緊縮思想に支配される日本 政府支出を拡大せよ(前)
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京都大学大学院工学研究科 教授 藤井 聡 氏
今の日本には、「政治的決断」がない。「国の『借金』を増やすべきでない」と何の判断もなく緊縮財政を続け、消費増税と支出削減を行ったことが経済低迷を生み出した。コロナ禍の日本を立て直すために必要なのは、一見正しそうな緊縮財政ではなく、プライマリーバランス(PB)黒字化目標を凍結して国債を積極的に発行し、消費税の凍結、粗利補償を行うことだ。
「政治」がない今の日本社会
今の日本社会には「政治」が存在していない。「政治」とは、状況を把握しながら、なすべきことを考えて決断して実行することだ。つまり、政治の本質は「政治的決断」にあるが、今の日本にはそれが存在していない。
これまでの日本は政治的決断がなくても、何となくやってこられた。第二次世界大戦後は、外交や安保問題をアメリカにすべて任せることができたため、国民が政治のことを考えず金儲けだけに勤しんでいれば、政府が政治的決断を何もしなくても経済成長できて、それぞれの国民が少しずつ裕福になっていくことができた。それが高度成長期の成長であり、バブル時代の好景気だったのだ。
しかし、政治が巨大な間違いを引き起こしてしまい、日本は「地獄」に落ちていくことになる。それが、1997年の消費増税だ。バブル崩壊後に経済対策を行った政治は、国債発行額が少し増えてしまったことに肝を冷やした。何もせず民間に経済を任せておけばよかったにもかかわらず、政府は「政府の借金が増えてきた。このままでは日本は破綻する」と震え上がって動揺し、経済専門家は愚かなことに「安定財源となる消費税を3%から5%に増税しよう。これなら、バブル崩壊後の不景気の時代でも変わらずに税収が入ってくるから政府も安泰だ」と言い出した。このような愚かな学者なりエコノミストなりのアドバイスを真に受けて、政府は消費税を増税した。それによって、デフレになったのだ。
デフレになったときに成すべきことは、財政赤字=政府支出の拡大だ。そんなことは誰が考えてもわかる話であり、マクロ経済学の教科書にも書いてある。そのため、諸外国は当たり前のように実行している。リーマン・ショック時のアメリカや中国は、巨大な財政赤字の拡大を行い、デフレ化を防いだ。今回のコロナ不況でも、欧米は未曾有の財政赤字の拡大を行い、コロナ不況からの脱却を図ろうとしている。しかし、日本にはそもそも「政治」がなかったため、財政赤字の拡大をはたすという政治決断ができず、今もなお、できていない。それはただ、戦後の日本人に「政治的決断」ができないためだ。
経済低迷の原因は緊縮財政
日本経済の低迷の原因となっている緊縮財政は、一種のイデオロギーともいえる。「政治的決断をしない」「政治的実践をしない」という思想だ。
そもそも緊縮とは、入ってくる税金以上の支出は行わない、つまりプライマリーバランス(基礎的財政収支、PB)黒字化を実現させるものだ。子どもの家庭教育でいうなら、緊縮とは引きこもりのようなもので、「何もしない」というイデオロギーであり、もっぱら税収として入ってくるものをゴミ箱に捨てるわけにいかないため、「別に何かやりたいわけではないが、一応、何かやりましょう」という態度だ。このような態度で、デフレ脱却などできるはずがない。
ただし、「引きこもり児」(緊縮財政の政府)が積極的に行う行為が1つだけある。それは、部屋(政府の金庫)のなかにいろいろなものをもってくるという行為だ。引きこもり児は自分から外に出ることは忌み嫌うが、部屋は大好きなので部屋のなかにゲームやポテトチップスをもってきたり、インターネットを引くという行為だけは「積極的」に行おうとする。消費税増税とは、まさに引きこもり部屋に外部のものを積極的に引き込む行為であり、政府は消費税増税を行って、政府の金庫にたくさんのお金を引き入れようとしているのだ。
一方、日本政府の場合は、引きこもり児よりさらに悪い状況にある。通常の引きこもり児であれば、外部のものを引き込んでも親がしっかりしている限り、引きこもり児の収入が減少することはない。しかし、消費税増税の場合は、増税すると外部の経済環境が激しく冷え込んでしまうという大きな問題がある。いわば、引きこもり児が欲しがるものを親が与えてしまえば、その家庭(政府)の収入が減って家庭そのものが壊滅的になってしまうのが、日本の消費増税なのだ。
事実として、日本は消費増税によって消費が冷え込み、増税後も消費が伸びなくなり、その結果、経済成長ができなくなった。経済成長できないがゆえに、税収も少なくなる。こうして日本経済は壊滅的な状況になり、貧困と格差が広がった。
(つづく)
<プロフィール>
藤井 聡(ふじい・さとし)
1968年生まれ、奈良県生駒市出身。京都大学工学部土木工学科卒。93年京都大学大学院工学研究科修士課程土木工学専攻修了。93年京都大学工学部助手、98年に京都大学博士(工学)取得。2000年京都大学大学院工学研究科助教授、02年東京工業大学大学院理工学研究科助教授、06年東京工業大学大学院理工学研究科教授を経て、09年に京都大学大学院工学研究科(都市社会工学専攻)教授に就任した。11年京都大学レジリエンス研究ユニット長、12年に京都大学理事補、内閣官房参与を歴任。『表現者クライテリオン』編集長。関連記事
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