九電23年3月期決算 最終赤字だが、直近の四半期業績は改善
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28日、九州電力の2023年3月期の通期決算が発表された。
売上高は2兆2,213億円で前年比27.4%増、営業損益は729億9,800万円の赤字、経常損益は866億3,400万円の赤字、最終損益は564億2,900万円の赤字だった。
大幅な赤字であるが、昨年12月までの第3四半期決算では、営業損益が1,205億8,800万円の赤字、経常損益が1,305億5,400万円の赤字、当期損益が894億3,100万円の赤字であったことからすると、第4四半期で大幅に収益状況が改善し赤字の圧縮がなされたことが分かる。
この赤字圧縮の要因は、22年の燃料価格費高騰に対して、電力利用者に転嫁される燃料費調整額の収益が期ずれで追い付いたためと、玄海原発の3号機が22年12月12日再発電開始、4号機が今年2月9日に再発電を開始した影響によるものである。
22年、玄海原発の長期停止と燃料費高騰で収益悪化
九電は4基の稼働原発を有し、大手電力各社のなかでは恵まれている状況である。鹿児島県の川内原発2基と、佐賀県の玄海原発2基。それぞれの定格電気出力は、川内原発の1、2号機は各89万kW、玄海原発の3、4号機は各118万kWであり、主力は玄海原発である。
しかし、昨年、大幅な収益の悪化に陥った原因はこの原発を有効に稼働できなかったことにある。【表3】を見ても分かるように、22年の玄海原発の3号機の発電日数はわずか39日(10.6%)、4号機も179日(49.0%)であった。
原因は、原発を稼働するにあたって設置が義務づけられている「特定重大事故等対処施設」(以下、特重施設)の設置が間に合わなかったためである。特重施設は、原発に対するテロ行為などに備える施設で、非常時に遠隔操作で原子炉を冷却できるなどの予備の制御室や発電機などが設けられる。11年の福島第1原発事故後の新しい規制基準で設置が義務づけられ、原発ごとに設置期限が設けられた。玄海原発の2基は設置工事を進めていたが、工事中の火災発生や作業員のコロナ感染などにより作業が遅れ、いずれも期限までに完成が間に合わないとして、運転が停止された。
この玄海原発の長期停止の結果、海外から輸入する火力発電用のLNG(液化天然ガス)の費用の高騰が直撃、九電の大幅な赤字要因となった。
今期は収益改善の見込みだが
前期(23年3月期)は上記の通り大幅な赤字となったが、今期は原発の稼働率が大幅に改善する予定であり、また燃料調整額の期ずれによっても収益増加となるため、何事もなく無事にいけば業績の回復が見込まれる。
だが、今回、決算の直前に2,000億円規模の資本増強が報道された。具体的な内容としては、みずほ銀行と日本政策投資銀行がそれぞれ800億円、三菱UFJ銀行が400億円規模で、議決権のない優先株を引き受ける方向と見られる。
その背景として、【表3】を見ると、23年3月期に有利子負債の合計がついに4兆円、総資産の70%を超えた。有利子負債が積みあがった結果、【表4】に示す財務CFの内情は、新たな借入で返済を繰り替えす自転車操業の状態であり、財務基盤の強化が急務であることも分かる。
また負債の増大とともに純資産は減り、その結果、自己資本比率はギリギリ10%台に乗っているという状況である。もともと九電は自己資本比率が、大手電力事業者10社のなかでも最も低い水準にあり、安定した電力事業のため、自己資本比率の20%程度への引き上げを目標として掲げていた。しかし、それは原発の有効稼働を前提とした目標であり、昨年の長期停止と未曽有の燃料高によって、今回の資本増強の判断に至ったものと見られる。
九電は既報の通り、大手電力各社が原発の停止や燃料費高騰を理由に国に対して規制料金の値上げを申請しているのに対して、九電は値上げ申請を見合わせている(「大手電力の赤字見込みと値上げラッシュ」)。
確かに、今回の決算で明らかとなった23年3月期第4四半期の業績の改善状況であれば、値上げに踏み切らずとも乗り越えることができるかもしれない。
しかし、その一方で、九電は未解決の問題を抱えている。昨年に判明したカルテル問題で九電は課徴金27億の納付命令を公正取引委員会から受けているが、これについて九電側は「公取と見解の相違がある」として、いまだ公式な会見も行っていない(「九電『公取委と見解の相違がある』なら、即刻会見を」)。
九電は原発の有効稼働によって今期業績を上向かせ、また、電気料金の値上げを踏みとどまることができるとしても、カルテル問題や新電力の顧客情報不正閲覧問題をはじめとした消費者の不審は拭い去られた訳ではない。ぜひ、業績回復を足がかりとして、消費者の信頼回復にも積極的に乗り出す経営の年となってほしい。【寺村朋輝】
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