2024年07月16日( 火 )

武雄市長に4億円請求命令の背景(4)

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 佐賀地裁は11月18日、佐賀県武雄市に対して、市長に約4億円を請求するよう命じる判決を言い渡した。裁判は、市が議会の議決を経ずに民間企業と契約を結んだのは違法だとして、住民らが訴えていたもの。判決は原告の訴えを認め、市の敗訴となった。自治体首長が4億円という多額の事業費の負担を命じられるという事態は、なぜ起きたのか。背景を追うと、地方が抱える防災問題、議会運営、業務委託などが絡まった地方行政の現実が見えてきた。

実は市の職員も議決が必要だと認識

 一部議員が公開した、武雄市総務部作成と見られる契約にともなう業務仕様書には、「この業務の契約は、議会の議決を要するため、議会の承認を得られない場合は本契約として成立しません」と明記されている。

 また、契約前の議会の総務委員会でも、市側の担当者が「5月入札、仮契約、6月議会承認」と述べていたことが分かっている。

 上記から、市の末端の担当者は議会承認が必要と認識していたことが分かる。

 さらに、3月の予算審議時点でも、戸別受信機のモデルとして、すでに武雄市の一部地区に存在している無線受信機を参考に話が行われて、有線の話は一切出なかったという証言がある。そのような経緯は裁判でも参考にされた。

何が暴走の理由なのか? 議会のチェック機能は?

武雄市役所  職員上層部の暴走なのか、小松市長の暴走なのか。議会の答弁で市長は、担当者の提案に違和感をもちながらも最終的に承認したなどと受け身な姿勢をにおわせた。ある議会関係者から次のような話を聞いた。

 「小松氏は京都の出身で地盤をもたない。前市長樋渡氏時代からの取り巻きの1人(Y)が小松氏の選挙を助けており、小松氏はYに逆らえないのだ。」

 小松市長の経歴を見ると、1976年、京都府生まれ。2001年、東京大学法学部卒業。大学時代の恩師に現熊本県知事の蒲島郁夫氏がいる。同年、総務省入省。06~14年まで武雄市長を務めた樋渡啓祐氏に招かれ、10年に総務省を退職し、武雄市職員となった。14年12月に佐賀県知事選出馬のため任期途中で市長職を辞した樋渡氏の後継として、15年1月に初当選。得票率51.3%の僅差だった。18年12月には無投票で再選をはたした。

 エリートだが、よそ者であり、前市長・樋渡氏の縁で武雄市にやってきたことが分かる。選挙も弱い。とすると小松氏はお飾りに過ぎないのか。

 さて、防災情報システムの業務委託契約に話を戻すと、本件は予算計上から実機の配布まで実に速かった。20年3月予算計上、5月末公募審査で業者決定、7月契約、8月末に戸別配布開始。とても速い。行政と業者との間でシステム構築の仕様や実機の選定について、さまざまな打ち合わせが必要なはずだが、これも業務委託契約だからだろうか。前述のように、本来なら6月議会へ契約議案が提出される予定だったようだが、実際にはそれは行われなかった。

 市は今後、福岡高裁への控訴審で、損益相殺を主張する方針だが、これについては一審の佐賀地裁が損益相殺を認めていなかった。理由は、市議会の議決を経ていれば、実際には異なる防災システムが導入されていた可能性があったためだ。

 さらにこれに関して『佐賀新聞』(12月1日付電子版)では、「(市の訴訟代理人の弁護士は)業務委託契約の『追認』を議会に求めるよう助言していたことも明らかにした。議会が『追認』という事後承諾をすれば、控訴審で有利に働く可能性も出てくる」という。

 武雄市議会の追認には先例がある。13年に全面改装され、いわゆる「TSUTAYA図書館」の第1号として全国的に話題を集めた武雄市立図書館をめぐるCCC(TSUTAYAなどを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(株))への指定管理契約である。指定管理契約は議会の承認が必要であるが、12年5月に市長がCCCとの契約を結び、同年7月に議会はそれを追認している。本件はその後、市に対する住民訴訟へ発展した。また、図書館運営においても図書選定問題などが大きく報道され、後々まで耳目を集めた。

 今回の防災情報システム契約も議会へ提出されれば、追認はあり得るのか。ある関係者はいう。「武雄市議会の定員は20。しかし、市政を厳しく監視できるのは5、6人程度しかいない。」市も議会もできれば対立は避けたい。しかしそのような馴れ合いの慣習が、議会承認を無視した執行部の暴走という事態の温床になったと反省すべきである。

(つづく)

【寺村 朋輝】

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