2024年12月22日( 日 )

原発の運転60年超えを実質承認、将来は「過去の遺物」

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

原発推進が続く理由

電力 イメージ    これまで、原子力発電所の運転期間は原則で40年、最大60年とされてきたが、2022年12月16日の経済産業省の有識者会議で、実質的に60年超えの運転が承認される方針が立てられた。

 一方、原発は、懸念されていた安全性の問題が11年の福島第一原発事故で表面化し、事故が起こった際に甚大な被害をもたらすことが明らかになっている。また福島第一原発の廃炉問題には出口が見えず、長年にわたり対応が必要な状況にある。ひとたび事故が起きると莫大な対策費用と廃炉費用が発生するため、財政的にも原発を抱えるリスクは大きいことが周知の事実となった。これらの状況により、世界では原発新設が見直される流れにあるなか、おそらく利権の問題もあるだろうが、日本はなぜ今までの方針を変えないのか。

 また、米エネルギー省が12月13日に研究発表を行った核融合など、新たなエネルギー技術の開発が進み、注目が集まっている。これまでのエネルギー政策の延長にとどまらない、新しいエネルギー技術を推進する指針を立てることはできないのだろうか。

「前例踏襲」が足かせに

 これらの理由としてまず考えられるのは、今の日本が「失敗」できない社会になっていることだ。新規事業に失敗は付き物であり、始める前から必ず成功すると分かるものはない。とくに新たなエネルギー技術は事業として進めてみなければ、これまでの技術より優れていて安全かどうかはわからない。可能性のある新たな技術に取り組んでみて、そのなかから未来の社会を担うものが見つかればよいのだ。しかし、リスクは必ずある。

 2つ目の理由として、日本という国は前例踏襲主義が広くはびこっていて、前例のないものには承認が下りにくいことだ。企業にしても、2~3年の短期スパンだけで見れば、将来的な問題を抱えていたとしても前例を踏襲してやり方を変えない方が、大きな損失を出す可能性は低い。しかし、これらの視点ばかりに囚われてしまうと、日本以外の国で原発に変わる新たなエネルギー技術開発が次々と進み、気づいたころには守ってきたものが時代遅れになっていたという可能性もある。

 また、失敗できない「空気」は、日本の社会の仕組みによるものでもある。一部の企業を除き、多くの企業で最も決定権をもつのは株主だ。そのため、日本のエネルギー問題に風穴を開けるには、とくに大きい企業では株主が、短期的な結果を求めるよりも挑戦できる状況を容認することがまず欠かせないと考えられる。挑戦を重視する空気が組織に生まれない限り、失敗できない社会から脱却できず、エネルギー問題では、前例の踏襲が続くのではないかと懸念される。

 新たなエネルギー技術が生み出されるなか、今の時代は、世界のエネルギー技術の転換点にあると考えられる。しかしこのままでは、世界で原発に替わる新たなエネルギー技術が実用化されて広く普及してから、はじめて日本でもエネルギー技術の転換が起こるという流れになりかねない。日本のエネルギー事情が気付いたころには時代遅れなものとなる前に、早めに方針を転換することが望まれる。

【石井 ゆかり】

関連キーワード

関連記事