2024年07月28日( 日 )

3年ぶりに中洲の街が華やぐ 中洲ジャズ開催秘話(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

中洲JAZZ実行委員会 中間 浩史 氏

 2009年に始まったストリートライブ「中洲ジャズ」が、9月17日・18日に開催された(「NAKASU JAZZ 2022〜as usual」)。台風の接近にともない、18日の開催はスケジュールを変更し、オンラインでの配信となったが、リアルイベントでの開催は実に3年ぶりだ。中洲JAZZ実行委員会の中間浩史氏に、今回の開催の秘話をうかがった。

    ──営業活動はいかがでしたか?

 中間 3年ぶりに協賛集めも含めて営業活動を行うことになりました。ほぼ一からのスタートで、相手の担当者も変わるなどしていたため、その際は中洲ジャズのコンセプトから説明しました。今年は苦労しましたし、例年通りには集められませんでした。

多くの協力企業が名を連ねる
多くの協力企業が名を連ねる

    感染者が増えていることを心配して協賛を出さないという企業はありませんでしたが、コロナ禍で自社の売上が落ち、広告宣伝費を出せないといわれることはありました。ただ、逆に助けてくださったスポンサーさんもいました。たとえば、あるステージのタイトルをとっていただいたA社です。もともとここは、別のB社とC社プレゼンツのダブルタイトルのステージでした。しかし、B社が下りることになったため、代わりに入ってもらえませんかと打診しました。するとA社の会長が、「中洲ジャズが好きだから、ここはひと肌脱ごう」と言ってくださりました。とても嬉しかったのですが、その後もう一枠の方に入っていたC社も下りてしまったため、本当に困りました。仕方なく、A社に二枠分、両方とも使ってくださいと伝えたところ、なんと「それじゃ困ろうもん。増額してあげる」と言われました。苦しい情勢のなか、助けてくださるスポンサーさんがいて感激しました。

 中洲に本社があるD社も、「うちが中洲ジャズに協賛出さないのはおかしかろうもん」と言ってくださります。あまり広告効果を狙っていない企業も多くあり、感覚としては寄付に近いかもしれません。中洲ジャズに協賛しているということに対する、市民へのPRは度外視です。増額していただいたA社の会長は「うちはBtoBの企業だから、BtoCの企業広告を行ってもなんのメリットもない」とはっきり言っていたものの、それでも出してくれたのは強い思いがあったからでしょう。

 ──多くの協力があって成り立っているのですね。

 中間 パンフレット上の協賛一覧のロゴしか掲載されていない企業は寄付や商品・サービスの無償提供などをいただいたところです。広告協賛はできなかったものの、社長がポケットマネーで寄付してくれているところもあります。中洲ジャズはボランティアで運営されていると、みんな知っているんですね。中洲ジャズには営業部隊もいますが、それぞれ本業の仕事があるわけです。そういう状況を知っている人も経済界には多くおり、それをわかって支援してもらっています。地道に行うクラウドファンディングみたいな感じです。リターンはありませんが、思いだけで成り立っています。寄付や協賛を行ってくれる企業まで含めて、中洲ジャズ実行委員会だと思っています。

 寄付以外にも、たとえばアーティストの部屋を無料で提供してくれるホテルもあり、そのおかげでアーティストの宿泊費を抑えられています。ほかにも、接待に使っていいと言ってくださるクラブや楽屋に花を置いてくださる花屋さん、ステージドリンクを提供してくださる酒屋さんなど、お金以外の提供も含めて成立しています。

 また、市民の皆さんにはグッズを買っていただいています。タダで演奏が聴けるため、何か1つ買っていこうという気持ちになっていただけるのでしょう。とはいえ、ボランティアでやっているし、法人でもないので利益を出す必要はありません。これだけ売れて、これだけスポンサーがついたらペイできるという状態の予算を組む。だからグッズが完売したらOKという収支の在り方です。ただ、今年は18日が中止だったため、2日目分がまったく売れていません。そこは赤字ですが、興行中止保険で賄ったため、収支上では赤字ではありません。プラスでもないですが…。

 一方で、警備費用やステージの設営の人件費などが高騰していて、資金的には厳しいと感じている面もあります。市と共催のイベントではないため、公金を使うこともできないのです。予算がないため、アーティストには「これだけしかギャラが払えないけど出てもらえますか」というお願いの仕方にはなってしまいます。しかし、「安いギャラでも九州でジャズをPRする場所は限られている。小さい場所ではなく、大きなイベントでやる方が多くの人に知ってもらえるから」というプロモーション感覚できてくださるアーティストさんもいてとても感謝しています。それで良好な関係が成り立っているアーティストさんも多数いらっしゃいます。

中洲ジャズ

 ──今回の開催で感じたことと、来年の開催に向けての意気込みを聞かせてください。

 中間 先ほども述べたように、オンライン配信の需要が高まってきているのを肌で感じました。近年は「オンライン配信しないんですか」という問い合わせが非常に増えており、それに対応していくのかが今後の検討材料になります。しかし、中洲にきてもらうのがコンセプトのイベントですし、なによりグッズが売れません。オンライン配信を有料にするという話もありますが、中洲ジャズは無料にこだわってきました。

 「文化の発信」という意味で、裕福さなど関係なく誰でも平等に楽しんでいただけるように、という思いで開催しているため、これは難しい問題ですね。たとえば病気で観に行けない、福岡から遠方に引っ越したが中洲ジャズは観たいなど、さまざまな状況があります。とはいえ、配信を行うのもそれなりにコストがかかるため、そのお金をどこから捻出するかという問題も出てきます。確実に世の中はオンラインの方向に動いており、中洲ジャズを知ってもらうには有効なツールだとも思うため、オンライン配信については今後も考えていきます。

 また、ほかにはグッズが現金のみの販売で電子マネーに対応していないことも課題に感じています。いかに時代の変化に対応していくか、これは今後のカギになってくると思います。

中洲JAZZ実行委員会 中間 浩史 氏
中洲JAZZ実行委員会 中間 浩史 氏

    来年は中止になった2日目のリベンジをしたいですね。今年中止になった2日目に出演する予定だったアーティストには全員出演してもらいたいと思います。あとは、毎年小中学校のバンドクラブなどが出てくださっていたのですが、今年は中学校で部活ができない状況が続き出演を見送られたため、そういう学生たちにも出てほしいです。コロナがどういう状況になるかはわかりませんが、来年も確実に実施したいと考えています。

(了)

【吉村 直紘】


<プロフィール>
中間 浩史
(なかま・ひろふみ)
1972年2月生まれ。福岡県糟屋郡篠栗町出身。ITインフラ構築関連事業を行うSABERの代表。中洲ジャズでは運営専務として、現場の責任者を務める。

(前)

関連キーワード

関連記事