退場が見えたことを評価したためであろう。この11月の上昇相場はあまりにも急激なものであり、ほとんどの投資家は乗り遅れた。その結果、もたざるリスクを強烈に投資家に意識させることとなった。この市場心理の「ダウンサイドリスクへの備え」から「もたざるリスクへの備え」への大転換は、今後到来する強烈な上昇の序奏なのかもしれない。
実際に、市場展望は一様に強気になっている。ドイツ銀行グループの12月時点でのアンケート調査(全世界984人の市場専門家を対象)によると、21年の最有望の投資対象は米国をはじめとした株式(72%)、もっとも避けるべき投資対象は現金・債券(62%)とかつてない「リスクオン選好」を示している。となると、リスクはどこにあるのか。この高まった楽観が裏切られるリスクだろうか。いや、21年展望にあたって最大のリスクは、経済と市場の回復力の過小評価、アップサイドの可能性の過小評価ではないだろうか。
ダウンサイドリスクとしては、(1)ワクチンの副作用が発生、21年を通してコロナは蔓延し続けること、(2)尚早の金融政策転換がハイテクバブルを崩壊させること、(3)インフレの高進の3つが主要なものであるが、意外性はない。また、ベースラインの強靭さを打ち消すことにはならないだろう。
21年にかけて、かつてない好条件が株式市場の基礎体温を押し上げることはほぼ確実である。下記は、ほぼ間違いなく実現するだろう。
(1)コロナワクチン実用化により、年後半にはコロナパンデミックは沈静化に向かうだろう。
(2)製造業景気ミニサイクルはコロナで底が大きく深くなったが、その分、回復力が蓄えられた(在庫払底と投資抑制による供給力不足) 。
(3)コロナで欲望と貯蓄が堆積しており(いわゆるペントアップディマンド)、一瞬にしてそれらの発現が見込まれる。
(4)世界的な空前規模の財政拡大と金融緩和の効果が顕在化する。
(5)イノベーション(ネットデジタル、新エネ、脱中国サプライチェーン構築)が加速する、など。(つづく)
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