2024年07月28日( 日 )

【廃炉は遠き夢】トラブル続きの福島第一原発 11年目の惨状(1)

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福島自然環境研究室 千葉 茂樹

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    福島第一原発事故から11年が経とうとしている。多くの方は、もう頭の隅にもないかもしれず、福島県においても関心が薄れている。関東圏では、原発事故のニュースは、ほとんど流れていないという。

 これからの文章に、シ-ベルト(Sv)やベクレル(Bq)といった放射線の単位が出てくる。わからない方は、こちらを参照していただきたい。
「徒歩の調査」から見た福島第一原発事故 被曝地からの報告(中)

問題続出の1年(2021年4月から)

 以下に、2021年4月以降の福島原発関連の問題を掲載する。タイトルだけでも、ざっと見ていただきたい。現状においては問題が同時多発的に発生し、同時並行での解決が迫られている。このような状況で、はたして廃炉にまでもっていけるのだろうか。

「中身不明のコンテナ4000基」(2021年4月5日) 東電は福島第一原発内にある放射性廃棄物入りのコンテナ約8万5000基のうち、約4000基の中⾝が把握できていないと発表した。

「山菜のコシアブラから300Bq/kgの放射性セシウム」(4月7日) 阿武隈山系の小野町で、山菜のコシアブラが販売され、最大300Bq/kgの放射性セシウムが検出された(食品衛生法上の基準は100Bq/kg未満)。

「ALPS処理水の海洋放出問題」(4月13日) 政府はALPS(多核種除去設備)処理水の海洋放出を決定したが、その後これが大きな問題となった。私の見解はこちら。
福島原発事故、アルプス処理水を海洋放出して良いのか~報道では語られない諸問題と私の提案(1)
 9月4日になり東電は原発沖約1km、深さ約10mの太平洋に処理水を放出することを発表し、現在その方向で進んでいる.私の見解はこちら。
【福島原発事故】徹底解説・ALPS処理水の海洋放出問題(前)

「東電ID不適切使用」(5月10日) 原発構内に入るには、職員であることを証明する識別カードが必要だが、東電では、このカードを忘れた職員が「父親のカード」や「同僚のカード」を使って入構していた。こうした行為は2015年ごろから行われていた。

「保管コンテナから高線量ゲルが漏れ出す」(5月20日) 原発1号機北側の排水路で、空間線量率が上昇した。調査の結果、保管用コンテナが腐食し、そこから高線量のゲル(コンニャクのようなもの)が流れ出したことが発覚。最大13mSv/h(通常使われる空間線量率μSv/hの1000倍の単位)。

「中間貯蔵施設内の焼却施設から水銀のガス」(5月21日) 双葉町の焼却施設から、大気汚染防止法の基準値以上の水銀が検出された。水銀自体は無害だが、炭素などと結合すると「有機水銀」になる。これは神経を蝕む物質であり、水俣病の原因となっていることでも有名である。

「排水桝で高線量の水」(7月8日) 今度は、廃棄物管理エリアの排水桝から7900Bq/l(ベータ線)という高線量の水が見つかった。

「資機材803カ所で管理不備」(7月8日) 管理部署や内容物がわからない資材・機材が見つかった。最大線量率は、表面で約10mSv/h(通常使われる空間線量率μSv/hの1000倍の単位)。

「蜂蜜から放射性セシウム」(7月22日) 「道の駅なみえ」と「浪江町産品カタログギフト2021」で販売されていた蜂蜜から、130~160Bq/kg(食品衛生法上の基準は100Bq/kg未満)の放射性セシウムが検出された。

「浪江・津島訴訟」(7月30日) 津島地区の住民640人が起こしていた裁判の判決が、福島地裁郡山支部で出された。津島地区の住民は、原発事故以前の状態(全域の除染要求)を求めたが、判決では賠償金10億4,000万円のみが認められた。私の見解はこちら。
【福島原発事故】徹底解説・ALPS処理水の海洋放出問題(後)
 2022年2月28日、原告は背旧金額を31億3,100万円に増額した。

「帰還困難地区の建設発生土」(9月1日) 住民が避難している帰還困難地区の建設で発生した汚染土(8000Bq/kg以上)が行き場がなく放置されて、この他の除染で出た土や指定廃棄物(焼却灰、麦わら、堆肥など)は埋立処分施設や中間処理施設に運ばれている。なお、中間処理施設に運ばれたものは、「2045年までに福島県外で最終処分」されることになっている。

「ALPSのフィルターが破損」(9月1日) 原発の核燃料デブリ(核燃料が溶け落ちてできた合金)を冷却して生じた水(汚染水)を浄化する装置(ALPS)の換気用フィルターが25カ所中24カ所破損していることがわかった。9月9日、2019年9月にも同様の破損があり25カ所全部の交換をしていたことが発覚、東電が隠していた。このフィルターは、ALPSの浄化槽の空気のフィルターで、放射性物質が空気とともに外部に出ないように取り除くものである。

「原発固体廃棄物、仮置き常態化」(9月18日) 原発敷地内の固体廃棄物の仮置き量は、2021年に急増し、2021年8月には8万立方mに達した。ちなみに2020年12月までは1万立方m程度だった。急増の原因を東電は、「一時保管エリアでコンテナの腐食等の問題が多発し、運び込めないため」としている。

「高線量汚泥の保管容器の劣化」(9月18日) 汚泥とは、ALPSで核燃料デブリを冷却した汚染水に薬品を加えて放射性物質を沈殿させたもの。この汚泥の保存容器3840基の劣化が判明した。

「放射性廃棄物の保管コンテナから水が漏れる」(11月1日)

「凍土遮水壁の温度上昇」(12月3日) 8月末から原発4号機北側の凍土壁の温度が上昇していることが発覚。この凍土壁は、壊れた原発の建屋の周りに氷の壁をつくったもの。事故後、核燃料デブリに大量の水をかけて冷却しているため、大量の高線量の汚染水が生じる。また、原発は地層を掘り下げて低位置につくったため、大量の地下水が流れ込む。これらが混じると、汚染水の量が増加。この地下水流入を防ぐため、凍土壁がつくられた。12月19日、東電は溶けた凍土壁の代わりに「鋼鉄の壁」をつくると表明した。

(つづく)


<プロフィール>
千葉 茂樹
(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ。岩手県一関市出身。専門は火山地質学。2011年3月の福島第1原発事故の際、福島市渡利に居住していたことから、専門外の放射性物質による汚染の研究を始め、現在も継続している。

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