2024年11月22日( 金 )

武雄市長に4億円請求命令の背景(5)

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 佐賀地裁は11月18日、佐賀県武雄市に対して、市長に約4億円を請求するよう命じる判決を言い渡した。裁判は、市が議会の議決を経ずに民間企業と契約を結んだのは違法だとして、住民らが訴えていたもの。判決は原告の訴えを認め、市の敗訴となった。自治体首長が4億円という多額の事業費の負担を命じられるという事態は、なぜ起きたのか。背景を追うと、地方が抱える防災問題、議会運営、業務委託などが絡まった地方行政の現実が見えてきた。

武雄市をめぐるほかの訴訟

武雄市役所    実は武雄市は、他にも訴訟を抱えている。

 「武雄市に1万円をふるさと納税として寄付したのに契約通りの返礼品を受け取れなかった」として、さいたま市の男性が8,150円の損害賠償を求めて市を訴えていた。11月24日の判決で、さいたま地裁は、男性の訴えを認め、市にふるさと納税の返礼限度額にあたる3,000円を支払うよう命じた。

 本件は、20年末から年明けにかけて武雄市へふるさと納税を寄付した人に対し、委託業者が約2万7,000件分の返礼品を未発送にしていたものだ。市は業務委託会社との契約を21年8月に解除し、市が業務を引き継いでいた。市は業者に対して業務不履行を理由に委託費用の返金をたびたび求めていたが、返金がないため、22年4月に委託費用と違約金としてその1割を合わせた約3,800万円の支払いを求めて佐賀地裁に提訴している。

 これについても業者選定にあたり副市長の決裁印がないなど、市側のずさんさが明らかになった。そして業務を引き継いだ市担当部署は、対応部屋を市役所内に設置し、寄付者への電話対応、寄付金返還、代替品の手配、発送などの膨大な業務をこなしたのである。人件費まで含めると大変な損害であることが推察される。

 ちなみに先述のYは、このふるさと納税の委託業者ともかかわりがあるとの噂もある。

 ある有権者はこのように語った。
「武雄市はのどかな田舎町。純朴な人が多く、市長などの権威ある人に対して従順な人が多い。だが、武雄市立図書館などで全国的な注目を集めたころから、いろいろなことが変わってしまった」

選挙の行方は

 18日には武雄市長選挙の投開票が控えている。

 11日の告示後、立候補を届け出たのは(1)で紹介した2名だけだ。3期目を目指す現職の小松政氏(46)と、新人で元市議会議員・宮本栄八氏(67)、いずれも無所属。現職と新人の一騎打ちである。

 裁判の結果が出た後の選挙戦だけにさぞ盛り上がっているかと思いきや…。

 13日に現地の有権者に話を聞いた。

「あんまり盛り上がっていませんね。あれだけの判決が出て、市政に対する疑問が投げかけられている時期なのに。前々回の現市長が初当選したときは、前職の樋渡氏後の市政を決める選挙だということで市全体が大変熱くなりましたよ。しかし、前回は無投票でした。今回もまったく、私の周囲の有権者でも関心がありません。そもそも2人の動静も分からないんです。」

 さらに新人を支持する別の有権者にも話を聞いた。

「今回の選挙は判決後でもあり、新人のチャンスなんですが、あまり組織だった選挙をやっている印象はありませんね。候補者本人の姿勢にもあまり強い意気込みが感じられない。本人は『現市政に疑問を持つ市民に広く訴えたい』というふんわりした感覚のようです。もっと関心をもってもらえるように選挙を盛り上げなければ、投票率は上がらず、期待する反市長票は集まらないのじゃないかな。」

 という、何とも残念な様相なのだ。

 こんなことでは裁判の結果にもかかわらず、市政に対する疑問の投げかけを市民が自ら放棄しているのと同じである。これでは市政の引き締めを期待することもできないだろう。

 選挙の結果と、今後の武雄市政と議会、そして市民の動向にも引き続き注目したい。

(了)

【寺村 朋輝】

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