2024年11月22日( 金 )

激化する新型コロナ・ワクチンの開発競争:副作用の急増で問われる安全性(後)

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2021年1月22日付の記事を紹介する。

    歴史を紐解けば、人類は8000年もの昔から感染症と向き合ってきた。エジプトのミイラからも天然痘の痕跡が発見され、14世紀のペストの流行によってヨーロッパでは人口の3分の1が死亡した。近年でもスペイン風邪では4,000万人以上が命を失っている。その後も鳥インフルエンザ、SARS、MERSと人類を脅かす感染症は後を絶たない。

 感染症専門家の予測では「今後も4~5年に1度の割合で新たな感染症が発生する」という。ノストラダムスの大予言ではないが、「2021年は人類にとってもっとも厳しい事態になる」というわけで、心して感染予防に取り組む必要があるだろう。治療薬や予防ワクチンの開発が待たれる所以である。

 もっとも注目を集めているファイザーのワクチンは人工合成した新型コロナウイルスの遺伝子の一部を接種し、体内でウイルスの断片を形成し、免疫効果を発揮させることを狙っている。先にも少し述べたのだが、記者発表によれば、20年7月に始まった臨床試験には4万5,000人以上が参加し、ワクチンか偽薬の投与を受けた。

 そして、参加者のうち、94人が新型コロナに感染したが、ワクチン接種者と偽薬投与者の割合を比較したところ、9割超の参加者にワクチンの効果があったという。期待は高まるものの、まだ第3段階の治験は進行中である。にもかかわらず、緊急事態ということで、承認されて接種が始まった。

 これまでもモデルナのワクチン、レムデシビル、はたまたトランプ大統領が推奨したREGN-COV2など、記者発表の度に株価は急騰したものの、最終的には予防効果が立証されないで終わったものばかりであった。注目され期待が高まるファイザーのワクチンの場合も、効果が立証されれば、日本政府は1億2,000万回分の供給を受ける予定だ。

 問題は接種者の体内でどの程度の免疫がついたのか、発症や重篤化をどこまで防げるのか、副作用の程度や効果が続く期間など、基本的なデータは開示されていないことであろう。

 また、2回の接種が必要とされるが、1回で辞退した接種者がどれだけいたかも不明である。

 我が国の厚労省は「安全性、有効性を慎重に確認する」としたうえで、課題としては「このワクチンは安定性が低いため、マイナス70℃で冷凍保存する必要があり、値段も高い」と指摘する。マイナス70℃での移動や保管は容易ではない。実際、温度管理がうまくいかず、廃棄処分になっているワクチンがアメリカでは大量に発生している。いわんや途上国では冷凍設備も十分ではないため、効果的な活用に支障が出ることは目に見えている。

 そんな中、世界の製薬メーカーの間ではワクチン開発レースが過熱する一方だ。なかでもイギリスのオックスフォード大学と共同開発に取り組んでいるアストラゼネカ社はすでに日本を含む世界各国に30億本のワクチンを提供する契約を結んでいる。これは世界最大のワクチン供給ビジネスに他ならない。

 同ワクチンは効果や安全性を確認するため、イギリスはじめアメリカ、ブラジル、ロシア、南アフリカ、日本などで5万人を対象に治験を重ねてきた。とはいえ、これまで治験者の間では副作用が疑われる有害事態が何度か発生しており、その都度、臨床試験は中断することになった。

 実は、日本政府は同社との間で21年初頭より1億2,000万回分のワクチンの提供を受ける契約を交わしている。加藤前厚労大臣もことあるごとに、同社のワクチンへの期待感を明らかにしていた。ところが、20年10月21日、ブラジル保健当局がアストラゼネカ製のワクチンの臨床試験で被験者が死亡したと発表。これは新型コロナウイルス用のワクチンの治験過程で死者が出た世界初のケースだった。

 冒頭に紹介したが、亡くなったのは地元の医科大学を卒業したばかりで、リオデジャネイロの病院でコロナ患者の治療に当たっていた28歳の男性医師。当時、ブラジルでは500万人がコロナに感染しており、死者も15万人を超えていた。そのため、亡くなったフェイトサ医師はその治療に役立ちたいとの思いから、他の8,000人のボランティアとともに治験に参加していた。

 問題は死亡した医師がワクチンを投与されたのか、ワクチンの効果を比較するためにプラセボ(偽薬)を投与されていたのか、明確な説明がないことである。保健当局も製薬メーカーも「治験参加者のプライバシーを守るため」と称して、情報の開示に難色を示している。

