2024年11月22日( 金 )

【BIS論壇No.386】コロナ禍、米中貿易紛争、ウクライナ紛争

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 NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は6月29日の記事を紹介する。

グローバルマーケティングの視点から見た米中貿易紛争とウクライナ紛争

グローバルマーケティング イメージ    トランプ政権が中国との貿易対抗を強めた2018年以来、現バイデン政権も中国への対抗措置を踏襲している。背景には古代ギリシアでの「ツキジデスの罠」理論で、スパルタとギリシアの対抗と同じ構図が浮かび上がる。

 かつて1980年代に日本が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともてはやされ、瞬間的にGDP Per Capitaで日本が米国を抜いて世界1位に躍り出て、米国が対抗として、日本の対米自動車輸出自主規制。さらには日本の自動車メーカーの米国での製造誘致、日本の米国からの輸入拡大。そのための日本の構造改革、さらには1985年のプラザ合意による円の大幅切り上げ要請により、以後日本は30年にわたる経済停滞を余儀なくされ、日本衰退論も姦しくなっている現状である。

 1980年代後半に6年間の商社ニューヨーク駐在を経験して、日米経済摩擦の渦中にあったものとして日米経済摩擦と米中貿易戦争に関して以下で検証したい。

(1)筆者は日本が1990年来30年の長きにわたり、長期経済低迷に陥っている遠因は1985年のプラザ合意による円の大幅切り上げだとみている。この観点についてはかつて筆者が米コロンビア大学経営大学院・日本経済経営研究所客員研究員として留学時、指導を賜った故ロバート・マンデル教授(1999年ノーベル経済学賞受賞学者)が日本衰退の原因はプラザ合意で日本が大幅円高を受け入れたことだと力説。その後、中国人民大学客員教授、中国財務省顧問として中国政府の金融財政政策へのアドバイスに際して、日本の円高の悲劇を繰り返してはならない。米国の要請があっても元の切り上げに絶対応じてはならないと中国政府関係者に力説していたことを思い出す。

(2)米国は象徴的なファーウェエイへの禁輸など、IT関連での中国対抗策を強化している。これはかつて1980年代、日本が経済面で米国に肉薄していたころ、東芝機械がポーランド経由工作機械をソ連に輸出。結果、ソ連は潜水艦のプロペラの消音に成功。米国潜水艦がロシア潜水艦を追跡できなくなった。ココム違反だとして東芝の対米輸出の1年間の輸出禁止。米国主要新聞に東芝の謝罪広告を出すように要求された。

 しかし、後日の調査結果、ソ連潜水艦のプロペラの消音は東芝機械輸出前から実現したことが判明。東芝はあらぬ濡れ衣を着せられたわけだ。

(3)5月のバイデン大統領訪日に際し、米国はIPEF(Indo Pacific Economic Frame Work=インド太平洋経済枠組み)を提案した。南太平洋のフィジーを含め14カ国が参加を表明しているという。

 これはTPPを離脱した米国が21世紀の発展地域のアジアを取り込む経済戦略で中国包囲網を意図するものだ。

 日本はすでにFOIP(Free and Open Indo-Pacific=自由で開かれたインド太平洋)を提案。インドを取り込み、対中国経済包囲網を構築中だ。

 一方、中国はRCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership=東アジア地域包括的経済連携)に注力する傍ら、CPTPP(Comprehensive Progressive Trans Pacific Partnership)への参加も申し込み、参加を表明している英国、台湾とも競合している。

(4)米国の戦略を競争情報(Competitive Intelligence)、ビジネスインテリジェンス(Business Intelligence)の観点から分析すると下記のようになる。

1:これから発展するユーラシアにおけるロシアの封じ込めにはNATOを通じ、今回のウクライナ紛争を足場に武器供与で対抗、ロシアを分断する。

2:21世紀に発展するアジアに関しては、米中貿易戦争戦略としてIPEFで発展する中国に対峙する。

3:だが、中国は21世紀に発展するアジア、ユーラシア大陸を目標に「一帯一路=Belt&Road Initiative」の拡大、上海協力機構(Shanghai Cooperation Organization=SCO)、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南ア)との連携強化により、2035年の経済大国、軍事大国を目標に、BRICSについてはさらに南米のアルゼンチン、アジアのインドネシア、中東のサウジアラビアなどを勧誘し、新興国の団結を一層深めようとしている。

