2024年11月05日( 火 )

グループの役割が明確化 溝江建設は本業回帰(後)

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溝江建設(株)

 創業80年を超える老舗ゼネコン・溝江建設(株)。これまで建設工事とパチンコホール運営を主とするレジャー事業を手がけていたが、近年は本業である建設工事で存在感を強めており、みぞえグループ内における役割の明確化が進んでいる。

苦難の連続に直面する溝江

溝江建設 本社    グループ内において、総合建設業者としての役割が明確化した溝江建設。JVで大型の公共工事に携わることも多く、今後さらなる存在感の発揮が期待されるが、トラブルや指名停止が散発するなど、建設業者として決して順風満帆に事業を継続してきたわけではなかった。

 同社は2000年代に入ると、大分県日田市で別府競輪場外車券売り場「サテライト日田」の新設計画を立案。しかし、「水郷ひたのイメージが損なわれる」「青少年に悪影響をおよぼす」などの理由で、一部の市民が反対運動を展開する事態となった。すでに開発用地を取得しており、後に引けない状況だった同社は起工式を実施。これが市民の反発を強め、その結果、5万人を超える建設反対署名が集まってしまう。

 その後、別府駐輪場の運営主体である別府市と建設予定地の日田市で話し合いがもたれ、外車券売り場は建設しない方針で両市の意見が一致。蚊帳の外となった同社は、これを不服として別府市を相手に約7億8,000万円の損害賠償を求めて訴訟を起こしたが(別府市は当初サテライト日田の建設に積極姿勢を見せていた)、最終的に同社の訴えは棄却された。日田市で複合商業施設アーバンタウンの成功体験を持つ同社としては、新たな開発に自信があったのかもしれないが、サテライト日田の実現は幻に終わった。

 大分での開発が不発に終わった同社は14年、地元福岡でアイランドシティの港湾関連用地を購入する。購入したのはA区画(1万7,766.97m2)で、福岡市が提示していた分譲価格は19億100万円だった。同社はここに2階建てのみぞえアイランド物流倉庫を建設した。以降、10年代においては福岡市などが発注する公共工事の受注も堅調に推移していく(【表2】参照)。

【表2】主な公共工事の受注歴(溝江建設)

 建設工事とレジャー事業の両輪で蓄積してきた資本力が、サテライト日田の一件を耐え忍び、その後のアイランドシティでの物流倉庫用地の取得を可能にした。建設工事が主体となった今でも、50億円を超える別途積立金を計上しており(21年9月期時点)、その資本力は健在だ。

 総合建設業者としての地位を確立し始めた同社。このまま躍進が続くかと思われたが、大きな逆境が立ちはだかることになる。立て続けに下された福岡県と市からの指名停止処分がそれだ。概要は以下の通り。

「久留米スポーツセンター体育館(仮称)メインアリーナ棟改築工事/落札額:23億1,120万円(税別)」の現場で死亡事故

 事故が起きたのは17年8月12日午後4時50分ごろ。17mの足場から作業員が転落し、全身を強打。直ちに病院へと搬送されたが、搬送先の病院で死亡が確認された。作業員は落下防止の安全帯を使用しておらず、安全管理が不適切だった。
指名停止期間:17年10月24日から1カ月間

「南公園センターゾーンペンギン展示施設新築工事/落札額:4億3,853万7,000円(税別)」の現場で死亡事故

 事故が起きたのは20年1月31日午前8時40分。同社の2次下請として現場に入っていた契約社員がパワーショベル搬出のため、トラックへの積込作業中にパワーショベルが横転。パワーショベルの下敷きとなり、午前9時10分、現場で死亡が確認された。
指名停止期間:20年3月6日から2カ月間

「博多ポートタワー改修工事/落札額:4億5,552万円(税別)」の現場で火災発生

 火災が発生したのは20年2月14日午後3時。同現場作業員が溶接作業の火花を養生用ポリフィルムに引火させたことにより、火災が発生。3人が病院に搬送された。火災発生当日はテレビニュースでも大きく報じられた。
指名停止期間:20年3月10日から3カ月間

 主に民間からの元請で建築工事を手がけているものの、度重なる指名停止措置は信用低下につながる。創業80周年の節目を前に、同社は勢いを削がれる格好となった。

建設業者として生き残れるか

 現場での不祥事が続いた溝江建設だったが、20年以降も、町立八津田小学校校舎建設工事(単独、落札額9億円超)、城南警察署庁舎新築工事(JV、同13億円超)、市営ニュー堅粕住宅新築工事(JV、同11億円超)など、10億円規模の公共工事を複数手がけている。これまで築き上げてきたみぞえブランドへのダメージは、最小限にとどまったといえる。

 また、同社は今年に入り、九州大学伊都キャンパス至近エリア(福岡市西区九大新町5-1ほか)で計画されている「研究開発次世代拠点」整備事業に、実施設計および施工担当者として参画している。

 同事業は、九州大学と連携して次世代の研究開発拠点を主体とした複合施設を整備するもの。大和ハウス工業(株)と西部ガス都市開発(株)が事業主体者として、約3.1万m2の土地を購入し、「知と感性と創造を育む『結び目』となる拠点」をコンセプトに、研究開発棟(レンタルオフィス・ラボ)・商業棟(BOOK&CAFE)・テナント棟・住居棟(学生向け賃貸マンション)を建設する。

 溝江建設が担当するのは、研究開発棟と商業棟の実施設計と施工で、竣工は23年3月上旬を予定している。

研究開発次世代拠点(完成イメージ)
研究開発次世代拠点(完成イメージ)

 行政からの指名停止措置が相次いだ際には、「自分のところで人手を用意できないから(下請に)丸投げしている」との声も同業者から聞かれた。また、パチンコ事業を移管したこともあり、売上高は減少。利益率は向上したものの、維持できるかは不透明だ。

 慢性的な職人不足と、人口減少にともなう開発需要の縮小が避けられないなか、建設業者として生き残っていけるのか。同社の今後に注目したい。

(了)

【代 源太朗】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:溝江 弘
所在地:福岡市中央区赤坂1-9-20
設 立:1964年10月
資本金:1億円
売上高:(21/9)80億2,431万円

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