2024年12月29日( 日 )

五輪中止英断を心からお願い申し上げる

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「菅首相が単に根拠のない楽観論に乗って五輪に突き進む判断を示しているなら、もはや救いようがない」と訴えた3月24日付の記事を紹介する。

コロナ感染の第4波が発生し始めている。第3波のピークは1月上旬だった。菅内閣がコロナ感染拡大促進策を推進した結果として、第3波の波動は極めて大きなものになった。1日の新規陽性者数は1月8日に7,844人に達した。

菅内閣が病床確保を疎かにしてきたため、病床不足が決定的になり、多くの感染者が宿泊療養施設にも病院にも収容されず、そのまま死亡する事例が多発した。完全な人災。

コロナ感染拡大を推進した菅首相は国民の厳しい批判に晒されて、緊急事態宣言の再発出に追い込まれた。首都圏の知事が緊急事態宣言の発出を要請して、これに押されるかたちで緊急事態宣言を発出した。後手後手の対応。GoTo全面推進から一転しての緊急事態宣言の発出は、菅内閣の危機管理能力の欠落を改めて印象づけた。

日本は東アジアで最悪のコロナ被害を示している。日本の人口100万人あたりのコロナ死者数は台湾の174倍、中国の22倍、韓国の2.1倍で東アジア最悪のパフォーマンスを示す。感染収束優先に軸足を定めず、感染抑制と感染拡大推進の間で右往左往を繰り返してきた結果だ。

この菅内閣が3月21日をもって緊急事態宣言を解除した。新規陽性者数は3月に入ってから増加に転じている。人々の行動抑制も昨年春に比較すると弱いもので、2月中旬以降は行動拡大に転じている。本格的な春の到来で人々の行動が急拡大しやすい時期。このタイミングで緊急事態宣言を解除した。人流が急拡大して感染も急拡大する可能性は極めて高い。

新規感染者数の推移が12月から1月と類似した状況に移行すれば、五輪は吹き飛ぶ。その可能性は低くない。それにもかかわらず、菅首相は「大丈夫だと思う」と述べて緊急事態宣言を解除した。

これまで、菅首相の見通しはことごとく外れている。昨年のGoTo強行も結局は緊急事態宣言再発出という最悪のコースをたどった。外国人入国規制強化を見送ったものの、結局は規制強化に追い込まれた。山田真貴子内閣広報官の続投を決断したが、あえなく山田広報官は辞任に追い込まれた。今回もまた失敗を繰り返すのか。

うがった見方として、今回は菅首相が別の狙いを有しているとの指摘がある。それは、緊急事態宣言を発出して五輪中止を意図的に誘導しているというもの。緊急事態宣言を解除すれば、当然のことながら人流が急拡大する。変異株も流入していることから、感染が爆発するリスクが高い。4月から5月にかけて感染が爆発すれば、世界各国が日本への選手団派遣を取りやめるだろう。五輪を中止せざるを得なくなる。この状況を生み出すために、あえて人流が拡大するタイミングで緊急事態宣言を解除したと見る向きがある。

中途半端な状況で五輪を開催し、その五輪が悲惨なものになるなら、あえて開催しないという選択を取る。この考えに基づいてあえて緊急事態宣言を解除したというのだ。開催中止に踏み切るには、それなりの大義名分が必要になる。その条件を整えるために、より明確に感染状況が極めて深刻という状況を意図的に生み出そうとしたというもの。真偽は定かでないが、感染再爆発=五輪中止=五輪終のシナリオを明確に想定しておく必要が増していると思われる。

日本ではワクチン接種が遅々として進まない。その状況下で感染が爆発する。日本訪問を忌避する動きが世界各国から噴出する可能性は高い。

菅首相の戦法は「ノーガード戦法」と呼ばれている。コロナに対して丸腰対応。検査もせず、隔離もせず、ワクチンも接種しない。それでも「コロナがどのようなかたちでも五輪を必ずやる」のだという。竹槍精神論戦法といってもよい。日本が「神の国」だと思っているのか、いざというときには「神風が吹く」と信じているのか。

五輪を優先して、何とか五輪開催に漕ぎ着けようとするなら、それまでは歯を食いしばって感染収束を優先する。この姿勢で取り組んできたのなら、まだ理解もできる。ところが、感染が少し減少すると、GoToイート、GoToトラベル全開で、結局はGoToトラブルに陥った。これを「あぶはち取らず」という。「二兎を追う者は一兎をも得ず」ともいう。

コロナ対応に成功してきた台湾、ニュージーランド、オーストラリアは、対応がまったく違う。感染封じ込め作戦を展開してきた。基本は「検査と隔離」。無から有は生まれない。感染拡大には原因がある。ウイルスの伝播だ。ウイルスの所在を明確にして、そのウイルスを封印する。これを実現するには「検査と隔離」しか方法がない。徹底的に検査を行って、ウイルスを完全に封じ込める。この対応を愚直に実行して感染収束を実現させてきた。

日本でも可能だった対応だが、日本政府はその方法を取らなかった。「ダイヤモンドプリンセスの悲劇」が日本の政策失敗を象徴している。乗員乗客は3,711名いた。直ちに全員に対して検査を実施して、陽性者を判定し、隔離すべきだった。

しかし、日本政府は3,711人の乗員乗客のうち、当初273人にしか検査を実施しなかった。陽性者が放置され、この陽性者が次から次に感染を拡大させた。その後、ダイヤモンドプリンスとまったく同じ図式が日本全体で演じられた。

揚げ句の果て、政府が率先して感染拡大を推進するという愚行が実行された。その結果として東アジアで最悪のコロナ被害がもたらされている。安倍内閣、菅内閣の責任は重大だ。

五輪開催を強行すれば事態は一段と悪化する。昨年11月21日からの3連休が大きな分岐点だった。11月の3連休の前に明確なブレーキを踏んでいれば感染爆発は回避できたはず。しかし、菅義偉氏が自説を強引に押し通して、GoToトラベルを12月28日まで推進した。致命的な失策だった。

五輪開催で9万人もの外国人を入国させ、日本国内での活動を放置する。五輪に400万人もの観客を収容して2週間でGoToトラベル、GoToイート総動員をかける。何が起こるかは火を見るよりも明らか。

この事態を回避するために、あえて緊急事態宣言を解除して、新規陽性者数の拡大を可視化する。その数字の力をもって五輪中止の判断を内外に明示する。この目論見で緊急事態宣言を解除したのなら、そのやり方にも一理あるかもしれない。そうではなく、菅首相が単に根拠のない楽観論に乗って五輪に突き進む判断を示しているなら、もはや救いようがない。

五輪中止判断の有無が最後の分岐点になる。


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