 すでに同社の株価は急落中だが、これでは以前、同社がアメリカで何度か訴えられた詐欺事件の二の舞になりかねない。

 いずれにせよ、世界が新型コロナウイルス関連のニュースに一喜一憂するなかで、時間が過ぎていく昨今である。日本でも連日、感染者数の記録更新が報道され、人々の不安感が増す一方である。とはいえ、感染者の数を誤って130万人も余計にカウントしていた英国の健康保健省のミスもあれば、死因を新型コロナウイルスと報告したにも係わらず「94%が別の原因であった」ことを認めたアメリカのCDC(疾病対策センター)の不正確な対応などが発覚したこともあり、感染者数や死亡者の数字には戸惑うことも多い。

 一体全体、どこまで各国政府の発表するデータや専門家と称される人々の発言を信じてよいものか。やたらと不安感を煽り、ワクチンの開発と接種を急がせるための「製薬メーカーの陰謀ではないか」といった声まで出始めている。

 では日本の状況はどうだろうか。菅新首相は「コロナ対策を最優先課題とする」というものの、治療や予防に関しては外国任せといった感がぬぐえない。そもそも日本はかつてインフルエンザの治療薬としてアメリカのジリード社が開発した「タミフル」を大量に購入したが、緊急事態ということで国内での安全性に関する試験を免除した。

 当時の小泉首相は「1,000万人分を備蓄せよ」と号令をかけたものだ。その結果、服用した日本の若者が相次いで死亡するという重大事件が発生。05年の時点で、日本は生産されたタミフルの75%を輸入し、備蓄していたのであるが、この死亡事故を受け、残りのタミフルはお蔵入りとなってしまった。

 今回、日本が最初に輸入を決めたコロナ・ワクチンの「レムデシビル()」は、このジリード社が開発したものである。本来は、エボラ出血熱の治療薬として開発されたもので、アメリカでもコロナ用にはほとんど使われていない。アメリカからの押し売りに「ノー」といえない日本を象徴的に示しているのではないだろうか。ちなみに、ジリード社の当時の会長はラムズフェルド元国防長官であった。

 厚労省から900億円の助成を受けている日本の製薬メーカーとしてはアンジェスが臨床実験で他社より先行しているが、特定の製薬メーカーの利権にこだわることなく、一刻も早い治療薬とワクチンの開発、製造という共通の目標に向け、内外の研究者と医療機関、製薬会社が共同作業に向けてのビジョンを打ち出すべきではなかろうか。さもなければ、人類共倒れという最悪の事態に陥ることにもなりかねない。

 今この瞬間も新型コロナウイルスは変異を遂げつつあり、我々に対する“見えない牙”を向けているからだ。幸い、WHOでは「COVAX(コバックス)」と銘打ち、COVID-19との戦いに勝つため、国際的なワクチン開発の仕掛けを創設する動きを加速させている。日本もドイツ、ノルウェーなど78カ国とともに参加を表明し、20億ドルの基金の創設を計画しているが、トランプ大統領は「WHOは中国に汚染されている」と主張し、COVAXへの協力は拒否してしまった。これではワクチン開発に先行する中国やロシアが主導するかたちになりかねない。

 コロナ禍の影響下、経済が悪化し、格差も拡大する一方で、社会不安も危機的に高まっているのが今のアメリカであり、また世界の多くの国の現状である。一部の金持ちや資金力のある国だけがワクチンの恩恵を被るのでは、世界経済は回復しないだろう。しかも、そうしたワクチンの安全性は必ずしも保証されていない。それどころか、コロナウイルスの蔓延で紙幣や硬貨が病原菌の媒介役をはたすとの理由で、デジタル通貨への移行が大きなビジネスチャンスとして急浮上してきている。表面的なコロナ騒動の背後で、従来の価値観を一変させるような「リセット」ボタンが押されようとしていることに気づかねばならない。

 菅総理にはアメリカ最優先ではなく、世界各国との共同戦線でコロナ禍に打ち勝つ道筋を追求してほしいものだ。そのためにも、「コロナ対策に万全を期す」との念仏を唱えるのではなく、日常的な健康管理の在り方を提唱しつつ、自前の感染症予防ワクチンの早期開発や国際社会との連携構築に、資金と人材を投入すべきであろう。と同時に、コロナ禍の裏で新たなビジネスチャンスを得ようとする国家の枠を超えた「バーチャル利権集団」の動きにも警戒を怠るわけにはいかない。人類史上、かつてない挑戦の時代の幕開きといえそうだ。

※:新型コロナウイルス感染症の治療薬として承認。 ^


著者:浜田和幸
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