2024年11月22日( 金 )

中国電池メーカーCATLの独走と競合他社の対応(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 ドイツ、英国による2030年を期限としたガソリン・ディーゼル車の新規販売禁止や、多くの国の政府が競うように高い脱炭素目標を表明したことにより、 国内外でEV(電気自動車)へのシフトが一段と加速しはじめた。次世代電池である「全固体電池」に対する期待はますます高まっているが、「全固体電池」の商用化には課題もある。今回は「全固体電池」の商用化の動きと、商業化の実現に向けた各国の対応戦略について取り上げる。

解決に向けた各国企業の対応

電気自動車 イメージ 韓国企業はリチウムイオン電池のなかでも、NCM(ニッケル、コバルト、マンガン)電池に強い。NCMは正極の材料であり、このなかでも電池の効率を左右するのはニッケルである。ニッケルの含有量が高いほど電池の性能はよくなる一方、安全性は低下する。ニッケルの含有量を高めながらも、安全性が担保される電池の開発に注力している。

 ニッケルの含有量が高くなると、その分コバルトの量が減少し、価格メリットも出てくる。たとえば、NCMA(ニッケル、コバルト、マンガン、アルミ) 電池の場合、ニッケルの含有量は89~90%に達し、コバルトは5%以下を占めている。アルミは1tあたり約1,500ドルであるが、コバルトは1tあたり約3万ドルだ。一方、中国企業はナトリウムイオン電池の開発に力を注いでおり、価格の高いリチウムの代わりにナトリウムを使うことで、大幅な価格の削減を狙っている。ところが、ナトリウムイオン電池にも弱みがある。ナトリウムイオン電池のエネルギー密度は、リチウムイオン電池の3分1にすぎない。

もっとも有望視されている「全固体電池」の開発状況

 リチウムイオン電池の課題を解決できる電池として最も有力視されているのは、「全固体電池」をである。「全固体電池」とは、既存電池の構成材料である「セパレーター」と「電解液」の代わりに「固体電解質」を使う電池だ。既存のリチウムイオン電池には、可燃性溶媒の電解液が使われており、条件がそろうと火災事故につながるが、全固体電池は電解液の代わりに不燃性の固体電解質を使っているため、火災のリスクが低減されている。

 「全固体電池」は現状のリチウムイオン電池に比べて小型・安全、航続距離の拡大などのメリットがあり、実用化競争が加速している。世界的な電池会社をはじめ、完成車メーカーまで参画して開発競争が行われているが、全固体電池の開発で先行しているのは日本である。リチウムイオン電池市場での地位低下を挽回する切り札として、日本は「全固体電池」の開発に取り組んでいる。「全固体電池」が商用化されると、電池市場の勢力図は大きく変わるだろう。

 ところが、期待が集められている「全固体電池」であるが、実用化に向けた課題は多い。「全固体電池」といっても、電解質の種類によって大きく3つある。高分子系、酸化物系、硫化物系だ。車載電池に最も適しているのは硫化物系のようだ。酸化物系の固体電解質が実用化されているが、これはイオン伝導率が硫化物系に比べて1桁小さいため、車載用に適さないという。電解質の性能がまだ不十分であり、使えば使うほど内部抵抗が発生し、電池の寿命が短くなるという課題も抱えている。材料コストと電池製造プロセスのコストが、リチウムイオン電池比べて4倍ほど高いことも解決が必要とされる。

 しかし、このような課題も時間とともに解決され、2030年ごろになると、「全固体電池」の導入が本格化されると予想されている。そのころには電気自動車市場の20~30%は「全固体電池」で占められるという。冷却装置がいらず、小型かつ軽量で、エネルギー密度も高く、航速距離が長く、発火の懸念のない「全固体電池」の実用化をめぐって、世界各国では開発競争が熾烈化している。

(了)

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