2024年12月23日( 月 )

日本経済転落に拍車をかけた安倍経済政策(後)

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政治経済学者 植草 一秀 氏

失敗の本質

政治経済学者 植草 一秀 氏
政治経済学者 植草 一秀 氏

 1980年代後半のバブル生成、1990年代以降のバブル崩壊過程での経済政策運営が最悪だった。バブル生成を未然防止できなかったのは大蔵省出身者が日銀を仕切っていたため。バブル生成期にアクセルをふかし、バブル崩壊始動後に強烈なブレーキを踏んだ。バブル崩壊が始動してから不動産融資に対する総量規制が実行された。バブル生成期にブレーキを踏み、バブル崩壊始動後はアクセルに踏み換えるべきだが、逆をやった。素人の経済政策運営。最大戦犯は大蔵省=財務省。

 財務官僚は法律、行政の専門家であっても経済政策の専門家でない。彼らが経済政策の実権を握り続けているために日本経済が迷走している。1992年に不良債権問題が表面化した際、大蔵官僚が示した対応は「隠ぺい、場あたり、先送り」だった。このために、金融問題処理に20年の時間を要することになった。

 新自由主義経済政策を埋め込んだのは2001年発足の小泉・竹中内閣。「構造改革」はグローバル大資本が日本からの収奪を目的に指令したもの。「改革なくして成長なし」と叫んだが、日本経済の成長はいまも実現していない。実現したのはグローバル資本利益と構造改革エージェントの「私腹」成長だけ。

 棚からぼた餅の森喜朗首相が2001年自民党総裁選で地方票を3倍にしたことで日本政治潮流が変質した。小泉政権誕生が自民党主導権転換をもたらした。福祉国家観を有する平成研(旧・田中派)から市場原理主義の清和研(旧・福田派)に自民党主導権が移行した。

 2012年12月総選挙で安倍自民党は「TPP断固反対」のポスターを貼りめぐらせた。ところが、選挙から3カ月も経たぬ2013年3月15日、安倍首相はTPP交渉への参加を表明。米国と協議を行った。この協議で日本政府は不平等条約を受け入れた。「日本国の規制の枠組み」について「外国投資家その他利害関係者から意見および提言を求め」「日本国政府は規制改革会議の提言に従って必要な措置をとる」ことを確約したのだ。この不平等条約によって日本の諸制度が次から次に改変されている。

 国のトップが私的利害を優先する為政者の質の劣化が深刻化している。森友、加計、桜を見る会での政治私物化は目を覆うばかり。菅首相がGotoキャンペーンや五輪開催強行に固執する理由は利権と自己の政治的利益拡大だ。国民の命より自分の私的利害を優先する。首相だけでない。規制改革に関与する者が自己の私的利益拡大につなげて大きな顔をしている。政商納言の跳梁跋扈は日本の衰退を如実に示すものだ。

福祉国家追求への転換

 日本経済衰退は公的部門のみならず民間部門にも波及している。日本企業は工業化社会で成功を収めたが、ポスト工業化社会で完全に劣後した。最大の原因は人材の枯渇。企業が能力ある者を登用できない。多くの大企業が体育会系体質に染まっている。淵源は日本の教育システムにある。

 日本の学校教育システムで重要視されるのは「覚えること」と「従うこと」。よく覚え、よく従う者が優等生。体育会はこの掟を厳格に適用する組織。工業化社会では弊害が目立たなかったが、時代が変化した。

 本来重視される能力は「考えること」と「発言すること」。多種多様な意見、考え方を尊重することが重要。日本が教育システムを改革できなければ、時代を担う人材を輩出できなくなる。

 経済政策では新自由主義経済政策を福祉国家追求経済政策に転換することが求められる。クーデンホフ・カレルギーが説く「友愛」の理念が新自由主義、市場原理主義への抑制概念思想になる。内政における「福祉国家」追求と国際政治における「近隣融和」の追求が「友愛」理念の現代日本における再定義になる。

 同時に為政者の質の向上が急務。財政支出の透明化、公正化も重要課題。コロナを口実にした巨大国家予算の私物化=利権化が広がっている。政治刷新へのうねりを総選挙に向けていかに高めるか。日本は正念場に差しかかる。

(了)


<プロフィール>
植草 一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。また、政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

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