2024年12月23日( 月 )

政投銀トップに生え抜きの柳氏就任

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 NETIBでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事から一部を抜粋して紹介する。今回は、日本政策投資銀行社長に生え抜きの柳正憲氏が就任したこととその意味について触れた、6月3日付の記事を紹介する。


 日本政策投資銀行の社長に柳正憲副社長が昇格することが政府の閣議で了解された。前身の日本開発銀行の時代も含めて、生え抜きの行員がトップになるのは初めてのことになる。日本政策投資銀行は旧大蔵省、現在の財務省にとって最重要の天下り機関のひとつである。財務省の天下り先には序列があった。

 東西正横綱が日銀総裁と東証理事長だった。その次に重要な「御三家」が開銀(現在の日本政策投資銀行)、輸銀(現在の国際協力銀行)、国民金融公庫(現在の日本政策金融公庫の前身の一部)である。

 また、民間企業では、JT(従来の日本専売公社)、横浜銀行、西日本シティ銀行などが、最重要天下り機関として位置付けられてきた。

 これらの機関を頂点として、巨大な天下りピラミッドが構築されてきた。官僚は民間企業よりも低い給与で働いているのだから、退官後に天下りで生涯所得の挽回を図るのは当たり前だとの意識が持たれてきた。その天下りの構造は、ほとんど改革されていない。

 旧開銀、現在の日本政策投資銀行には優れた人材が数多く、大卒で入行している。したがって、この機関の幹部を生え抜き職員=プロパー職員が務めるのは当然のことなのだ。ところが、財務省は、政投銀が所管の金融機関であることを理由に、永きにわたって、政投銀(開銀)を実効支配し続けてきた。

 今回、社長に就任する柳氏の前任にあたる橋本徹氏は、旧富士銀行出身で、民間からの起用であるが、実は副社長に財務省出身者が天下りしており、実体としては、財務省出身の副社長がこの銀行を支配してきたわけだ。今回、社長に生え抜きの職員が就任するが、これまで同様に、経営の実権が財務省出身の副社長に握られないのか、監視が必要である。

 「天下り」の問題は、2009年に「消費税増税」の問題と絡めて大きな問題に浮上した。私は1990年代の後半から、「天下り根絶」を提唱し続けてきた。20年来の主張である。

 橋本龍太郎政権が、この声に対応して政府関係機関の統廃合に取り組んだが、抜本的なメスを入れるまでには至らなかった。それでも、官僚利権の問題に焦点が当てられるようになったことは、大きな前進ではあった。

 小泉政権は政府系金融機関の統廃合に取り組み、一定の前進を示したが、官僚天下りの根絶には手が届かなった。それでも、これまでは財務省の指定席とされてきた政府系金融機関のトップポストに民間人が起用されるような変化が生じたのである。

 政府系金融機関のトップに民間人が起用されるようになった。しかし、外から来た民間人が政府系金融機関を完全掌握することは至難の業である。財務省はナンバー2ポストを死守して、実体として政府系金融機関の支配を確保してきたのである。いわゆる実効支配である。

 今回は、生え抜き職員が初めて政投銀トップに就任することになる。これはこれで、意味のあることだが、これで問題が解決するわけではない。2009年8月30日の総選挙に際して、野田佳彦氏は

 「シロアリを退治しないで消費税を上げるのはおかしい」

 と、声を張り上げて訴えた。2009年8月15日の野田佳彦氏による大阪街頭での演説は、「野田佳彦のシロアリ演説」として有名になった。

 2012年初に本ブログで紹介して広まった演説である。

 「改革」を断行すると宣言したのは野田佳彦氏だけではない。岡田克也氏も同じだ。いま改めて、「シロアリ」と「消費税増税」の問題を徹底的に掘り下げる必要がある。

 財務省は政投銀社長ポストを狙っていた。ところが、今回は生え抜き職員が社長に起用された。その裏側から透けて見えるのは、2017年4月の消費税率10%実現に向けての「パフォーマンス」である。政投銀社長に生え抜き職員が起用されるのは歓迎すべきことだが、より重要なことは、これで溜飲を下げてはならないということだ。「めくらまし」に惑わされてはならない。

※続きは6月3日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」第1160号「シロアリ退治なくして消費税再増税なし」で。


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・植草一秀の『知られざる真実』

 

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