2024年07月16日( 火 )

【公営交通事業考察】京都市交通局の現状と課題(前)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

 政令指定都市の地下鉄のなかで、初乗り運賃が220円と最も高く、全般的にも最も高いとされる京都市地下鉄。運営する京都市交通局は経営健全化に努めてきたものの、コロナ禍での経営状況悪化を受け、19年の消費税増税時以来となる運賃改定を24年ごろに予定している。経営に苦しむ地方の公営交通事業の1ケースとして、同局が抱える課題を考察するとともに、筆者なりの改善策を提案したい。

新型コロナウイルスによる利用者数の落ち込み

京都市交通局    京都市交通局が運営する地下鉄・市バス事業は、これまでの経営健全化の取り組みにより、乗客数の大幅増を実現してきた。地下鉄事業においては、計画していた運賃改定を回避しつつ、大きく経営改善をはたしてきたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年2月以降になると、利用者数が激減。それにより、同年度の運賃収入は、地下鉄事業とバス事業を合わせて、前年度比で約150億円の減収となった。

 21年度も、大きな回復は見込めない状況にあり、地下鉄事業・バス事業ともに、これまで経験したことのない未曾有の危機に直面している。

 その要因として緊急事態宣言の発令などによる外出の自粛以外に、テレワークの浸透やZoomを使用した遠隔授業の実施など、新しい生活様式の定着が挙げられる。それに加え、地下鉄や市バスの利用者数を押し上げていたインバウンド需要が、激減してしまった。インバウンドに関しては、早期の利用回復が見込めず、極めて厳しい経営状況が続く見通しである。

 今後も、利用者数の回復には時間を要する上、今後の利用者数は、コロナ禍以前の状況には戻らないと想定されている。将来にわたり地下鉄・市バスを維持していくために21年度中に、中長期の経営計画(京都市交通局 市バス・地下鉄事業経営ビジョン「改訂版」)を策定することになった。

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 なお地下鉄事業は、地方公共団体の「財政健全化法」に基づく経営健全化団体となった。これは得られる利益に対し、運転資金の不足額が20%を超えた地方公営企業が該当し、企業でいえば、倒産に近い状態になったことを意味する。総務省の管理下に入ることから、中長期の経営計画のうち、地下鉄事業に関する内容については、財政健全化法に基づく経営健全化計画を策定し、経営再建に取り組まなければならない。

京都市交通局の経営健全化計画

 京都市交通局の場合、地下鉄のほうが市バスよりも財務事情などが悪くなる。これは地下鉄東西線を建設したことが影響している。

 京都市には埋蔵文化財などがたくさんあり、それらの発掘が工事を遅らせてしまい、結果的に建設費の高騰を招き、運賃に跳ね返ってしまう。事実、政令指定都市の地下鉄のなかで、初乗りなどを含めた運賃が最も高いのが、京都市交通局である。

 経営健全化団体になったため、京都市交通局の職員の給与を引き下げ、人件費を下げることが必要とあり、新給料表を導入した。1999年度のバス運転士平均給与の926万円が、2020年度は559万6,000円と、39.6%のカットを実現した。

 民間事業者のバス運転者の平均給与は、年間で557万6,000円であるから、ようやく民間事業者並みになった。京都市交通局独自の給与カットとして、市バス運行業務などの民間委託を推進。その他の経費削減として、バス車両更新期間を14年から18年へ見直し、自動車整備業務の民間委託化を推進した。

 欠損補助に関しても、民間並みのコストで運営しても欠員が生じる場合は、一般会計から財政支援することにした。 

 地下鉄に関しても、新給料表を導入して給与の引下げを実施。1999年度の運転士の平均給与は655万7,000円だったが、2020年度は597万2,000円と8.9%の削減が実施された。民間事業者の電車運転士の平均給与費が666万円であるから、京都市交通局の運転士のほうが、低い水準となった。その他、駅職員業務の民間委託の推進、改集札機・券売機・昇降機設備などの地下鉄設備の更新期間を延長した。

 市バス・地下鉄共に経費削減を実施しつつ、利用者の増加に向けた活性化策も、合わせて実施している。その結果、09年度から19年度まで、地下鉄・市バス共に利用者は増加傾向を示し、とくに定期券利用者が右肩上がりで増加した。

(つづく)

(中)

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