2024年11月22日( 金 )

【企業研究】(株)ヌルボン 誤表記問題は軽傷、試練は狭まる包囲網

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 焼肉チェーンなどを展開する(株)ヌルボンは、今年2月に続いて4月にもメニューの誤表記が発覚した。店舗の経営母体の変更にともなう経営方針や体質の変化が生じていれば致命傷になりかねなかったが、素早い情報公開などによりことなきを得た。しかし業容拡大にかつての勢いはない。「良質な食べ放題」で市場を席巻した地場名店は、飲食店としての競争力が問われている。

誤表記が示した課題と収穫

ヌルボンガーデン長住
ヌルボンガーデン長住

    1回目の誤表記が明らかになったのは2月9日。ほとんどの店舗でフランス産やカナダ産の馬刺し類を熊本産と表記していた。(株)ヌルボンはすぐに全店のメニューを精査し2日後には岩塩、コメ、ステーキ肉でも「誤り」があったことを明らかにした。いずれもJR九州の子会社となる前から表記されていたものだった。迅速な対応をしたこともあり、そのまま収束すると見られた。

 ところが4月7日、今度は2店舗のコーヒーに誤表記があったことが発覚する。メニュー変更によりオーガニックでないものに変わっていたにも関わらずそのままオーガニック表記を続けていた。さらに荒尾店では国産カルビを和牛カルビと表記していたことも明らかになった。

 誤表記発覚が2度におよんだことについてヌルボンは、最初の発覚時の調査が産地中心に偏り、成分まで調査しきれなかったことを理由に挙げている。2度目の誤表記はJR九州買収後のメニュー変更時に起きたもの。一部消費者は誤表記発覚後の味の低下を指摘し肉の品質低下を懸念する。ただし肉質に関してヌルボンは「業態によって提供する肉の種類は異なるが、当初から提供している肉の種類に変化はない」としてM&A後に品質を変えていないことを説明していることから、消費者の思い過ごしと見られる。ある店舗従業員はお客に誤表記を謝罪したところ、お客は「肉が変わったわけではない」として今後も来店の意向を示したという。

 ヌルボンの「食べ放題」メニューに記載される部位や食品はコースによっては140を超える。他店経営者は「誤表記はあってはならないことだが、記載メニューの成分や産地のトレーサビリティの確立は大変だと思う」と推し量る。また、2つの誤表記の性質は異なるものの、いずれも従業員が気づいたことで公開されており悪意によって発生したとは考えにくい。ヌルボンは「企画部門も店舗現場も含め全社員が法律に関する知識が必要。今後は勉強会を開いていく」と言い訳をしない。誤表記判明から発表までの流れの見方を変えれば透明性や企業統制力が示された事例といえる。常連客が冷静に対応したのはそこを見抜いていたとみられる。

コロナ渦中にJR九州傘下入り

 ヌルボンの焼肉店の店舗数は12。主力業態は9店舗を有する「焼肉ヌルボンガーデン」だ。福岡市内の3店舗と新宮・春日などその周辺地域に4店舗、そして佐賀県唐津市と熊本県荒尾市に配置している。唯一都心に置いていた中央区の「大名Kitchen」は今年1月末に撤退した。いずれも70~160席、リゾートパーク「グリーンランド」に隣接する荒尾店に至っては240席を構える大型店で広域から集客する郊外型店舗だ。良質な肉と豊富な品ぞろえの食べ放題という画期的なスタイルを生み出し、家族層を中心に支持を広げた。

 ほかに単品やコースメニューを中心とした「焼肉ヌルボン」を2店舗。またヌルボンガーデンの糸島南風原台店と同所にステーキ店「ステーキガーデン風の邱」を運営している。これまではこれら3ブランドの展開だったが、今年3月、博多駅筑紫口のJR九州ホテルブラッサム福岡の地下に新業態「博多焼肉NURUBON」を出店した。単品・コース主体でビジネスマンや観光客を対象とした都市型店舗だ。

 JR九州グループのヌルボンは2021年8月、地場企業・(株)綱屋から外食事業の譲受目的に設立された。綱屋は精肉販売を祖業とする肉のプロで「和牛一頭買い」を武器に店舗展開。素材の良さもありブランドを確立した。16年3月期以降の売上高は20~21億円台で推移し、コンスタントに利益を確保し時には6,000万円を超える最終利益を上げた。ただし、カリスマ経営者の跡を受ける事業承継問題が課題となっていた。

 こうしたなかでM&Aが実施された。この時期の福岡はまん延防止など重点措置が取られ、感染拡大の局面に入っていた。収束の見通しが立たないなかでの大胆な選択とみられた。ただし換気設備を有する焼肉店は感染リスクが比較的低いと認識されたことで繁盛店も多かった。これにいち早く目をつけた居酒屋チェーン・ワタミは既存店を大量に焼肉店へ切り替える方針を打ち出している。

