2020年企業倒産・休廃業の動向と今後の見通し~コロナ支援策の限界を打ち破れ(2)
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九州大学非常勤講師・フリーライター 辻部 亮子 氏
日本国内初の新型コロナウイルス感染者が確認されてから、1月16日で丸一年を迎えた。緊急事態宣言にともなう外出自粛要請などを受けて、人々の消費行動は著しく減衰、サプライチェーンの混乱もあり、企業業績はみるみる悪化した一年であった。
黒字での休廃業は過去最高水準で推移
官民一体となって打ち出された種々の支援策は、このようにコロナ禍にともなう収益激減に苦しむ企業に「事業の継続」のチャンスを与えた。だが「再起の糧」となったかといえば、必ずしもそうはいえない。というのも、企業倒産が大きく抑制された一方で、休廃業や解散はむしろ拡大したからである。
東京商工リサーチの発表(1月18日)によれば、2020年に休廃業・解散した企業は前年比14.6%増加の4万9,698件に上り、過去20年間で最多を記録した(※7)。一方、帝国データバンクの調べ(同日発表)では、休廃業・解散件数は5万6,103件で前年の5万9,225件より減少。ただし、倒産件数比は7.2倍であり、前年より拡大したとのこと(※8)。
さらに注目すべきは、黒字での休廃業の拡大である。上記の東京商工リサーチの調査では、20年に休廃業・解散した企業の61.5%が、その直前期の決算が黒字だった。帝国データバンクの調査でも、休廃業・解散した企業の業績は全体の57.1%で当期純利益が黒字であり、前年を1.7%上回った。しかもそれは、これまでもっとも高かった18年(56.0%)を上回リ、黒字での休廃業・解散の割合が過去最高を更新したという。
つまり、「赤字などで経営体力に乏しい企業ではなく、財務内容やキャッシュに余裕のある企業から自主的な廃業や解散を選択している」(帝国データバンク)ふしが認められるのである。これが、資産を失う前にビジネスモデルの劣化した現在の事業に見切りをつけ、新たな事業を興そうとする動きを表すなら、あるいは歓迎されるべきことかもしれない。が、どうやらそういう話でもなさそうである。
上記の東京商工リサーチの調査によれば、20年に休廃業・解散した企業の代表者の年齢は、70代がもっとも多く41.7%。次いで60代の24.5%、80代以上の17.9%が続き、60代以上が84.2%を占めた。帝国データバンクの調査でも、休廃業・解散企業の代表者の年齢は72歳がもっとも多く(5.4%)、平均年齢は集計開始以降、過去最高となる69.5歳だったという。
継承者不足に加え、労働人口減少に起因する年金制度危機と老後資金形成に関する「自助努力」要請、さらには、財政圧迫を理由とした医療負担額の引き上げの報に接してきた高齢の経営者たちに、コロナ禍がどのような心理を呼び起こしたか、想像に難くない。手厚いコロナ関連支援は、まずは収益減を補てんし、目下の経営破綻を回避するという意義を有しただろう。しかしながら、それがかえって、生活防衛が切実な関心事項となった高齢の経営者たちの「決断」を後押しした可能性がある。ことはマネーを供給するだけで済む問題ではなかったのではないか。
(つづく)
※7:2020年「休廃業・解散企業」動向調査(東京商工リサーチ) ^
※8:全国企業「休廃業・解散」動向調査(2020年)(帝国データバンク) ^関連キーワード
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