2024年12月24日( 火 )

【福岡IR特別連載85】地元・長崎新聞社が酷評 IR誘致の行方は崩壊寸前

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手のひら返しの地元紙

 前号でも報じたように、長崎新聞社がこれまで県への忖度記事ばかりを報道していた姿勢を翻して、「区域認定申請」後の諸問題について初めて言及し、酷評、強い批判記事を掲載した。以下に、わかりやすく解説する。

 この記事は、新聞社がIRに詳しい「識者インタビュー」というかたちで、すべてが構成されている。従って、プロが判断し、批評が鋭く、ポイントを突いていて的確に指摘している。彼らは福岡IRの記者会見(3月30日、ホテルオークラ福岡)に率先して参加し、質問していたにもかかわらず、一切報道しなかったが、今回は不思議な“手のひら返し”である。

 結論からいうと、筆者の連載記事と同様、「年間集客計画の673万人などは実質的にあり得ない」と解説していて、これらを国が“審査"する場合は、より厳しいものとなるべきだとして、今後の区域認定申請の承認について、強く警鐘を鳴らしている。

 先日、和歌山県が議会に対し、その調達先を明確にしているにもかかわらず、「資金調達の確実性に疑念あり」として否決し、区域認定申請ができず崩壊したことの問題と、それ以上に、長崎県と議会は調達先も明確になっていないなかで可決し、国へ申請したことは大問題だと酷評している。

 さらに、前述の年間集客計画の数値を根拠とした年間売上予定の2,716億円などは過大・過剰なもので、コロナ禍問題もさることながら、中国・習近平政権が強く推し進めている“海外カジノ観光規制”などを考慮すれば、あり得ないとしている。マカオやシンガポールのIR事業実績と比較してもまったくずさんで、その実現性は実に疑わしいと解説している。

 また、IR事業者の欧州カジノ・オーストリア・インターナショナルは世界的に実績がなく、ましてやその子会社の日本法人CAIJ(林明男代表、演歌歌手・小林幸子さんの夫)は企業規模が小さく、誘致開発事業の手腕・能力も合わせて疑わしいとしている。それらは筆者が以前から重ねて指摘してきたことで、ほぼ同様の内容を指摘しているのだ。

長崎IRの区域認定申請はハウステンボスを潰しかねない

ハウステンボス イメージ    長崎県と議会、佐世保市と議会、福岡市財界の一部の関係者は、ほぼすべてに誤った認識をもっている。彼らの最大の狙いは、「ハウステンボス」をIR事業によって甦えらせたいということであり、唯一確かなことだ。

 しかし、筆者は、長崎IRの区域認定申請書の提出は「墓穴を掘っている」と重ねて解説してきた。なぜなら、彼らの考えが「味噌もクソも」一緒で、無知であり、能力がなさ過ぎるからである。今回のコロナ禍で来訪者は激減し、2020年9月期の年間集客実績は約135万人であり、計画予定数の673万人とは大きく異なる。大都市・福岡IRの年間集客計画予定の460万人をはるかにしのぐのである。

 ハウステンボスの責任者は、コロナ禍の収束後に何とか過去最大の集客数300万人超えに挑戦したいと言っている。現場の実務責任者でも、この数字を元に戻すことは大変困難だと十分に認識している。

 一方、長崎県とすべての関係者は、カジノ・オーストリアでIRの併設を実現すれば、単純に年間673万人(現状の2.2~5倍)の観光客が国内外から来訪すると予測し、区域認定申請書を国に提出しているのだ。

 コンセプトについてオランダから中国系を模索し、それが今回は欧州オーストリアとなり、IR(カジノ)をつくれば、お客がいっぱい来てバラ色の未来が訪れるという計画だ。田舎の公務員と政治家が考えた誠にお粗末な「役人特有のビジネス戦略」である。

 今回、地元新聞社が酷評している内容はその通りだが、不思議なことに、本件関係者のほぼすべての人たちは、すでにこれらを理解している。しかし、それでも誰も止めることができず、それぞれがそれぞれに忖度した結果、国への申請書提出となってしまったのだ。それぞれが個人の自己保全という意識を優先したことで、このような経緯と責任回避を生んでしまった。日本ではよくある独特の誰もが責任を取らない話である。

 ハウステンボスは今期も3年連続の大幅赤字決算を強いられている。親会社のエイチ・アイ・エス(HIS)もコロナ禍の煽りを直接受けており、ともに大幅赤字の危機的な経営環境にある。

 従って、国の認定審査前に資金調達問題などで、その予定先の撤退などによって途中で崩壊すれば、ハウステンボスも、事実上の経営者HISも、さらなる危機的状態に輪をかけることとなり、それは一挙にハウステンボス閉鎖という最悪の事態を招きかねない。

 要は、今回のIR区域認定申請書の提出は「薮蛇」なのだ。ハウステンボスというテーマパークにIRという一見併設可能に見える戦略は「ど素人の成せる技」で、基本的に誤った考え方である。どちらも、巨大な後背地人口が必須のプロジェクトであり、併設すれば同園実績の倍以上の集客になるなどまったくあり得ない戦略なのだ。

 従って、彼らは過去3回の閉鎖危機を上回る、さらなる失敗をしようとしている。すべての関係者の本件事業に関する知識と能力が不足しているからである!

 地元の長崎新聞ほか、デイリー新潮などの週刊誌までが一斉に酷評しているなか、今後ますますこれらの辻褄の合わない計画に、批評は激しくなる一方だ。従って、IR誘致開発がハウステンボスの救いの神になるはずがなく、逆に同園の閉鎖危機を招き、本件の関係者全員がプライドを守れずに、それぞれ「墓穴を掘る」こととなるだろう。

 ハウステンボスの再生を期すには、その責任者の県知事および行政と議会が即時、これらを熟慮し、IR事業から自ら撤退し、福岡IR誘致開発事業に対抗するのではなく、協力・提携することが肝要だ。

 場合によっては、その経営権を福岡IRの米国企業に売却して、共に相乗効果を狙う戦略を取るべきである。すでにこれらは地元行政が知らないところで、民間同士の話し合いが進んでいるのかもしれない。噂話は筆者の元にたくさん入ってきているが、「火のない所に…」である。親方日の丸の人たちには、これらを想像することすらできないだろう。

 筆者はこれが唯一の方法であり、民間企業なら当然考えることだろうと思う。本件の実現可能な解決策はこれしかないと確信している。

【青木 義彦】

※資料
長崎IRの行方 収支計画「背伸び」鳥畑与一氏 区域整備計画審査へ 識者インタビュー<中>(長崎新聞)

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