4:米国はQuad(米国、豪州、日本、インド)とAUKUS(豪州、英国、米国)
でアジアで中国、北朝鮮、ロシアの軍事的包囲網を構築中である。これは小型のアジアのNATOともみられている。

5:よって日本としては、21世紀に発展するアジアを見据え、アジアの一員として、米国一辺倒でなく、日本の利害を慎重に考慮しつつ、日本独自の外交、経済戦略を樹立することが肝要であろう。

コロナ禍とウクライナ紛争

(1)コロナ禍は6月27日現在、世界全体で5億4,300万人強。(死者632万人)、
米国8,600万人強(死者101万人)、インド4,300万人(死者52万人)、ブラジル3,230万人(死者67万人)、 フランス3,071万人(死者15万人)、ドイツ2,777万人(死者14万人)が5傑でいまだ衰えを知らない。日本は924万人(死者3万100人)と一進一退だ。

 コロナ禍で発展途上国を中心に世界経済が大きな影響を受けているなか、2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は4カ月、120日を経ても、終結の見通しはつかず、場合によってはアフガン戦争のごとく長期にわたるとの見方をする人もある。

(2)いずれにしてもウクライナ紛争が今後の世界政治、経済に与える影響は予想以上に大きく、とくにエネルギー、穀物、食料への影響はヨーロッパ、アフリカ、中東諸国を中心に今後大きな問題になると思われる。

(3)ウクライナ紛争に関しては、遠藤誉・筑波大学名誉教授の『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』世界はどう変わるのか』(PHP新書)、および矢吹晋・横浜市立大学名誉教授の論説がすぐれている。

(4)遠藤誉先生は「ウクライナは本来、中立を目指していた。それを崩したのは2009年当時のバイデン副大統領だ。ウクライナがNATOに加盟すれば、アメリカは強くウクライナを支持すると甘い罠を仕掛け、一方では狂気のプーチンにウクライナが戦争になっても米軍は介入しないと告げて、軍事攻撃に誘い込んだ。第二次大戦以降のアメリカ戦争の正体を正視しない限り、人類は永遠に戦争から逃れることはできない」と米国に手厳しい批判をしておられる。一方、米国のイーロン・マスクはウイグル自治区を太陽パネルの基地にして世界最大クラスのEV工場建設をもくろんでいるとの情報にも触れておられる。(PHP新書)

(5)矢吹晋先生はバイデン政権のとくにブリンケン国務長官グループのとくにヌーランド国務次官補とウクライナとの癒着について独自の資料と情報収集力でウクライナ戦争を鋭く批判しておられる。欧米のメデイア報道に惑わされることなく、独自の情報収集により、事の真相を究明する努力が肝心だと思われる。

(6)ASEAN諸国は中立の対応で、ロシア批判に賛成したのはシンガポールだけである。アジアの一員である日本はアジア諸国の動向も十分踏まえて日本政府はウクライナ戦争に対処すべきだと思われる。欧米に引きずられ、国防費をGDPの2%に増額する意見が岸田政権にあるが、慎重にも慎重な対応が肝心である。

主要参考文献

『ウクライナ戦争に於ける中国の対ロシア戦略』~世界はどう変わるのか
遠藤誉 PHP新書 2022年4月

『ロシアの興亡』河東徹MdN新書 2022年6月

月刊TIMES 月刊タイムズ社 2022・7
ウクライナ問題の「真相」と「深層」

「ウクライナ戦争の不都合な真実」鳩山由紀夫

「戦争回避を拒んだのは誰か-ウクライナ戦乱の虚像と実像―力による現状変更を強行する米の狙いは何か」植草一秀

ほか


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

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