2024年11月22日( 金 )

既存メディアの衰退と新メディアの台頭について(6)

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『週刊現代』元編集長
元木 昌彦 氏
ビデオニュース・ドットコム代表
神保 哲生 氏

 この国のマスメディアの腐敗は確実に、深く進行していて、もはや後戻りのできないところまできてしまっていると、思わざるを得ない。東京五輪のスポンサーに朝日新聞を始め、多くのマスメディアがこぞってなったとき、ジャーナリズムとして超えてはいけない“ルビコン”をわたってしまったのである。その後も、NHKの字幕改ざん、読売新聞が大阪府と包括協定を結ぶなど、ジャーナリズムの原則を自ら放棄してしまったと思われる出来事が続いた。
 神保哲生さんは、そんななかで、希少生物とでもいえる本物のジャーナリストである。彼が「ビデオニュース」社を立ち上げた時からのお付き合いだが、時代を射抜く目はますます鋭く、的確になっている。神保さんに、マスメディアの現状とこれからを聞いてみた。

(元木 昌彦)

左から、『週刊現代』元編集長 元木昌彦氏、ビデオニュース・ドットコム代表 神保哲生氏
左から、『週刊現代』元編集長 元木昌彦氏、
ビデオニュース・ドットコム代表 神保哲生氏

NHK字幕改ざん問題は氷山の一角

『週刊現代』元編集長 元木 昌彦 氏
『週刊現代』元編集長
元木 昌彦 氏

    元木 私はNHKというのは「国策会社」だと思っていますが、ここでも大きな問題が起きています。昨年12月にNHK・BS1で放送されたドキュメンタリー『河瀬直美が見つめた東京五輪』では、番組に登場した男性が、お金をもらって五輪反対デモに参加しているという字幕を流してしまった。

 放送後にそうした事実を当事者に確認もせず流したことが判明して、NHKはお詫びしましたが、事実を改ざんしたのであれば謝ってすむ問題ではない。五輪公式監督の河瀬氏は、知らなかったといっていますが、事前に知っていて、了解していたのではないかという疑惑が拭えない。

 神保 今回NHKで、事実が捏造されるようなかたちで改変が行われていたことには、正直驚きました。東京五輪の聖火ランナーの生中継で「五輪反対」というデモの声を消して無音で放送するような、いわば消極的な改変や自主規制の類いはこれまで何度もありましたが、ありもしないことを捏造するのは、やや次元が異なります。

 そこにあるはずのものを消したりカットするようなタイプの改変は、東京五輪に限らず、またNHKに限らず、既存のメディアでは年がら年中、目にします。たとえば、外国人へのインタビューに声優さんの日本語の吹き替えを乗せる際、オリジナルの音声をほとんど聞こえないレベルまで絞ることで、都合よく翻訳した吹き替えをボイスオーバーするようなことは、テレビでは当たり前のように行われています。そればかりか、日本語のインタビューでさえ、文章を途中で切り貼りすることで、オリジナルとは主語が変わっているようなこともあります。それをやると映像はジャンプカット(不自然なつなぎ)になってしまいますが、映像のつなぎ目にインタビュアーのカットを挟めば、そのような切り貼り編集が行われていることは、よほど注意していなければ視聴者からはわかりません。

ビデオニュース・ドットコム代表 神保 哲生 氏
ビデオニュース・ドットコム 代表
神保 哲生 氏

    先ほどの「五輪反対」というデモの声が消された事例でも、あれは現場からの生中継中のことだったので、局の部長やプロデューサー、ディレクターのような責任のある地位にある人が決めたのではなく、中継時の技術担当のTD(テクニカルディレクター)が瞬時に判断してやったはずです。現場のTDがNHKにとって不都合になりそうな音声を咄嗟の現場判断で絞ることができてしまうというのは、とても恐ろしいことです。そのような体質がNHK全体に浸透していることを示唆しているからです。

 NHKは2001年放送の『ETV2001 問われる戦時性暴力』での番組改変問題が、政治的な圧力に屈して番組内容を改変する局の方針に逆らったスタッフが、一様に制裁を受けるかたちで決着して以来、自主規制に対するハードルが著しく下がっているようです。東京五輪の直前にも森喜朗組織委会長から世論調査の内容にクレームが付くと、継続的に実施してきた質問の内容を突然変えることまでして、東京五輪の強行を正当化することに協力してしまいました。もはやNHKでは政府や政権与党に関するニュースを中立的な立場から報道することは不可能になっていると考えるべきでしょう。

(つづく)

【文・構成:石井 ゆかり】

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<プロフィール>
元木 昌彦
(もとき・まさひこ)
1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に講談社を退社後、市民メディア『オーマイニュース』編集長・社長。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。現在は『インターネット報道協会』代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。

神保 哲生(じんぼう・てつお)
1961年東京生まれ。15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信など米国報道機関の記者を経て独立。99年、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立し代表に就任。主なテーマは地球環境、国際政治、メディア倫理など。主な著書に『ビデオジャーナリズム』(明石書店)、『PC遠隔操作事件』(光文社)、『ツバル 地球温暖化に沈む国』(春秋社)、『地雷リポート』(築地書館)など。

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