 飲食事業を中核の1つに置くJR九州は焼肉の知見・ブランドを得る恰好の機会を得た。JR九州は駅ビルへの出店や仕入れの連携などグループ力を活用することでシナジーが出せると判断した。21年10月、ヌルボンは正式に綱屋から飲食事業と精肉卸・加工事業を譲受した。23年3月期の売上高は約19億円と従来なみを維持している。

グループで相次いだ誤表記の評価

 JR九州グループで飲食事業を手がけるのは4社。基幹のJR九州フードサービス(株)は居酒屋「うまや」を中心にうどん、ラーメンなど多様な業態を擁し総店舗数78(22年7月時点)を有する。九州各地のグループ駅ビルやホテルだけでなく、他社の商業施設などにも出店し東京に6店、関西で3店舗を運営している。19年3月期に売上高71億円を上げたがコロナ直撃により21年3月期は大幅減収を余儀なくされ、12億円超の最終赤字を計上。22年3月期はやや持ち直したものの、3期連続での最終赤字となった。

 一方で好調なのがファーストフードを手がけるJR九州ファーストフーズ(株)。ミスタードーナツやケンタッキーフライドチキン、モスバーガーなど有力チェーンのフランチャイジーとして10事業を展開し、189店舗(23年3月31日時点)を構える。コロナ禍でも増収を続け、18年3月期に80億円だった売上高は22年3月期に120億円を突破、利益率は高くないが最終黒字を継続している。

 19年12月にM&Aで子会社化した(株)萬坊(佐賀県唐津市)も海中レストランの運営を行うが、飲食は1店舗のみで主力事業は「いかしゅうまい」の製造・販売だ。もう1つイートインを飲食に含めるとパンの製造販売を行う(株)トランドールもグループだったが今年5月1日、(株)タカキベーカリー(広島市)に譲渡して撤退した。

 ヌルボンの1回目の誤表記が発覚した直後の2月下旬、JR九州フードサービスでも誤表記が発覚した。うまやなど12店舗で食材の産地に関わるものだった。ほとんどは国内の産地を誤ったものだったが、うまや福岡新宮店では、海外産の赤エビを鹿児島産、サーモンを九州産と表示していた。ヌルボンと時期が重なることから親会社への批判が高まったが、ヌルボンは「たまたま時期が重なった」としており両社の関連を否定している。ヌルボン従業員によるとJR九州傘下になったのち労働環境などの待遇は良化したという。「博多焼肉NURUBON」がJR九州グループ物件へ出店を鑑みても一定のM&A効果は上がったといえる。

相乗効果発揮にハードル

 JR九州という力を得たヌルボンだが、飲食業界全体を覆うコスト上昇や人手不足の負担は例外でない。また、新業態で出店をはたした一方で、都心部「大名Kitchen」は閉店を余儀なくされた。ヌルボンは撤退理由について「総合的な判断」として詳細を明らかにしないがアフターコロナを見据えても厳しい見通しをせざるを得なかったと見られる。今後の出店は立地や地域特性を見て最適解を選択する戦略をとる。ただし、ヌルボンが優位性を発揮した食べ放題市場の環境は様変わりし中央大手が本気で取り組んでいる。

 「焼肉きんぐ」や「ワンカルビ」などが攻勢をかけ、ワタミも「かみむら牧場」で福岡進出をはたした。ヌルボンとしては新業態「博多焼肉NURUBON」など、コース・単品市場のシェアを取りに行きたいところだ。来店した消費者は「スタッフの接客スキル、オペレーションなどはレベルが高い」と評価する。閉店した大名店からの転籍組が主力としても流石の強さを発揮している。ただし、この市場にも老舗、独立系を含め名店がひしめく。ある飲食チェーン経営者は「参入障壁が低く簡単そうに見えるが、実は簡単にいかない業界」と市場の特異性を指摘、自身は焼肉業態からの撤退を余儀なくされた。

博多焼肉NURUBON
博多焼肉NURUBON

    「博多焼肉NURUBON」のようにグループとのコラボレーションを実現するためには多彩な業態を擁する身内での競争に勝ち抜くことが求められる。ヌルボン従業員はJR九州傘下入りした際、「数年後には全国を目指す」というJR九州幹部の言葉に奮い立った。コロナ禍が影響しているのか現状は東京など九州圏外への進出を果たせていない。評価の高い新店で実力を示すことが群雄割拠の業界で再び成長曲線を描くための出発点となる。

【鹿島 譲二】

 


<COMPANY INFORMATION>
代 表:仲 義雄
所在地:福岡市博多区美野島2-5-2
設 立:2021年8月
資本金:1億円
売上高:(23/3)約19億円
URL:https://www.nurubon.co.jp/

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