2024年09月06日( 金 )

日本M&AセンターHD、契約書偽造もトップに反省の色なし(中)

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 会社の経営を後継者に引き継ぐ事業継承が差し迫った課題になっている。国は経営者の年齢が70歳を超えても後継者のいない中小企業が25年に127万社に達すると試算。廃業する会社が増えれば、25年ごろまでに約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる。いわゆる「2025年問題」だ。この状況を後押しするかたちで、破竹の勢いで成長しているのがM&A仲介会社だ。だが、問題は少なくない。リーディングカンパニーである日本M&Aセンターホールディングス(東証プライム上場)は「イケイケドンドン」の勇み足が目立つ。

「不正は男気でやった」と三宅社長が擁護

 日本M&AセンターHDは3月23日、社員の処分を公表。上席執行役員1名を含む5名を論旨解雇、さらに35名に降格、33名に出勤停止、20名に訓戒という処分が下された。

 『週刊文春』(4月14日号)は、三宅卓社長の仰天発言を追報した。

 〈処分が公表された当日の午後6時から、全社員向けに開かれたオンライン説明会。不正に関わった個人名は伏せた上で、当の三宅氏はこう発言した。
「処分された人は辛い思いをしている。いつまでも犯人探しをするのではなく、みんな仲間なので穏やかに見守ってもいこう」
 別の報告会では、三宅氏はこうも語っていた。
「不正をした社員は男気でやったものだ。会社のためにやったので罪の意識が軽くなるのは理解できる」〉

 三宅卓社長の厳しい“ノルマ主義”が不正の温床と指摘されたが、三宅社長は、そうは考えていないだろう。ノルマ主義に徹したから成長できたと確信しているはずだ。

 日本M&Aセンターの売上高は、2010年3月期は36億円にすぎなかったが、22年同期は390億円の見込みと11倍弱に急拡大。M&A成約件数も17年3月期に年間524件だったのが21年3月期には914件、22年3月期は1,000件に迫る勢いだ。成約件数最多でギネス世界記録の認定を受けている。

 これはノルマ主義によって達成されたものだ。

日本M&Aセンターホールディングス業績

M&A業界はいずれも高給企業

M&A イメージ    M&A業界のビジネスモデルは、買い手・売り手候補のネットワークから適した相手をマッチングし、交渉などをサポートして仲介手数料を得る。

 M&A業界は高い専門性と経験が必要であるのに加えて、設備投資が少ないため、高い利益率を上げられるのが特徴。売上の5割弱が営業利益だ。

 さらに、M&A業界では目標達成など成果を上げた社員に対して支給される報酬をメインとする給与体系を採用しているため、社員の給料はものすごく高給だ。

 東洋経済オンラインがまとめた「平均年収全国トップ500社ランキング」によると、M&Aキャピタルパートナーズが2,269万円で全国一。日本M&AセンターHDは1,243万円で、全国14位だ。

 役員報酬も高い。三宅卓社長の21年3月期の役員報酬は1億7,600万円。三宅氏の持ち株株比率は個人株主の筆頭で6.18%(21年9月末時点)。3月31日の期末時点で換算すると、保有株の時価総額は3,593億円。M&A仲介業界きってのリッチマンだ。

 三宅氏は業界団体であるM&A仲介協会の初代代表理事に就任したが、母体企業の日本M&Aセンターの不正に足をすくわれて、引責辞任に追い込まれた。

M&A仲介の「両手取引」は利益相反

 M&A仲介は、売り手と買い手の両方が報酬を得る「両手取引」が基本だ。両手取引をめぐっては、一方の利益の最大化を図れば、もう一方の利益を毀損する利益相反が、以前から指摘されてきた。

 自社を売る者にとっては一生に一度あるかないかの一大事であり、買う者にとっても多額の資金をともなう大勝負だ。M&A仲介は、成立したら両方から手数料を取れるので、何が何でも成立させようとする。そのため、あとから問題が噴出して訴訟になるケースもある。

 両手取引の問題に注目が集まったのは20年12月のこと。当時、行政改革担当相だった河野太郎氏が自身のブログに投稿した。
 〈仲介者にとってみれば、一回限りのビジネスしかならない売り手に寄り添うよりも、今後のビジネスができる買い手に寄り添う方が得になります。双方から手数料をとる仲介は、利益相反になる可能性があることを中小企業庁も指摘しています〉

 河野氏は、M&A仲介は買い手の利益を最大にするインセンティブが働きやすく、売り手の利益を損なう恐れがあると言及した。

 欧米では、売り手、買い手のどちらかに手数料がつくのが原則。日本のように、売り手、買い手両方から手数料をとる「両手取引」はしない。

 河野氏が、日本のM&Aは「利益相反になる可能性がある」と言及したため、業界幹部らは慌てふためいた。「仲介が正当なビジネスである」と政界にアピールするため、自主規制団体のM&A仲介を立ち上げたわけだ。

 M&A仲介=利益相反として、法律が改正されれば、仲介会社は双方から手数料が受け取れなくなり、売上が半減する。まさに、死活問題。がけっぷちに立たされているのである。

(つづく)

【森村 和男】

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