矢野次官論考が示す財政運営危機
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NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は財政バランスの悪化を放置するべきではないと訴えた10月27日付の記事を紹介する。
財務省事務次官の矢野康治氏が文藝春秋2021年11月号に寄稿した文章が大きく取り上げられたが内容は稚拙そのもの。
政府債務が大きく国家財政が破綻するとの「オオカミ少年」の言葉が繰り返されているだけだ。
後藤田正晴氏の「勇気をもって具申せよ」を実践したとの美談仕立てだが、内容に説得力がまったくない。
財政危機論の論拠は
「政府債務が1166兆円に達し、GDPの2.2倍になっており、先進国で
ずば抜けて大きい」というもの。
財政危機に直面した、あのギリシャでさえ、政府債務のGDP比は170%だった。
この主張にころりと騙されたのが菅直人氏だった。
2010年に菅直人氏は消費税増税の主張を示せば人気が出ると判断した模様。
民主党内クーデターで鳩山内閣総辞職後に首相の地位を強奪した直後、菅直人氏は2010年6月17日の参院選公約発表会見で、突然、消費税率10%への引き上げ公約を公表した。
この政策提示で民主党は参院選で大惨敗。
2009年の政権交代の偉業を根底から破壊した。
政策責任者は玄葉光一郎氏だった
民主党は2009年の総選挙で
「天下り根絶なくして消費税増税なし」
を訴えた。
この主張をもっとも大声で叫んだのが野田佳彦氏。
この野田佳彦氏が菅直人氏の後に後継首相に就任。
天下り根絶に手を付けず、シロアリを一匹も退治しないまま、消費税率を10%に引き上げる消費税増税法を強行制定して自爆解散に打って出た。
民主党は壊滅的敗北を喫して現在に至っている。
日本財政が危機に直面しているのかどうかを判断する最重要指標は政府債務残高でない。
企業の財務状況を診断するときに債務残高だけを注視する手法はない。
破綻危機ランキングが債務残高ランキングと同じになってしまう。
あるいは、債務残高の売上高比、債務残高の営業利益比、債務残高の経常利益比ランキングと同じになってしまう。
政府の財務状況は債務だけでなく資産を合わせて判断する必要がある。
内閣府が発表している国民経済計算統計によると、日本政府の負債残高は1335兆円。
たしかに1000兆円を超えている。
2019年のGDP559.9兆円の2.4倍。
矢野氏はこの数値をもって日本は財政危機に直面していると主張する。
木を見て森を見ず。
矢野氏は日本政府の資産残高に言及しない。
国民経済計算統計には日本政府の資産残高も記載されている。
2019年末の政府資産残高は1439兆円。
負債残高よりも99兆円多い。
日本政府は資産超過の状態にある。
この状態で財政破綻は生じない。
メディアは財務省の言いなりで、日本国民1人あたり1,000万円の借金を背負うと連呼して財務省キャンペーンに加担するが、「債務」ではなく、「純債務」で表示するのが適正であることは常識に属す。
財務省は政府債務残高に言及するが政府資産残高に言及しない。
日本政府は巨大な資産を保有している。
資産の45%が金融資産で55%が非金融資産。
直ちに現金化できないものもあるが政府資産であることに変わりはない。
3億円の借金があって大変だと叫ぶ人がいたとしよう。
周りの人は、それは大変だと気の毒に思うだろうが、その借金主が重要なことを語っていなかったら話が変わる。
実は当人は3億1,000万円の資産を保有している。
「借金が3億円あって大変だ」
の発言は大嘘だと叩かれるだろう。
政府の財務状況は資産負債バランス、貸借対照表、バランスシートで論じるべきもの。
矢野氏の論考には政府資産への言及が皆無。
この時点で論考が批評の対象にもなり得ぬ稚拙なものであると断ぜざるを得ない。
私の指摘を気に留めてのことと思われるが、財務省は財政関係資料で政府のバランスシートを公表し始めた。
財務省サイトに財政統計が掲載されている。
サイトが改変されて極めて使い勝手が悪くなった。
財務省が公開する政府のバランスシートは「広報・報道」>「広報誌・パンフレット・刊行物」>「財務省関係パンフレット」のページに表示される
「日本の財政関係資料(令和3年4月)」
で確認できる。
最下段の「(参考)会計情報とPDCAサイクル」に
「国の貸借対照表」
として示されている。
この数値を見ると、2020年3月末の数値として、592兆円の債務超過であると記されている。
内閣府が発表する数値は2019年末時点で99兆円の資産超過。
財務省計数では2020年3月末時点で592兆円の債務超過。
財務省計数では財務状況が極めて悪いということになる。
両者には違いがある。
内閣府統計は一般政府。
財務省計数は国=中央政府なのだ。
「一般政府」は「中央政府」「地方政府」「社会保障基金」からなる。
財務省の計数は中央政府だけのもの。
「一般政府」と「中央政府」で大きな相違が生まれる理由は、財務省が表示する「中央政府」の「非金融資産」が極めて小さく計上されていることによる。
公共事業等で建造される実物資産等の大半の所有権区分が地方政府とされているからだと考えられる。
※続きは10月27日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」「矢野次官論考が示す財政運営危機」で。
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