2024年07月16日( 火 )

【公営交通事業考察】京都市交通局の現状と課題(後)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

 政令指定都市の地下鉄のなかで、初乗り運賃が220円と最も高く、全般的にも最も高いとされる京都市地下鉄。運営する京都市交通局は経営健全化に努めてきたものの、コロナ禍での経営状況悪化を受け、19年の消費税増税時以来となる運賃改定を24年ごろに予定している。経営に苦しむ地方の公営交通事業の1ケースとして、同局が抱える課題を考察するとともに、筆者なりの改善策を提案したい。

京都市の財政事情

 コロナ禍で利用者数が減少し、インバウンドをはじめとした観光需要の回復に時間がかかるため経営状態が悪い状態が続き、京都市交通局が経営健全化団体に陥ったのであれば、京都市が京都市交通局を支えれば良いという意見もあるが、実は京都市の財政事情も非常に厳しい。

 京都市の財政事情を示す数値の1つとして、「将来負担比率」がある。この数値は、将来見込まれる借金などの負担の重さを示す数値であるが、京都市は19年度が191.1%で政令指定都市の中でワースト1位である。

 収入規模に対する借金の割合を示す「実質公債費比率」も10.4%であり、これも政令指定都市のなかで、ワースト4位である。

 「市債残高」は、1兆3,424億円でワースト2位。これは市民1人あたり約92万円の借金を抱えていることになる。

 京都市は、他の政令指定都市と比較して、税収面において不利なことは否めない。学生が多い街であるため、納税義務者の割合が、政令指定都市のなかでは最低の43.1%しかない。そして寺社仏閣などが多く、景観保全を目的とした建造物の高さ規制が厳しいことから、面積あたりの固定資産税が低くなってしまう。寺社仏閣が多いということは、観光客を誘致する面では有利であるが、これらは非課税になることから、「税収」という面では不利になってしまう。

 その反面、京都市職員の人件費は、政令指定都市のなかで4位であり、高い水準にある。

 その他、財政事情が厳しい事例を示す要素として、「財政調整基金」は00年度に枯渇してしまった。コロナ禍のため、減債基金にも手を付けており、21年度は観光客激減のため、200億円超の財源不足になっており、26年度に枯渇することが予想されている。

 その結果、下手をすれば京都市も28年度には、夕張市と同様に財政再生団体に転落する危険性も指摘されている。

筆者が考える京都市・京都市交通局の再生策

省エネが進んだ新車両    京都市・京都市交通局ともに財政事情が厳しく、将来的に人口減少社会を迎えることから、明るい展望は見出しにくいこともたしかである。また車両の老朽化が進んでおり、最近では省エネが進んだ新車両が導入されている。京都市交通局は経営面では苦しいが、新車両はランニングコストを下げるだけでなく、イメージアップによる利用者の増加が期待できるため、可能な限り置き換えを進めてもらいたい。

 経営が苦しければ「民営化」が話題になる。大阪市交通局は、地下鉄・路線バスともに「民営化」を実施したが、筆者は「民営化」を実施すれば、すべてがうまく行くとは考えていない。

 「民営化すれば、不動産事業が展開できるようになり、利益率が高い。JR九州は鉄道事業の損失を、不動産事業の利益で内部補助をしている」という意見もある。事実、JR九州はマンションの分譲やホテル事業の展開で利益を上げており、鉄道事業の損失を内部補助している。

 だが大阪市交通局時代に、土地信託事業に失敗して、200億円近い損失を計上したことを、忘れてはいけない。民営化されて(株)大阪メトロや(株)大阪シティバスとなったが、不動産事業を得意とする人材はいないし、そのようなノウハウもない。また民営化されると、投機を目的に外国人投資家が株を購入し、利用者へのサービス向上などより、株主への配当を重視した経営に陥る点もあり、拙速な民営化は慎む必要がある。

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 下手な民営化を実施するのであれば、地下鉄は近畿日本鉄道へ譲渡することを検討した方が良い。事実、烏丸線は近鉄と相互乗り入れを実施しており、近鉄の乗務員も京都市交通局の車両を扱えるため、円滑な事業の継承が図れる。また近鉄の運賃に統合されるため、価格面でも割安となり、利便性が向上する。近鉄であれば、不動産事業のノウハウも有している。

 「京都市交通局」のままでは、地方公営企業法などで拘束されることも事実であり、より柔軟な経営を行うには、「公社化」するか、あるいは京都市交通局はインフラだけを所有する第三種鉄道事業者となり、近鉄が地下鉄を運営する方法も考えられる。

 「公社化」であれば、京都市の管轄である上、駅ビル経営や駅周辺などで温水プールや喫茶店の経営などが可能となり、運賃やテナント料以外の収入源の確保が可能となる。公社化された際は、それらを得意とする外部の人材を、採用する必要がある。

 京都市交通局が第三種鉄道事業者になる方法は、同じく京都府内を通る第三セクター鉄道の北近畿たんご鉄道を再建する際、インフラは北近畿たんご鉄道が所有するが、運行は京都丹後鉄道という、ウィラー・トレインズが出資した事業者が担っている。この場合、「民有民営」の上下分離経営が実現したことになる。

 それゆえ京都市交通局がインフラのみを所有し、運行を近鉄に担わせれば、京都市交通局には、線路使用料が入って来る。

 路線バスに関しては、韓国のソウル市の事例が参考になる。運営は、京阪バスや阪急バスなどの民間事業者にも担ってもらうが、京都市交通局は過当競争やバスの少なくなる地域をなくすための「交通調整」や、バス停の改善などを担うようにしてもらえば良い。

 京都市交通局だけでなく、京都市の財政事情が厳しいことから、運行は民間事業者に担ってもらったとしても、インフラの提供や「交通調整」など、「公」が得意とする分野に特化した、京都市内の公共交通サービスを目指してほしい。

(了)

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