2024年09月06日( 金 )

【経営教訓小説・邪心の世界(9)】反撃の狼煙(のろし)

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<主要登場人物>
甲斐(創業者)
戸高(2代目社長)
日向睦美(創業者の娘)
日向崇(睦美の夫)
<作>
青木 義彦

※なお、これはフィクションである。

会社員 イメージ    先行きを案じた日向夫婦が、株主の書類を持って弁護士のもとに相談に行った。弁護士からは、「お2人が会社の株をすべてお持ちであることは間違いありません。だから、株主としての権利を十分に行使できます。何も恐れることはありません。これからも相談にきてください」という回答を得た。

 夫婦は、「我々は株主として戸高に会社経営を委ねているだけだ。何も恐れることはない。彼がぼろを出すまでじっくり待とう」と誓い合った。

 会社の2019年の業績は好調だった。業界全体も空前の好景気に湧いていた。戸高は「かつて会社はボロボロの状態だったが、そうした“真っ赤な経営状態”から、今期は内部留保できるところまで復活させた。もう雇われ社長から脱皮しよう。日向部長には辞めてもらい、いずれ会社の商号も戸高建設に変えていこう」という野望を抱き始める。

 戸高の社員に対する言動も高圧的になっていく。しかし、会社の雰囲気が良く、待遇も少しずつ良くなっていたので、社員たちの不満は少なかった。また、戸高の頑張りで実績が上向きになっていたので、社員たちは従順な態度を示していた。

 19年の夏を過ぎたあたりから、戸高は社員たちの前で、公然と日向を批判し始める。「日向部長は先代の娘婿というだけで部長職に就いている。設計の仕事をするだけで、幹部としての役割をはたしていない。会社の再建過程でも何ひとつ、貢献できていない」と批判を繰り返した。

 こうなってくると「戸高社長は日向部長を辞めさせるのではないか」という危機感を抱く社員が出始めるのも無理はない。「日向部長、気をつけてください。おそらく戸高社長はあなたを外す画策をしているようです」と助言する者まで現れた。

 戸高の傍若無人な態度を目の当たりにして、状況を把握する能力が劣る日向でも「恐れていたことが現実になったか。やれるものならやってみろ」と腹をくくる。

 社員から助言を受けた1週間後、日向は戸高から会議室に呼び出される。そして、戸高に「早速だが、日向部長、今期末をもって会社を辞めてもらいたい」と通告されたのだ。そこで、日向は「何を根拠に私に解雇命令を出すのですか」と反撃した。

 戸高にとって、この日向の反撃は予想外であり、大いに戸惑った。日向は「私はこの会社の取締役であり、株主ですよ。睦美と私が株主であって、あなたに経営責任者である社長職を委任していることをご存じないのですか」と畳みかけた。

 これに対し、戸高は「臨時株主総会を開催して、あなたを解任する決議をしますよ」と迫ったうえで、鬼のような形相で「俺は先代から経営を委託されたときに、この会社の株券譲渡を完了しているんだぞ」と続けた。

 これに対し、日向は「確かに先代は、あなたに株券譲渡に関する口約束をしたかもしれません。それをあなたが信用して書類を作成したのでしょうが、どちらの書類が法的に有効か争っても構いませんよ」と自信満々な態度で反撃する。

 戸高は、相手方が用意周到に準備していたことを悟り、あわてて、付き合いのある弁護士事務所に駆け込んだ。しかし、弁護士からは「こちらの方が分が悪いですね」というつれない答えが返ってきた。

(つづく)

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