2024年12月29日( 日 )

「音」について考えてみた(前)

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大さんのシニアリポート第112回

 オーディオ機器メーカーのオンキヨーが大阪地裁へ自己破産を申請し、破産手続開始の決定を受けた。「オンキヨーサウンド」として、一部のコアなオーディオファンには圧倒的な支持を受けていただけに残念である。最近では老舗のオーディオメーカーのパイオニアを実質傘下に加え、ホームシアターシステム、DVDプレーヤー、アンプ、スピーカーなどホームAVを中心に、Bluetooth、Wi-Fi機能を内蔵したレシーバーなどでシェアを確保し、業績もそれなりに安定していたと思っていた。それが突然の倒産。恐らく、若いユーザーが求める「音」の空間をつかみきれなかったのではないかと思う。

オーディオシステム    細々ながら50年以上オーディオファンを自認する私は、正直オンキヨーサウンド派ではない。アンプはDENON、スピーカーはB&W、HARBETH。レコードプレーヤーはGARRARD 401、CDプレーヤーはCambridge Audio(中級品)という、どちらかというと英国的な保守的サウンドを好んだ。デジタルの時代になっても、ネットで昔の製品を求めた。

 しかし、中古品にも限界(高価で手が出せない)があり、デジタルの音に頼らざるを得なくなる。そこで出会ったのが、オンキヨーのネットワークステレオレシーバー TX8050というアンプ。とにかく盛りだくさんだ。さまざまなデジタル系端子に加えて、PHONO(レコード)端子、FM・AMチューナー付きなど、アナログ系の端子も内蔵されている。レコードファンにはうれしい限りである。この際、イギリス系の保守的な音云々とばかりいってはいられない。そのオンキヨーがなくなるというのだから不安である。

 確かに、スピーカーから流れる音楽をゆったりとした気持ちで聞く時代ではない。生活スタイルが昔とはまるで違う。ソニーのカセットテープ「ウォークマン」が出たときには音響機器の大革命ともてはやされた。レコードがCDに代わり、さらに小さなMDが発売された。その2つを合体させたCD・MDコンポなるシロモノが登場し、音響のコンパクト化が最盛期を迎えた。ところが、やがてMDが消え、CDの生産も心許ない。代わって小型のデジタル音響製品が主流を占め、もはやソフトと呼ばれる音源も必要とされなくなった。求められる「音」とそれを利用する「音場」が変わってきたのだ。

    『回転扉のむこう側』(岩城宏之著、集英社文庫)を読み終えた。指揮者岩城のエッセーである。そのなかで「音声」について触れている。「東京混声合唱団の音楽監督をやっている。日本の曲を練習していて、最近気が付くことがある。若い団員たちの発音に、濁音と鼻濁音の区別がなくなっている。鼻濁音という言葉も知らない様子である」といい、「あなたが…」を「あなたGA」と歌うので、「が」を鼻濁音でと注意してもキョトンとしているという。

 私も気になって仕方がなかった。最初に気になり出したのは、サザンオールスターズの桑田佳祐さんが歌う一連の湘南ソングからだと記憶している。とにかく、やたら「GA」を強調する。それ以降、ポピュラーソングに関してみれば、どのシンガーも「が」を「GA」と発音して耳障りでならない。

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 私が小学生時代、「五十音」の「わ行」には、「わ、ゐ、う、ゑ、を」とあり、「ゐ」は「い」と、「ゑ」は「え」と、発音が違うことを習った。あえて表記すると、「ゐ」→「うぃ」「ゑ」→「うぇ」「を」は「うぉ」と発音した。さらに、「が」も「GA」と発音するのと、鼻濁音の「が」の2例があること。鼻濁音の「が」は、「か」につく点々の代わりに小さな「〇」が1つつくこと。「学校」は「GA(が)っこう」と発音するが、「中学校・高等学校」と「学校」に「中・高」などがつくと、「がっこう」の「が」が鼻濁音になることを習った。

 今はどうだろう。岩城が指摘する「わたしは」の「わ」と「は」の区別もない。みんな「WA」なのだ。「…は」「…を」「…へ」もやがて「わ」「お」「え」に統一されるだろう。「旧仮名遣いには、それなりの発音上の音楽があったはずである。文字を読むときだけの美学ではなかったと思う。もっと遡れば古事記や万葉のころの当て字に、わが民族のニュアンスに富んだ多くの母音を推定できる」という。私も前述した「わ行」の「わ、ゐ、う、ゑ、を」の発音は、「万葉仮名」と習った気がする。その「万葉」は「まんにょう」と発音するらしい。違っていたらごめんなさい。

(つづく)


<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

(第111回・後)
(第112回・後)

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