2024年11月21日( 木 )

既存メディアの衰退と新メディアの台頭について(9)

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『週刊現代』元編集長
元木 昌彦 氏
ビデオニュース・ドットコム代表
神保 哲生 氏

 この国のマスメディアの腐敗は確実に、深く進行していて、もはや後戻りのできないところまできてしまっていると、思わざるを得ない。東京五輪のスポンサーに朝日新聞を始め、多くのマスメディアがこぞってなったとき、ジャーナリズムとして超えてはいけない“ルビコン”をわたってしまったのである。その後も、NHKの字幕改ざん、読売新聞が大阪府と包括協定を結ぶなど、ジャーナリズムの原則を自ら放棄してしまったと思われる出来事が続いた。
 神保哲生さんは、そんななかで、希少生物とでもいえる本物のジャーナリストである。彼が「ビデオニュース」社を立ち上げた時からのお付き合いだが、時代を射抜く目はますます鋭く、的確になっている。神保さんに、マスメディアの現状とこれからを聞いてみた。

(元木 昌彦)

左から、『週刊現代』元編集長 元木昌彦氏、ビデオニュース・ドットコム代表 神保哲生氏
左から、『週刊現代』元編集長 元木昌彦氏、
ビデオニュース・ドットコム代表 神保哲生氏

これからのメディアとは(つづき)

『週刊現代』元編集長 元木 昌彦 氏
『週刊現代』元編集長
元木 昌彦 氏

    元木 フランスの思想家ジャック・アタリは『メディアの未来』(プレジデント社)で、テクノロジーが支配する未来では、GAFAMが権力を握り、最も価値のある情報は、政治権力者や投資家、金融業者、起業家など小さな集まりのなかだけで流通していく。

 その結果、権力や知識、富を支配する上級ノマド(遊牧民)と、少ない情報しか入手できない極貧ノマド、その中間のヴァーチャル・ノマドに分類されていくと予測しています。そうならないためには「巨大IT企業が運営するプラットフォームを解体しなければならない。これは世界規模の闘いになる」と書いています。

 2013年にAmazon創業者のジェフ・ベゾス氏がワシントン・ポストを買収しました。メディアが巨大IT企業に飲み込まれる時代はすでに始まっていますが、日本のマスメディアの経営者たちは既得権益が永遠に続くという“妄想”に取りつかれているように見えます。
 ジャーナリズムの原点を忘れ、腐敗したマスメディアは生き残れないと思います。

 神保 市場原理としてはその通りかもしれません。そして、ジャーナリズムも市場原理とまったく無縁に生きていくことはできないでしょう。しかし、同時にジャーナリズムは市場原理だけでも成り立たないことを忘れてはならないと思います。

 よく耳にする議論としては、メディアが公共性を追求すれば収益性が犠牲になり、最終的にそのようなメディアは収益性を優先したメディアに淘汰されるため生き残れないという考え方です。

 確かに公共性と収益性には二律背反する面がありますが、その一方でその2つは完全に逆行する概念ではありません。単に両立が簡単ではなさそうだというだけのことです。

 たとえばあるメディア企業の社長が、このテーマは重要だけど(つまり公共性はあるが)、儲かりそうもないから(つまり収益性の裏付けがないから)扱うのはやめておこうというような判断を日常的に下していれば、そのメディアは最後まで公共的なメディアとして認知されないでしょう。ただ、その会社は儲かりそうな取材だけはするわけですから、短期的には収益はあがるかもしれませんが、信用が命綱となる報道機関として長期的に生き残るのは難しいのではないでしょうか。

 その一方で、収益性を一切無視して、このテーマは大事なのだから(公共性があるのだから)カネに糸目を付けずにどんどん取材していいぞ(収益性なんて無視していいぞ)、なんて社長がいる会社も、早晩倒産してしまうでしょう。ほんの一握りの企業がメディア市場の特権を独占できていた時代なら、そんな贅沢が許される余裕もあったのかもしれませんが、競争が激化しているインターネットの時代は、そんな会社は1年ともたないでしょう。

ビデオニュース・ドットコム代表 神保 哲生 氏
ビデオニュース・ドットコム 代表
神保 哲生 氏

    しかし、両者の中間にとても重要な島があります。それを経営学的には「需要創出機能」とか「自己需要創出機能」と呼ぶのだそうですが、要するに世の中の多くの人が関心のあるテーマは収益性が高いが、関心だけを追い求めていても公共的なメディアにはなれず長期的な信用は勝ち得ない。しかしその一方で、関心の高低を度外視して公共性だけを求めていると、収益が上がらないので早晩、潰れてしまう。だから、まずはどんなメディアでも公共性があり、なおかつとりあえず世の中の多くの人が関心をもってくれる(つまり公共性と収益性の両方が期待できる)テーマから取り組まざるを得ないわけですが、さてここからが重要です。

 世の中がどんなテーマなら関心をもってくれるかは、実はメディアが何を報じるかに大きく依存します。衝撃映像や有名人のスキャンダルのように誰もが無条件で関心をもってくれそうなセンセーショナルなテーマというものもありますが、基本的には人々はメディアを通じて多少は自分が予備知識をもったことに興味をもつようになります。つまり、公共性の高いテーマを、少しでも多くの人が関心をもてるような工夫を凝らしながら報じ続ければ、最初は多くの人が取っ付き難いと感じるテーマでも、じきに関心領域に入ってくる可能性が高い。これがメディアの需要創出能力と呼ばれるものです。

 読者や視聴者から、「なんで貴方のところではこんな重要なニュースを報じないの?」と文句を言われたとき、大抵のメディア関係者は「だって報じても誰も見てくれない(読んでくれない)じゃないですか」みたいな反応をするものですが、これは単にメディアが、その重要な(つまり公共性の高い)ニュースに多くの人が関心をもてるような報道をしてこなかったことを自ら認めているに過ぎません。ビジネスとしてのメディアの需要創出機能という特性を自覚できていないのです。

 メディアの特徴は、それがメディアであることです。つまり、メディアは市民社会が(あるいは市場が)どんな情報なら関心をもつかに対して影響力をもっているということです。ここに公共性と収益性を両立させるカギがあると私は考えています。

 実は視聴者や読者の数が増えれば増えるほど、メディアの「需要創出機能」は強まるはずなのに、どういうわけか受け手の数が増えれば増えるほど、ほとんどのメディアは公共性に背を向けて収益性の方に迎合していく傾向があるのが、私には不思議でもあり、また勿体なく感じるところでもあります。

 元木 ウクライナをめぐってアメリアとロシアの緊張状態が続いています。中国の台湾侵攻もあり得るといわれています。1つ間違えば戦争になることもあり得ますから、今こそマスメディアにはジャーナリズムとしての役割をしっかりはたしてもらいたいとは思いますが。今日はありがとうございました。

(了)

【文・構成:石井 ゆかり】

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<プロフィール>
元木 昌彦
(もとき・まさひこ)
1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に講談社を退社後、市民メディア『オーマイニュース』編集長・社長。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。現在は『インターネット報道協会』代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。

神保 哲生(じんぼう・てつお)
1961年東京生まれ。15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信など米国報道機関の記者を経て独立。99年、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立し代表に就任。主なテーマは地球環境、国際政治、メディア倫理など。主な著書に『ビデオジャーナリズム』(明石書店)、『PC遠隔操作事件』(光文社)、『ツバル 地球温暖化に沈む国』(春秋社)、『地雷リポート』(築地書館)など。

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