コロナ後の航空業界の在り方(前)
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運輸評論家 堀内 重人 氏
コロナ禍により、航空業界は青息吐息の状態になっている。航空業界は、旅行業などと同様に「平和産業」と言われ、戦争やテロ、政情不安などが発生すると、需要が落ち込んでしまうという、構造的な弱点を抱えている。
コロナ禍により、国内では緊急事態宣言が発令されたり、外国では都市封鎖などが実施されるなど、人の移動を抑え込む政策が実施された。
そうすると人が動かなくなるため、大幅な減収になることで、航空業界は大きな赤字を計上してしまう。これは航空会社の営業費用の6割程度が、人件費や減価償却費、公租公課などの固定費とされることによる。さらに新型コロナウイルスの感染が拡大した序盤には、ほとんどのフライトがキャンセルされた結果、運賃の払い戻しが発生したことで、大規模なキャッシュアウトの波が襲いかかった。
航空業界が厳しいのは、日本に限ったことではなく、海外の航空会社も同様だ。タイ国際航空などの名の知れた国際的な大手航空会社まで、地域を問わず経営破綻が発生している。
JALとANAは資金調達に奔走した以外に、競うように公募増資に乗り出した。これら2社の2021年3月期は、航空需要の低迷から、JALが最大で2,700億円、ANAが5,100億円に上る最終赤字を計上する見込みとなった。
ANAのほうが赤字額が大きいのは、10年にJALが会社更生法の適用を申請して、経営破綻した際、これを契機として積極的な設備投資を行ったことが、大きく影響している。
JALは、自社便の代わりにコードシェアの提携先を、直近の2年間で12社にまで急拡大させたが、ANAがコードシェアを開始した提携先は2社だけで、自社便の運航規模の拡大に力を注いた。その結果、ANAは機材など固定資産の増加額が年間3,500億円超となり、JALの同2,000億円台前半と比較すれば、倍近い金額になる。
ANAのように、満席にできる都市を探し出し、自社の単独便を飛ばして収益の丸取りを図る戦略は、市場が拡大する局面では有効に働くが、需要が急減すると固定費が重く圧しかかる。期末に新型コロナが直撃した20年3月期の営業利益は、JALが1,006億円、ANAが608億円と、再び約400億円の差が開いた。
赤字と借り入れを増やしたことで、20年3月末から9月末にかけて自己資本比率が、JAL、ANAともに10%近く低下した。そこでJALは22.8%、ANAは29.5%の希薄化をともなうかたちで、株式市場からの資金調達に乗り出した。
2社は、公募増資などで調達した資金は、主に債務の返済と、すでに契約済みの航空機代の支払いに充当するという。
航空会社も、少しでも安心して搭乗してもらうため、機内の空気循環、客室消毒や客室乗務員・地上係員のマスク着用、利用者を区切っての機内への案内することなど、利用者に安心を提供する努力を行っている。これは機内に限らず、チェックインカウンターでも、ソーシャルディスタンスを確保したり、飛沫感染を防止するため、受付にアクリル板のパテーションを設置したり、消毒液を置いたりという対策を実施している。
しかし、増資や資金調達、安全対策を実施しても、需要が回復しておらず、その兆しも感じられないとなれば、要員合理化を実施しなければならない。
ANAは20年10月7日に、退職金の割り増しを条件に、希望退職の募集する旨を労働組合に打診した。ANAは、13年度にも希望退職を募ったが、その時とは以下の点で、根本的に異なる。
(1)今回は、募集人員の規模を定めない。
(2)2020年冬の一時金をゼロにする。
(3)一般社員の給料の減額。
(4)スキルアップなどの条件付きだった最大2年間の無給休業制度を、事由を問わないかたちに切り替える。20年夏季の一時金が、従来比で50%減となったこともあり、社員の年収は前年比で約3割減となる。
ANAは、20年3月末時点で1万4,830人の従業員を抱えていたが、コロナの影響で4~8月までの旅客数は、国際線では前年同期比で96.3%減と、壊滅的な状態になった。国内線も、同82.2%減と大きく低迷した。
一方のJALは、「人員削減はまったく考えていない。必ず航空需要は戻るので、準備をしっかりする」と雇用維持を貫くと明言した。
(つづく)
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