【廃炉は遠き夢】トラブル続きの福島第一原発 11年目の惨状(3)
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福島自然環境研究室 千葉 茂樹
こんな状態で、廃炉までたどり着けるのか
政府・東電の対応を見ていると、目先の対応ばかりしているように感じる。原発事故直後であれば目先の対応も致し方ないが、事故からすでに11年も経過しており、廃炉の長期展望に立って行動する必要がある。政府・東電は国民に対し「耳に心地よい言葉」ばかりを言っているが、よくよく考えれば、そんなに都合良く事が運ぶとは思えない。
メルトダウン・メルトスルーした原発(核燃料が溶け落ちて格納容器内に散乱)の廃炉は、人類が経験したことのないものである。技術的にも、難しいことがたくさんあり、場合によっては専用の機械も開発しなければならない。政府・東電がいうように数十年でできるものではない。現状、ようやく核燃料デブリを見たのである。核燃料デブリは、放射性金属と格納容器などとの複雑な合金で、切断して取り出すのは容易ではないと考えられる。また、放射線量ももともと核燃料であるから、想像を絶する量である。取り出したらどこに保管するのか。これらを冷静に考えると、本当に廃炉までもっていけるのだろうかと思う。うまくいったとしても、廃炉まで100年以上かかると思う。政府・東電の自分たちに都合の良い解釈には、大いなる疑問を感じざるを得ない。
また、私には、政府・東電は「お互いに責任を取りたくない」から主導権を譲り合っているようにしか見えない。また、廃炉費用も最終的に国民の税金で行うので、他人事なのだろう。これがもし、自分のお金でやるのであれば、こんな悠長なことはしていないだろう。いずれにせよ腹の括れない人が、政府・東電のトップにいるということだろう。
話は飛ぶが、敗戦後の総理大臣・吉田茂は、失言も多かったが、少なくとも“肝の据わった政治家”だったと思う。しかし、現在の評価基準であれば、彼は総理大臣になれなかっただろう。当時は、敗戦直後であり、価値観が逆転し、人物の評価は「加点主義」であり、たとえ癖があろうが、実務ができる人物が重要視されていた。現在の人物の評価基準は「減点主義」だから、責任回避型の人間が政治や企業のトップにいるのだろう。これは、平時ならば何とかなるが、緊急時にはダメである。緊急事態のときには、臨機応変できる人物でないと適切な対処はできない。
関心の高いのは宮城県
福島第一原発事故関連において、現状で関心が高く、敏感なのは「宮城県」である。昨年、私は宮城県保険医協会から講演依頼を受け、10月2日に仙台で2時間の講演をした。残念ながら、福島県内からの依頼はない。また、研究発表や研究内容の打診があるのは、他県の大学や他県の人からである。
宮城県保険医協会からの講演依頼は、宮城県に女川原発があることと、ALPS処理水の海洋放出問題があるからだった。私の見解はこちら(福島原発事故、アルプス処理水を海洋放出して良いのか~報道では語られない諸問題と私の提案(1))(【福島原発事故】徹底解説・ALPS処理水の海洋放出問題(前))。
この講演で私は、「東北電力は株式会社なので、地元の皆さん1人ひとりが株主になって、会社を監視すればよい。場合によっては、株主提案すべきである」と提案した。なお、私は他人に自分の意見を押し付けることは嫌いなので、自身も東北電力株を買い足した.
また、2022年2月20日ごろから、日本政府が「ALPS処理水は安全」という印刷物を、宮城県・福島県・茨城県の学校に配布した。この問題を最初に取り上げたのは、宮城県の河北新報社で、その後、何回かに分けて報道している。これに対し福島県では、2月25日になってNHK福島放送局が取り上げただけで、新聞報道はない。問題の印刷物はこちら(復興のあと押しはまず知ることから(PDF))
福島県では何事も「風評」。意味を理解して使っていますか?
「風評」とは、根拠がない噂話である。福島県では、事あるごとに「風評」と表現する。ALPS処理水の海洋放出問題など内堀知事の記者会見では、この「風評」という言葉が頻繁に使われた。
原発事故の汚染問題は、本当に根も葉もない「風評」なのだろうか。「●問題続出の1年」に書いたように、福島県産品の「クロソイ」「蜂蜜」「コシアブラ」からは、食品安全基準以上の放射性物質が検出されている。また、私の空間放射線量率の調査では、福島県は間違いなく放射性物質で汚染されている(PDF)。たとえば2019年の二本松市は、平均の空間線量率は除染基準の0.23μSv/hより高く、地上1mで4μSv/h以上の地点が4地点もあり、高い放射線土「黒い土」もあった。これでも「風評」だろうか。私は、現実を直視しなければ、何事も解決しないと思う。読者の皆さんは、どう思われますか。
(つづく)
<プロフィール>
千葉 茂樹(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ。岩手県一関市出身。専門は火山地質学。2011年3月の福島第1原発事故の際、福島市渡利に居住していたことから、専門外の放射性物質による汚染の研究を始め、現在も継続している。関連キーワード
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