2024年12月22日( 日 )

【鮫島タイムス別館(7)】閣僚辞任ドミノ誘発の大連立構想、「広島サミット花道論」も浮上

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 山際大志郎経済再生担当相、葉梨康弘法相、寺田稔総務相がわずか1カ月の間に立て続けに辞任に追い込まれた。永田町は大揺れだ。

 岸田内閣は旧統一教会問題や物価高で支持率が続落しているものの、自公与党は昨秋の衆院選と今夏の参院選に圧勝し、衆参両院で安定多数を得ている。しばらくは国政選挙もなく、本来ならそこまで慌てふためく必要はない。にもかかわらず、野党の辞任要求にいとも簡単に屈するのはなぜか。

 岸田文雄首相が率いる宏池会(岸田派)は自民党の第4派閥に過ぎない。最大派閥・清和会(安倍派)や菅義偉前首相、二階俊博元幹事長ら非主流派を抑え込むため、同じく支持率低迷にあえぐ野党第一党の立憲民主党との連携を探ったのが転落の始まりだった。

 旧統一教会と密接な関係を続けてきた清和会や、創価学会批判への波及を恐れる公明党は、旧統一教会の被害者救済法案に及び腰だ。そこで野党の立憲民主党と日本維新の会と協調して自公立維4党で協議するテーブルをつくり、清和会や公明党を牽制して法案策定を進めようとした。

 この動きに便乗したのは財務省だった。宏池会は池田勇人、大平正芳、宮澤喜一ら大蔵省(現・財務省)OBの首相を輩出し、伝統的に財務省と親密である。財務省は安倍政権下で冷遇されたが、岸田政権の誕生で復権。さらには安倍氏が急逝して清和会が後継争いで混迷し、財務相を9年近く務めた麻生太郎氏が自民党副総裁としてキングメーカーの座についたことで「我が世の春」を迎えた。この千載一遇の好機を逃す手はない。財務省は悲願の消費税増税を画策し始めた。

 与党だけで消費税増税を強行すれば、次の選挙でしっぺ返しを受ける。与野党合意が不可欠だ。お手本になるのは2012年、民主党政権末期の自公民3党合意である。財務省は当時の野田佳彦首相(現・立憲最高顧問)と自民党の谷垣禎一総裁(宏池会)を橋渡しし、消費税増税の3党合意にこぎつけた。今回は旧統一教会の被害者救済法案を皮切りに岸田首相と立憲の関係を発展させ、消費税増税の「3党合意」を再現させる―。

 満身創痍の岸田首相に代わって野田元首相を首班に担ぐ大連立構想も浮上している。宏池会関係者は「内閣支持率は上向く気配がなく、岸田首相のもとで解散総選挙を戦うのは無理。岸田首相には来年5月に地元・広島で開くG7サミットを花道に勇退してもらい、麻生氏か野田氏を首班に担ぐ大連立救国内閣を発足させ、来年末の税制改正大綱で消費税増税を決定するのが最速シナリオだ」と構想する。

 岸田首相や麻生氏が清和会との抗争に動き出したとみるや、立憲はここぞとばかり交渉のハードルを引き上げた。3大臣の辞任を次々に要求して岸田首相に受け入れさせ、久しぶりに国会での存在感を増している。立憲は岸田内閣を弱体化させて大連立を視野に入れた今後の政局の主導権を握る狙いだ。

 一方、清和会を含む自民党の非主流派や公明党は岸田首相と立憲の急接近に危機感を強めた。宏池会所属の葉梨法相と寺田総務相の更迭を求める声が与党からも噴出したのは危機感の裏返しだ。

 とくに清和会は安倍氏が急逝した後、萩生田光一政調会長、西村康稔経済産業相、世耕弘成参院幹事長、松野博一官房長官、高木毅国会対策委員長らによる後継争いが激化し、遠心力が強まるばかり。ここで宏池会と立憲に大連立を仕掛けられれば、清和会は賛否両論で大揺れになり分裂しかねない。そうなる前に岸田内閣を弱体化させ、主導権を奪い返す必要がある。清和会の松野官房長官や高木国対委員長も自公立維4党の協議をサボタージュしている感がある。閣内や自民党執行部にも岸田離れは着実に広がっている。

 かくして岸田内閣は立憲と清和会から挟み撃ちにあって孤立し、3閣僚を次々に切る羽目になった。

 清和会は安倍氏がこだわった憲法改正、安全保障、積極財政の3つのプロジェクトチームを設置。萩生田氏は岸田首相や財務省が予定していた総額25兆円規模の補正予算に反発し、29兆円へ増額させた。立憲の泉健太代表はこの増額を激しく批判。財政規律を重視して消費税増税を目論む宏池会・財務省・立憲の緊縮派連合と、大胆な財政出動を求める清和会中心の積極財政派の対立は激化している。

 岸田首相はそのなかでオロオロするばかりだ。今後の政権運営の軸足をどこに置くのか。立憲と連携強化を進めて清和会と激突するのか、立憲と決別して自民党内の融和に転じるのか、それともどっちつかずのまま挟み撃ちのなかで瓦解していくのか。

 岸田首相は経済財政政策を財務省に丸投げする一方、首脳外交には並々ならぬ意欲を示している。葉梨法相を更迭した後に妻同伴で飛び立った東南アジア訪問の様子もSNSで次々に発信。この広報活動を担うのは就任1年を機に首相秘書官に抜擢した長男だ。自民党内は「家族で外遊を満喫している様子が岸田離れに拍車をかけている」(閣僚経験者)と冷ややかである。地元・広島で来年5月に開催されるG7サミットを機に勇退を迫る「サミット花道論」もささやかれ始めた。

【ジャーナリスト/鮫島 浩】


<プロフィール>
鮫島 浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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