2024年11月17日( 日 )

小売こぼれ話(3)ユニクロという生き方

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

ユニクロ ニトリ イメージ いま、アパレルや家具はどちらかというと元気のない業界だ。ヤマダデンキ傘下になった大塚家具や会社清算に至ったレナウンはその典型例であるが、他の企業も厳しい流れのなかにある。

 そんな中で好調な業績を続ける企業がある。ファッションではユニクロ、家具ではニトリだ。彼らの企業は従来型の製販分業の小売手法から差別化しており、企画、製造、販売のチャネルを直接コントロールする自社ブランド企業だ。

 お客は購入したい商品を選ぶとき、その価格を他店と比較する。しかし、彼らが取り扱う商品は彼らの店に行かなければ買えない。当然、価格競争はない。売れる値段で価格設定をして、事前調査で生産量を決め、販売実績次第でその調整も可能だ。余分な在庫をもたなくていいのは、小売業にとって極めて重要なことだ。なぜなら、在庫は売上のもとであるとともに利益ロスにも直結するからだ。

 もう1つの見逃せないポイントは高い粗利益率だ。価格競合がない分、厚めの値入率の設定ができる。これこそ「メイク ア ディファレンス」(違いが出る)だ。

 たとえば、仕入れ比率が高い従来型小売業のしまむらの粗利益率は32.5%。一方SPAのユニクロは48.6%である。この差は大きい。仕入れ商品を販売するしまむらのような小売業は、メーカーが企画し、製造した商品を販売する。メーカーが情報を集め、過去の販売実績や将来の流行予測などを基に商品をつくる。小売はその商品をいろいろな視点で検討し、導入を決める。いわば二者によるコストとリスクの分担である。リスクが軽くなる分、粗利益率も低くなる。

 大きな利幅が取れないしまむらは店舗段階での経費節減が必須になる。正社員は雇用できないし、地代に直結する立地の制限もある。店舗の建設コストもできるだけ安くしなければならない。

 違いはまだある。1店舗あたりの売上だ。しまむらの2億5,500円に対し、ユニクロは5億8,000万を超える。1m2あたりの売上はしまむらの2.8倍だ。さらに大きく異なるのが取扱いアイテムだ。しまむらの約40.000SKU()に対して、ユニクロはその100分の1にすぎない。

 しまむらは300坪の店舗に多くの商品種類を詰め込み、豊富観と多様な選択肢を提供することで主婦層を中心に人気がある。

 一方、ユニクロは思い切った商品種類の絞り込みと大量出店を武器による大量発注で素材のコストダウンを図り、さらに高い技術を持つ海外の縫製メーカーを確保する。販売アイテムの少なさはコーディネート提案による買い上げ点数アップでカバーし、その客層は若者から団塊の世代まで幅広い。

 小売業の場合、何より大切なのはより多くの商品(在庫)を正価で販売することだ。それができないと、値下げロスによる利益の喪失だけでなくお客の価格への信頼をなくすことになる。たとえば、1,000円で買った商品が数日後に半額の500円で販売されているのを見て、早めに買ってよかったと思うお客はいない。半ば怒りの気持ちで半額に値下げされた商品を見るのが普通だ。日ごとに、あるいはシーズンごとにそんなことを繰り返していれば、お客は値下げした商品しか買わなくなる。そうなると売り場の崩壊だ。

 かつて栄華を誇ったGMS(総合スーパーマーケット)は、商品の陳腐化に加えて、頻繁な価格変更で通常価格で買ってくれるリピーターを失ったことで衰退した。今のところユニクロもしまむらも、シーズン末期でも売り場が壊れるような価格の乱れはない。その理由は適正な商品販売計画と広すぎない店舗面積だ。広い売り場面積はそれなりの在庫量と客数を必要とする。そのバランスが壊れると必ず売り場は荒れる。

 ファッションに限らず、小売で最も重要なのは繰り返し来店してくれるリピーターだ。ユニクロの中心商品はカジュアル。肌着や雑貨、キッズウエアもある。以前のユニセックス、ロープライス、コーディネートにそれなりの肉付けをし、フリースなど自らブームもつくりながら今に至っている。

 ユニクロの商品特徴は消耗品度が高いことだ。2シーズンも使えば買い替え需要が発生するからリピート率が高い。カジュアルだけにテイストを少しずつ変えていけばそのニーズが極端に落ちることもない。

 強いていえば将来性だ。国内はロードサイドもショッピングセンターも埋め尽くした感のあるユニクロだから、人口増が見込めない国内での成長は大きく期待できない。成長の余地は海外ということになる。そのため、いかにカントリーリスクがあろうと成長を望む限り、海外出店は避けて通れない。

 今や世界有数のアパレル企業に成長したユニクロだ。ウイグル問題などいささかの障害があっても、しばらくはそのポジションが揺らぐことはないだろう。

 しかし、消費者はいつか飽きる。時代も変わる。時代が変わればニーズも変わる。ユニクロにはおしゃれ感がない。あくまで、ワンマイルウェアを延長したカジュアルつまり普段着だ。安くておしゃれな服や服飾雑貨。そんな企業が出てくればユニクロも盤石ではなくなる。

(了)

【神戸 彲】

※:受発注や在庫管理における最小の管理単位。 ^

(2)-(後)
(4)-(前)

関連キーワード

関連記事