2024年11月23日( 土 )

既存メディアの衰退と新メディアの台頭について(5)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

『週刊現代』元編集長
元木 昌彦 氏
ビデオニュース・ドットコム代表
神保 哲生 氏

 この国のマスメディアの腐敗は確実に、深く進行していて、もはや後戻りのできないところまできてしまっていると、思わざるを得ない。東京五輪のスポンサーに朝日新聞を始め、多くのマスメディアがこぞってなったとき、ジャーナリズムとして超えてはいけない“ルビコン”をわたってしまったのである。その後も、NHKの字幕改ざん、読売新聞が大阪府と包括協定を結ぶなど、ジャーナリズムの原則を自ら放棄してしまったと思われる出来事が続いた。
 神保哲生さんは、そんななかで、希少生物とでもいえる本物のジャーナリストである。彼が「ビデオニュース」社を立ち上げた時からのお付き合いだが、時代を射抜く目はますます鋭く、的確になっている。神保さんに、マスメディアの現状とこれからを聞いてみた。

(元木 昌彦)

左から、『週刊現代』元編集長 元木昌彦氏、ビデオニュース・ドットコム代表 神保哲生氏
左から、『週刊現代』元編集長 元木昌彦氏、
ビデオニュース・ドットコム代表 神保哲生氏

「お芝居」記者会見は変わらないのか

『週刊現代』元編集長 元木 昌彦 氏
『週刊現代』元編集長
元木 昌彦 氏

    元木 内閣記者会の会見の方法を変えようという意見は出ませんか。

 神保 記者クラブから質問の事前提出をやめてほしいという要望が出たという話は聞いていません。そもそも質問の事前提出は制度的なものではなく、首相官邸の報道室のスタッフが記者クラブ加盟社の間を回って質問を取りまとめているだけなので、報道機関側も強制されているわけではなく、自主的に応じるかたちになっています。でも実際は、提出に応じなければ質問に当ててもらえないので、実質的に強制と同じです。

 元木 それは巧妙なやり方ですね。

 神保 官邸サイドとしては、総理がすべてのデータを暗記しているわけではないので、だいたいどんな質問になるのかを事前に聞いておいて、総理の答弁をサポートするためのメモを用意しておきたいという、一見正当な理由付けができるようになっています。ただ、その実態は、記者は事前に提出された質問と一言一句、同じ質問しかしませんし、データを書いたメモというのも、事実上首相の読むべき答えが丸ごと書かれている、単なるカンペイオ(=カンニングペーパー)です。菅さんが棒読みしてくれたおかげで、メモには読むべき回答が丸ごと書かれていることが、期せずして明らかになってしまいました。また、質問に対する首相の回答が不十分であっても、首相会見では追加質問ができないルールになっています。首相官邸と記者クラブの間ではそういう取り決めがあるのかもしれませんが、我々はそんなルールには同意していないので、記者席から大声で追加質問をしたりしますが、そのときはマイクが切られているので、その声はほとんどお茶の間までは届きません。結局、首相に無視されてしまえばそれまでです。

 元木 両者の馴れ合いですが、意見が出ないようにしているのですね。

ビデオニュース・ドットコム代表 神保 哲生 氏
ビデオニュース・ドットコム 代表
神保 哲生 氏

    神保 記者クラブ制度の最大の問題は、記者クラブに配属された主要メディアの記者たちが物理的に行政機関に取り込まれることで、本来は市民社会の側に立たなければならないはずのジャーナリズムが、政府の目線からしか物事を見れなくなってしまうことです。記者クラブに配属された記者は、政府庁舎内にある記者室に常駐し、朝から晩まで官僚と接触して過ごします。そんな生活を2、3年も続けていると、政策観のみならず世界観までが行政官僚と一体化してくるのは、ある意味では当然のことです。

 しかも、とくに最近、日本で記者クラブに所属する大手メディアに入ってくる若者は、市民側よりも体制側のマインドをもっている場合が多くなっている印象を受けます。諸先輩方からは、昔はそうではなかったという愚痴がこぼれるのを耳にしたりしますが、少なくとも最近は、下手に市民運動などに関わっていると、就職のときにメディアからも忌避されるようになっていると聞いています。

 結局、得てして高学歴で高収入、エリート意識も強い大手メディアの社員たちは、官僚とも話が合いやすく、彼らの考え方ともともと、親和性が高いのだと思います。それがさらに物理的に省庁のなかに常駐して多勢に無勢の状態に置かれていると、知らず知らずのうちに、自分の物の見方が体制側に偏ってくるのは当然のことです。しかも、その彼らが記者クラブを通じて政府への情報アクセスを独占し新規参入者を排除しているため、政府側の視座に偏った情報しか社会に流通していきません。

(つづく)

【文・構成:石井 ゆかり】

▼おすすめ記事
酔いどれ編集者日本を憂う(前)


<プロフィール>
元木 昌彦
(もとき・まさひこ)
1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に講談社を退社後、市民メディア『オーマイニュース』編集長・社長。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。現在は『インターネット報道協会』代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。

神保 哲生(じんぼう・てつお)
1961年東京生まれ。15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信など米国報道機関の記者を経て独立。99年、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立し代表に就任。主なテーマは地球環境、国際政治、メディア倫理など。主な著書に『ビデオジャーナリズム』(明石書店)、『PC遠隔操作事件』(光文社)、『ツバル 地球温暖化に沈む国』(春秋社)、『地雷リポート』(築地書館)など。

(4)
(6)

関連キーワード

関連記事