【トップインタビュー】従業員の輝きがお客さまを幸せに 「日本の資さん」へ 新たな挑戦
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(株)資さん
代表取締役社長 佐藤 崇史 氏1976年に創業し、北九州のソウルフードとして親しまれている「資さんうどん」を提供する(株)資さんは福岡県を中心に九州および山口県で61店舗を展開している。コロナ禍で飲食業が大打撃を受けたなかでもファンに支えられながら「日本の資さん」を目指す、代表取締役社長・佐藤崇史氏に人材育成や今後の展望について話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役 緒方 克美)コロナ禍のなか、新たなチャレンジ
──コロナ前から現在までに、会社としてどのような変化がありましたか。
佐藤崇史氏(以下、佐藤) 2018年3月に私が代表取締役社長に就任するなど、体制が変わったのを機に、より多くのお客さまに食べていただきたいという強い思いと、第二創業と位置付けて新たにもう一度会社として成長していこうと、一時期控えていた出店を18年秋ごろから積極的に再開しました。出店も順調に進み、非常に活気がある状況が続いておりましたが、コロナ禍で飲食業界は全体的に大ダメージを受けました。当社も時短営業や、密を避けるために座席数を減らすなどで少なからず売上に影響が出ましたが、そんななかでも資さんファンであるお客さまには通っていただきました。当然、安心・安全な食事の場を提供し続けることが飲食店としての責務と思っておりますので、より一層の衛生面の強化を行う等の対策を講じ、お客さまをお迎えする体制を整えましたが、本当にお客さまに支えられたことには感謝しかありません。
また、コロナ禍で新たな取り組みも行いました。テイクアウトの強化や宅配、それと一度止めていた通販を再開しました。とくに通販はコロナ禍とは関係なく、全国に資さんファンの方々がいらっしゃるので、18年に代表に就任した時点で20年、21年ごろには再開しようという目標を立てていました。そんななかコロナ禍になり、20年のゴールデンウイークは、ステイホームが推奨される流れになりました。するとSNS上で北九州出身の方々が「今回は実家に帰れないので、資さんうどんが食べられなくて悲しい」「毎回、帰省したときに食べるのが楽しみだったのに」など、たくさんの声を聞き、部署横断のプロジェクトメンバーと、外部の協力会社の尽力により、1カ月後には通販サイトでの販売を開始しました。今では、通販も私たちの大切な柱の1つになっています。ほかにも、コロナ禍においていろいろと模索するなかで駅構内や空港の販売店などで冷凍商品を販売するなどの販路拡大にも成功しました。
「味」と「温かいサービス」で資さんファン拡大
──ファンの方から愛されているところは、どのようなところだと思いますか。
佐藤 資さんの強みは、自慢の味と従業員の温かい接客・サービスです。この2つはお客さまから目に見える価値として非常に強いものだと思っています。その裏側にあるのは、「資さんの味は間違いないよね」「温かいサービスがある資さんは安心する場所だよね」という信頼です。この信頼は47年の歴史のなかで紡いできたもので、信頼をつくっているのは、従業員の皆であり先輩たちです。
私は、資さんに関っている2つの「人」が大きな財産だと思っています。1つ目の「人」は、先に述べた従業員です。2つ目の「人」は資さんファンの方々です。資さんファンが口コミやSNSで新しいファンをつくってくれていることも当社の強みです。社内でよく言っているのが、資さんは、ファンに支えられており、大事にしていかないといけないし、増やしていかなければならないということ。そのためには、各店舗で「また来たい」と思ってもらえるような店づくりを目指す、それが私たちの根幹だと思います。
──SNSが仕事に与える好影響は、どのようにお考えですか。
佐藤 SNSに関していえば2つの側面があると思っています。1つ目は、お客さまの正直な声が聞けること。店舗でのアンケートや本部宛のメールや電話でさまざまなご意見をいただいておりますが、SNSに溢れているお客さまが気軽に書き込まれた声もすべて大事なご意見です。それらを経営幹部全員で共有します。おしかりやお褒めの声などさまざまなご意見を真摯に受け止め、改善すべきは改善し、良い意見については全店舗で参考にしております。
