トクホの疾病リスク低減表示検討会、制度全般の見直しを提言
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合意に至らなかった表示の拡充
消費者庁の「特定保健用食品制度(疾病リスク低減表示)に関する検討会」は19日、特定保健用食品(トクホ)制度全般を見直すように提言した「今後の運用の方向性」を取りまとめた。これを受けて、消費者庁は2022年度以降に制度全般の見直しへ向けた情報取集を開始し、検討に乗り出す方針だ。
同検討会はトクホの疾病リスク低減表示の拡充を目指していたが、多数の委員が反対したために断念。合意できたのは、優先順位の低い施策だけだった。
合意したのは次の2点。1点目は、虫歯のリスクを低減する表現方法の見直し。現行は「虫歯の原因にならない甘味料を使用」という間接的な表示にとどまっているが、「虫歯のリスクを低減」といった直接的な表現も認める考えだ。
2点目は、許可文言の柔軟性。現行の疾病リスク低減表示は、あらかじめ決められた許可文言を用いるが、一定の範囲内で表現方法を改変できるようにする。
合意できた2つの施策について、消費者庁は21年度中に取り組む方針。「調査事業などで情報収集したうえで検討し、通知を改正する」(食品表示企画課)と説明している。
求められる健康・栄養政策との「交通整理」
同検討会の最大の目的は、「カルシウムと骨粗しょう症」「葉酸と神経管閉鎖障害」の2つしかない疾病リスク低減表示の許可文言を増やすことにあった。これに対し、多数の委員が反対に回ったのは、国の健康・栄養政策と矛盾が生じるからだ。
消費者庁は案として、欧米で実施しているという理由から、「ビタミンDと転倒」「カルシウム、ビタミンDと骨粗しょう症」を挙げた。一方、厚生労働省が進める健康・栄養政策では、ビタミン・ミネラルなどの過剰摂取によるリスクについて細心の注意を払う。
食品安全の観点から、内閣府・食品安全委員会が策定した「健康食品に関するメッセージ」でも、ビタミン・ミネラルの過剰摂取の危険性について注意を呼びかけている。
厚労省や食品安全委員会は健康被害の防止を目的に、ビタミン・ミネラルなどの過剰摂取に神経を尖らせる。これに対し、消費者庁はトクホ制度の活性化を目的に、ビタミンDの摂取拡大につながる施策を打ち出すという構図だ。
過剰摂取のリスクを検証しないまま、安易に制度を拡充するのは、消費者保護よりも業界利益を優先することを意味する。今回の検討は、誰のために行ったのかという疑問も残る。明確なのは、機能性表示食品制度の登場を背景とした業界のトクホ離れを食い止めたいという狙いだけ。
検討の結果、22年度以降にトクホ制度全般を見直す方針となった。制度全般を見直す場合も、食事摂取基準を柱とする健康・栄養政策との「交通整理」を行う必要がある。この点に注力しなければ、今回と同じ失敗を繰り返すことになる。
トクホ制度を“オワコン”にしないためには、業界のトクホ離れが進んでいる理由の精査も不可欠だ。許可取得にかかる億単位の費用、広がらない許可文言などにメスを入れない限り、トクホ制度の復活は厳しいとみられる。
【木村 祐作】
法人名
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