2024年11月22日( 金 )

企業の「自己変革」支援を通して福岡の活力創出を後押し(前)

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福岡商工会議所 会頭 谷川 浩道 氏

 新型コロナウイルスの収束はまだ見通せず、不安は尽きないものの、人流の回復、水際対策の緩和による海外との往来の再開など、福岡においても事業環境は徐々に戻ってきている。福岡商工会議所会員の要望も、コロナ禍での困窮を訴えるものから、事業再構築や生産性向上に関するものに変わってきているという。同会議所は2022年、経済と社会の再起を図るために、どんたくの3年ぶり開催などさまざまな事業に積極的に取り組んだ。23年の取り組みなどについて、谷川浩道会頭に話を聞いた。

コロナ禍脱却が見え始めた

福岡商工会議所 会頭 谷川 浩道 氏
福岡商工会議所
会頭 谷川 浩道 氏

    ──2022年の事業を振り返ってみて、いかがですか。

 谷川浩道氏(以下、谷川) 22年は国内外とも不安に覆われた1年でした。2月に始まったロシアのウクライナ侵略が世界中に大きな不安を広げ、対露制裁とそれに反発するロシアの対抗策によって貿易・物流が混乱し、さらにはエネルギー・原材料価格の高騰に拍車がかかりました。日本経済では、急激な円安進行と輸入コストの増加が企業の収益を大幅に圧迫しました。

 一方で、コロナ禍からの脱却が見え始めた1年でもありました。多くの国が脱コロナに転換し、社会経済活動の正常化が進みました。日本でも第6波、第7波と感染拡大の波はあったものの、行動制限は次第に緩和され、政府は夏以降、コロナと共生する社会へと舵を切り、日常生活と経済活動の両立が本格化しつつあります。

 当所では、22年、コロナ禍に萎縮せず、経済と社会の再起を図るために攻めに転じるぞという気概でさまざまな事業に取り組みました。ゴールデンウィークには、3年ぶりに「博多どんたく港まつり」を開催しました。第6波が押し寄せ自粛ムードが続くなかではありましたが、「祭りで街を、福岡を元気にする」という強い想いがありました。全国に先駆けて再開した大規模な祭りとして注目され、多くの市民の皆さまに喜んでいただきました。どんたくをきっかけに、博多祇園山笠や放生会はもちろん、全国各地で祭りが再開され、日本中の街に活気が戻ってきました。

 その後も、食産業振興の「Food EXPO Kyushu 2022」やデジタル化推進の「FUKUSHO DIGITAL EXPO 2022 second」などの大規模な展示・商談会をリアルで開催し、多くの事業者にご利用いただきました。

FUKUSHO DIGITAL EXPO 2022 second
FUKUSHO DIGITAL EXPO 2022 second

企業の「自己変革」を支援

 ──23年は、どのような取り組みを予定していますか。

 谷川 中小企業が抱える現下の課題は、コロナ禍への対応から「インフレ・物価高への対応」に移ってきています。世界各国の景気回復に加え、ロシアへの経済制裁や円安などもあって、企業はエネルギー・現在料価格の高騰に苦しんでいます。最近、我が国では、企業物価の伸びが前年同月比9%台であるのに対し、消費者物価の伸びは3~4%程度です。この伸びの差は、多くの企業がコスト増を取引先や消費者に転嫁できていないことからくるものです。

 現在、政府や経済団体は、企業に、「下請や取引先からの価格転嫁の交渉を妨げるような買いたたきをしない」という意思表示を求めています。これが、「パートナーシップ構築宣言」といわれるもので、官民を挙げてその普及・浸透が図られているところです。サプライチェーン全体でコスト負担を適正にシェアし、付加価値を反映した適正価格で取引をする。このような努力によって、賃上げの原資を確保することが、「物価と賃上げの好循環」の実現のためにも有用であると考えています。当所では、本宣言の一層の普及に取り組むとともに、実効性の確保に向けて国や行政に働きかけていきます。

 ──人流は回復してきていますが、そこで企業にとっての変化などは生じていますか。

 谷川 人流の回復にともない、再び深刻化しているのが「人手不足」の問題です。水際対策の緩和や訪日外国人観光客の受入再開、全国旅行支援の開始によって、コロナ禍で打撃を受けた飲食、宿泊、観光業の景況感は急速に改善しつつあります。その反面、宿泊業では6割以上、飲食業では7割以上が人手不足に陥っているといいます。また、人手不足の問題は運輸業や建設業でも深刻です。とくに、「時間外労働の上限規制」の適用が始まる24年に向け、業界は対応に迫られています。

 商工会議所としては、これらの人手不足の問題に対し、デジタル活用をはじめとした働き方改革の推進を呼びかけているところですが、企業がデジタル化を通じて業務効率化やビジネスモデルの変換をしようにも、社内に人材がいない、経営者もよくわかっていないという、デジタル人材の不足も大きな問題となっています。

 国も「人材への投資」という観点から、リスキングなどの施策を推し進めていますが、商工会議所においても、専門家と連携し企業のデジタル化・DXをさらに強力に推進してまいります。

 ──会員の貴所への相談については主にどのようなものがありますか。

 谷川 22年以降、コロナ禍で困っているというご相談よりも、事業再構築や生産性向上に関するご相談が増えています。支援の内容も、当面の生き残り支援から、将来の成長・発展に向けた支援にシフトしています。

 コロナ禍は、図らずも「自己変革」を加速するきっかけになりました。危機である今こそ、自力で困難を切り拓くことが大切です。これまでもピンチをチャンスに捉え成長した企業は多数あります。

 商工会議所は、支える支援も引き続き大切にしながら、今後、中小企業の「自己変革」を後押しする支援へと重点を移していきます。とくに、事業再構築や事業承継・M&A、デジタル化・DXなど、将来の成長を見据えたビジネスモデルの変革に取り組む中小企業への「伴走型支援」を強化していきたいと考えています。

 また、23年には消費税のインボイス制度が始まります。22年1月に施行された改正電子帳簿保存法とともに、デジタル化への対応が求められます。商工会議所では、デジタル化を含めたインボイス制度導入への対応について、23年を重点期間と位置づけ活動を展開していきます。

(つづく)

【茅野 雅弘】


<プロフィール>
谷川 浩道
(たにがわ・ひろみち)
1953年福岡市生まれ。76年東京大学法学部卒、大蔵省入省。財務省横浜税関長、大臣官房審議官、(株)日本政策金融公庫常務取締役などを経て、2014年(株)西日本シティ銀行代表取締役頭取、16年西日本フィナンシャルホールディングス(FH)代表取締役社長に就任。21年6月、西日本シティ銀行代表取締役会長兼西日本FH代表取締役副会長、福岡商工会議所会頭に就任。

(後)

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