もう1つは、資さんのこれまでの発展のなかで重要な位置付けにあったのが、お客さまが口コミで伝えてくれることでした。私は、新店舗オープン時には店頭に立つようにしています。そうすると直接お客さまから声をかけていただきます。よくいわれるのが「近くに店舗をつくってくれてありがとう」「昔、北九州に住んでいたから、また食べることができて嬉しい」という声に加えて、「北九州の友達から、おいしいので絶対行った方が良い」とか「今日は友人に連れてきてもらった」という声も多くいただきます。まさに、私たちを支えてくれているファンが新たなファンを呼んでくれているのです。
また、新店オープンのリリース前にもかかわらず採用広告などから、「資さんうどんができるらしい」という情報がSNSで流れて、出店時には多くの人が知っているという状況も起こります。SNSは口コミを加速させ、より強化してくれる重要なツールの1つだと思っています。
納得していただけるサービスを提供
──飲食業は日本の産業のなかでも生産性があまり良くないと言われていますが、コロナをきっかけに変わっていくと思われますか。
佐藤 変わっていかなければいけないと思います。やはり私たち飲食業は、国民にとって大事なインフラの1つだと思います。もちろん、家で食事したり、お弁当を買って食べたりいろいろな形態があり、お客さまの選択によります。外食というのは大きな意味でお客さまの食を通じて心を豊かにし、喜んで幸せになっていただく重要な選択肢の1つなので、外食産業の役目は非常に大きいと思います。経営理念で掲げている「幸せを一杯に。」がまさにこの使命を表すもので、食を通じて幸せを提供できることが私たちの醍醐味だと感じています。
コロナ禍で当社含め、飲食業界は本当に苦しかったと思います。お客さまのニーズが大きく変わりましたし、労働人口の減少やコスト構造、輸入品の確保などビジネスが変わる大きな転換期だと思います。やはり私たちとしては、そういうことを乗り越えながらお客さまにより良い商品とサービスを提供し続けられるような経済体力を当社だけではなくて、外食産業全体が持ち続けなければならないと思っています。
──現在の価格帯についてどうお考えですか。
佐藤 食材を含めさまざまな価格が高騰している状況で、私たちも値上げをせざるを得ませんでした。しかし、価格に関しては、やはりお客さまが食べた味とサービスの付加価値をどれだけ認めてくださるかに尽きると思います。いわゆる体験価値ですね。私たちが提供する付加価値をどこまで高めていけるか、その結果、価格よりも高いと感じていただける付加価値を生み出すことができれば、お客さまからより大きな支持をいただけるのではないでしょうか。そのためにも、各店舗で高いQSC(クオリティ=品質、サービス=接客、クレンリネス=清潔・身だしなみ)を維持していくことが大事です。
主役である「人」を輝かせる
──人材育成においてどのような取り組みをされていますか。
佐藤 人の育成においては、従業員1人ひとりが輝いていくためにどうしていけば良いか、日々、試行錯誤しながら取り組んでいます。資さんは、「人」が主役の会社です。お客さまに「幸せ」を提供するためにも、それぞれの従業員が輝いて働いていることが大切です。また、個々の従業員の成長が、会社の成長を上回ることで、資さんうどん各店舗の水準が、さらにレベルアップすることが理想と考えています。
そのための前提として、資さんで働きたいと思ってくれるすべての人が、公平に活躍し、成長できる機会を提供することが必要だと思っています。性別や国籍に関わらず、また、障がいをお持ちの方も、誰もが働きやすく、力を発揮でき、自分らしく輝ける環境と仕組みづくりに力を入れて取り組んでいます。
このような取り組みのなかで、1人ひとりの業務負荷や長時間労働を軽減し、より業務や自身の成長に集中できるよう、店舗のレイアウトや設備の見直しなどの業務効率化を進め、特定技能外国人材の採用を強化するなどの人員不足店舗への対応も強化しています。併せて、リフレッシュ休暇の強化や休日数を増やすなど、休みを取得しやすい環境づくりや、24時間営業の店舗でも店長の負担を軽減するため、副店長制度や夜間巡回エリア長の導入をするなどの仕組みづくりも進めています。
