武雄市長に4億円請求命令の背景(2)
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佐賀地裁は11月18日、佐賀県武雄市に対して、市長に約4億円を請求するよう命じる判決を言い渡した。裁判は、市が議会の議決を経ずに民間企業と契約を結んだのは違法だとして、住民らが訴えていたもの。判決は原告の訴えを認め、市の敗訴となった。自治体首長が4億円という多額の事業費の負担を命じられるという事態は、なぜ起きたのか。背景を追うと、地方が抱える防災問題、議会運営、業務委託などが絡まった地方行政の現実が見えてきた。
相次ぐ浸水被害と切実に求められる対策
今回の防災情報配信事業が計画として持ち上がった背景には、相次いで武雄市を襲った豪雨災害がある。
武雄市は18年と21年のいずれも8月に、豪雨による甚大な浸水被害を受けた。武雄市は内陸の盆地で、武雄川、高橋川などの小流が六角川へ合流し有明海へ注ぐ地形である。
武雄市が公開しているWEB防災ハザードマップで「洪水に関するマップ」を見ると、市街地の多くが浸水想定地域に色分けされていることが分かる。別資料によると、被害が甚大であった市街地の武雄市朝日町近辺の海抜はなんと3.9m。要するに、自然の高低差で海に水を排出する力が小さいのだ。
武雄市を含む六角川水系で浸水が発生する原因は、いわゆる内水氾濫だ。内陸の海抜が低いため自然排水では河川に雨水を排水することができず、ポンプを利用しなければならない。そして、そのポンプの排水能力を流れ込んだ水の量が大幅に上回ることで、洪水が起こってしまう。武雄市は昔から洪水発生の可能性が高い地域として知られ、対策として河川のあちこちに排水ポンプ場がある。
しかし過去2回の豪雨は、想定を超えたすさまじいものだった。18年の豪雨では8月27日の降り始めからの24時間降水量が武雄市周辺で400mmを超えた。武雄市でもっとも雨が降る6月の平均総雨量が300mm前後だから、その一か月分を超える雨が1日で降ったことになる。また、21年には8月11日~14日で、総雨量が1,000mmを超えた計測地があり、僅か4日間で年間の平均総雨量の半分が降った。このような想定を超えた豪雨によって、被害は甚大なものとなった。
両年の被害状況を次の通りである。
2018年 住宅床上浸水:1025 同床下浸水:511
2021年 住宅床上浸水:1183 同床下浸水:579武雄市の世帯数は約1万7,500世帯であり被害の大きさが分かる。その他、福祉関係施設、病院、商工業施設、農業用地なども大きな被害を受けた。
武雄市のみならず六角川水系の浸水被害規模は、18年は5,800ha、21年は5,400haである。これは、福岡県田川市の総面積が54km2(5,400ha)であるので、それと同等以上の規模が浸水したことになる。
武雄市の対策、防災情報受信機を各戸設置
武雄市は18年の水害を受けて対策を進めた。その1つが防災放送受信機の各戸設置である。
従来、災害時の防災情報周知方法として、公共施設に設置された拡声器で周辺住民に対して避難情報などを知らせていたが、豪雨時には激しい雨音で聞こえないという声が市民からあがっていた。
そこで市は、各世帯が住宅内で防災情報を受信し放送するシステムを構築するとして、20年3月の予算で、戸別受信機を市内のすべて約1万8,000世帯に2年をかけて設置するために3億5,150万円を予算計上、総事業費は約7億円弱を見込んだ。
19年の災害からちょうど1年となる、20年8月28日、市は戸別受信機の配布と設置工事を始めた。1世帯あたり1台を、受信機と工事費用含めて無償で貸与する。
正式名称は「防災行政放送戸別受信機」。ただ1つ疑問点がある。実はこれ、無線機ではない。ケーブルテレビ回線を利用した有線受信方式なのである。
外観を見て分かる通り、太いケーブルが受信機とつながっている。上部にアンテナが付いているが、これはNHK-FMのみを受信するためのもので、防災情報は受信することができない。この点について武雄市は、山間地域などの電波受信困難地域の事情も考慮したとしているが、武雄市全体の受信機を有線にすることははたして適切だったのか、疑問が残る。
豪雨等の水害から身を守るには、まず何より避難が大切である。できれば、避難指示が行政から発せられる前に、避難準備は進めたい。そのときに防災情報は、避難先への移動中、避難先でも極めて重要である。しかし、有線受信機では避難時に携帯して利用することができない。また、たとえば、夜中の豪雨が心配されるとき、万が一を考えて2階で就寝しようとしたとする。高所移動は避難のための大切な予備行動である。しかし、受信機が1階に固定されていれば、2階にもって上がることもできない。
2台目以降の受信機設置を希望する場合、受信機は1台あたり 9,460円(税込)、設置作業等の代金は1カ所につき11,000円(税込)となっている。
はたして、この受信機は防災用として適切だったのか。どのような経緯で決定されたのか。
(つづく)
【寺村 朋輝】
法人名
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