2024年11月24日( 日 )

2022年の流通展望(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

2022年、新時代の勝者は?

デリバリー イメージ    世界最大のリアル小売業ウォルマートが2020年、西友を手放して事実上我が国から撤退した。過去60年間、世界各地に店舗を増やすことで拡大を続けたウォルマートだが、本拠地米国でもその出店数が19年に続いて20年も減少した。店舗を増やすことでより有利な商品調達を行い、価格戦略で成長したかたちを変えつつあるのだ。

 ドイツのメトロも昨年10月に日本から撤退した。02年に1号店をオープンしたものの、関東1都3県の10店舗から店数を拡大することなく、20年の歴史に終止符を打ったのだ。このことは今後の小売業が大きく姿を変えることを象徴する出来事になるのかもしれない。それはリアル店舗出店の終焉だ。店の数が力の象徴であり、成長のバロメーターという従来の構図が終わるということだ。

 一方、進出後、順調な成長を続けるのがアマゾンとコストコだ。オンライン小売のアマゾンは限りない商品アイテムに加え、東北から九州まで27カ所の自社配送拠点と配送センター、出品企業からの直送でその対象商圏は全国を網羅する。リアルに不可欠の立地選定や店舗の建設にともなうコストも、店舗運営のための人員も不要だ。国内小売にとって異次元の競争相手ということになる。

 リアルにもかかわらず、独特の存在が注目されるのがコストコだ。わずか4,000アイテムの商品はその多くが輸入品。国内メーカーが提供する商品も既存品と提供サイズが違うので、メーカーとしても国内小売に気兼ねなくコストコと取り組める。

 売り場のレイアウトや雰囲気もいかにもアメリカといった風情だ。デリカテッセンをはじめ、チーズやナッツや雑貨を含めたほとんどの商品はコストコに行かなければ手に入らない。一品単価が高く、買い物頻度も低いのでカートの中身から見て客単価はおそらく国内スーパーの10倍を超える。この点も極めて特殊だ。いわゆる「make a difference」の結果といえる。そんな見方をすれば、アマゾンとコストコの成長は今年も変わらず継続するのだろう。

新たな試みと変化

 ウォルマートに代わって西友の経営に乗り出した楽天は、そのトップに多様な業態を経験した日本人経営者を迎えた。ただ、オンラインに傾斜する経営はおそらく従来型の成功体験がそのまま通用することはない。顧客第一主義や品質重視といった基本事項の徹底といった手法だけで解決できない新次元の発想と投資が必要だ。そんな見方をすると西友・サニーの現状が劇的に改善できるか疑問である。

 それでも外資に代わって、アマゾンと同じ土俵でリアルを在庫、配送拠点とする楽天の新手法がどの程度成功するかは新経営者の手腕とも相まって、流通業界の大きな注目事項だ。

 時代が変わると市場の風も連動する。ここ数年各社が取り組みを始めたオンライン宅配は設備コストだけでなく、ピックアップと配送のコストが大きくのしかかる。設備は新しくつくらなくても楽天や既存スーパーマーケットのように既存の店舗で代替できるのだろうが、リアルとピックアップセンターの共用は、品切れやオンラインで受けた注文品をそろえるピッカーが買い物に邪魔だという来店客のクレームが発生する。

 さらに、問題なのがラストワンマイルといわれるノウハウとコストの問題だ。それはいまだに効果的な解が見えない。しかし、ここにも新たな風は吹き始めている。まず、宅配の担い手の増加だ。ウーバーイーツや出前館といった料理宅配がネットスーパーの配送に乗り出す検討をしている。ギグワーカーと呼ばれる個人請負者がラストワンマイルを担う構図が新たに生まれるということだ。新聞販売店やタクシーもそれに加わるかもしれない。

 アメリカではロシア発の「Buykバイク」がアプリ利用で受注後15分という超高速で食品を届ける方式でニューヨークでの営業を開始した。小型のダークストアで商品をストックし、その近隣を対象に短時間配送を可能にしている。酒宅配のカクヤスのようにルーラルでは難しいこのシステムも、人口が集中する地域では一気に消費者の支持を拡大する可能性がある。

 競争は新たなシステムと高い効率を生む。やがては配達員に代わって配送ロボットがラストワンマイルを担うことになるだろう。配送する商品も生鮮品や加工食品だけでなく、ミールキットといわれる食材、調味料、レシピを一緒にした手間のかからないメニューセットも本格的にそのラインに加わるはずだ。

(つづく)

【神戸 彲】 

(後)

関連記事