また、このような取り組みを進めるうえで、これまで以上に従業員の声を聞いて反映することを重視するようにしています。たとえば、昨年立ち上げた女性活躍プロジェクトでの従業員の皆さんとの話し合いの際、1人の従業員から、「従業員割引を(店内でのまかないや店舗への来店時だけでなく)勤務日に家事を楽にするためにもお家の夕飯用にお持ち帰りで利用したい人は多い」という声があり、割引制度をお持ち帰りにも適用することにしましたが、こちらはとても好評です。同時に、店舗の運営状態や業績を競う「資-1グランプリ」や頑張って成果を上げた工場や本社の従業員を表彰する制度など、それぞれの店舗や職場での成長や、個人のスキルアップを称える仕組みも導入を進めています。
今はまさに、第二創業期。各店舗がさらに輝いて成長をしていくためにも、現場で輝きながら、成長をけん引してくれる人材の育成に力を入れているところです。しかしながら、まだまだ私たちも日々勉強です。従業員は、それぞれの人生でいろいろな思いや悩みを抱えながら働いていて、だけど「お客さまを『幸せ』にする」という同じ目標をもったチームワークで、喜びを分かち合える職場にしていこう、そういった思いを伝えていくことも教育だと思います。これからも従業員がより輝いていけるための環境づくりはやることが山積ですが、少しずつでも改善しながら進めていきたいと考えています。
社運をかけた新たな挑戦
──今後の出店についてお聞かせください。
佐藤 コロナ前まで、年間8店舗ほど出店していましたが、コロナ禍で半分ぐらいに落としました。しかし、コロナが5類となったこともあり、出店に関しては改めてもう一段加速していこうと考えています。現在の店舗数は61店舗あり、新店舗出店については7月に山口市の山口湯田店、8月に山口県周南市の周南新宿通店、同じく8月に岡山市の岡山大元店の3店舗が決まっています。岡山県への出店は山口県よりも東に位置する店舗として初めてとなります。
創業当初は北九州市を中心に営業しており、13年前に福岡地区に進出しました。出店当初は「北九州から資さんがきたぞ」と多くのメディアに取り上げていただき売上がすごく伸びました。しかし、一時売上が停滞することになりました。なぜかというと、博多のうどんは麺がすごく柔らかく、あごだしの主体のあっさりとした出汁ですので、麺がもちもちとしてしっかりとした味付けの資さんうどんは、博多の味に慣れていらっしゃる方からすると、いつもの味とは少し違うなと感じられたのでしょう。
当時の従業員たちからは、福岡にきたのだから地元の味に合わせるべきで味を変えたらどうかという声も挙がっていました。しかし、「北九州で育てていただいたこの味、北九州のお客さまに支持されたこの自信の味で福岡でも勝負したい」と、創業者の大西章資は決して譲らず味を変えませんでした。信じたこの味、このサービスで勝負することを貫き通したことが、徐々にお客さまからの支持を得て、今では、福岡でも資さんの味が浸透していることを実感しています。創業者の「資さんの味で勝負する」という挑戦が福岡での成功と今につながっていると思います。そのバトンをつなぐため、今年私たちが九州山口以外の地で初めて勝負・挑戦します。
かつて福岡1号店で成功し九州全体に広げられたように、まずは今夏の岡山でもお客さまにご支持していただければ、関西・関東にも広がる大きなきっかけになると期待しています。「北九州の資さん」から「九州の資さん」、そして「日本の資さん」を目指してまいりたいと思います。
【文・構成:内山 義之】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:佐藤 崇史
所在地:北九州市小倉南区上葛原2-18-50
設 立:1980年12月
資本金:5,000万円
<プロフィール>
佐藤 崇史(さとう・たかふみ)
1974年5月生まれ、広島県出身。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、ソニー(株)、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)を経て、2006年に(株)ファーストリテイリングに転身。18年3月より(株)資さんの代表取締役社長に就任し、現在、同社の第二創業をリードする。法人名
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