楽天モバイル、白旗で既存3社との棲み分けを痛切にアピール(前)
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楽天モバイルは、6月1日にスタートした「Rakuten 最強プラン」を切り札にして、モバイル事業の命運をかけている。しかし、ここにきて公然と白旗ならぬ救難信号とも受け取れるメッセージを発している。楽天モバイルが発したメッセージから同社をめぐる状況を読み解き、今後の行方について考察する。
プラチナバンド再割当て要請の白紙撤回は事実上のSOS!
2022年12月期に、グループ連結で最終損益が3,728億円の赤字となった楽天グループ。その原因となる4,928億円の赤字を叩き出したモバイル事業は目下、業績改善に向けて悪戦苦闘中だが、23年12月期の第1四半期でも業績の改善の兆しは見えず、折り返し地点となる第2四半期もそろそろ終えようとしている。
そんななか、6月1日にスタートさせた「Rakuten 最強プラン」が切り札となってどれくらい契約数の増加に結び付き、モバイル事業の未来に一筋の光を見せているかどうか気になるところだが、ここにきて楽天モバイルに大きな動きがあった。
『産経新聞』(6月23日付)が掲載した、楽天モバイルの鈴木和洋・代表取締役・共同CEOの単独インタビュー記事によると、同社が希望する「プラチナバンド」(ビルなどの障害物でも電波が届きやすい周波数帯:700MHz~900MHz)の割り当てについて、総務省が今秋に新規割り当て方針を示している新規周波数帯「715MHz~718MHz(上り)、770MHz~773MHz(下り)」の導入を優先して、同社が従来求めてきた、既存3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)がすでに利用しているプラチナバンド800/900MHz帯の再割り当ての要望については事実上白紙にすることを明らかにした。
結論から先にいうと、これは楽天モバイルが今後、既存3社と同じ品質を目指して争わないことを公に宣言した白旗である。
だがその白旗も、ここにきて唐突に掲げた訳ではない。1カ月余り前の前回記事、「楽天G、3,300億円増資で勝負~筆者もにわかに応援したくなってきた!」でも論じたように、楽天モバイルは「Rakuten 最強プラン」で、すでに自社のモバイルサービスを既存3社に対する劣位キャリアとして設定しており、事実上の棲み分けを提起していたのだ。
ただ、今回のメッセージは白旗よりずっと切迫しており、その真意は、プラチナバンド再割り当ての望みを当面捨てることを約束し、そのかわりに棲み分け案がうまくいくように助けて欲しいという事実上の救援要請に他ならない。
以下では、今回の救難要請に至るまでの経緯と、今後、仮に楽天モバイルが自社プラチナバンド回線を運用した場合でも劣位キャリアとして立場は確定的なものであることを確認する。
プラチナバンドの新規割り当ては総務省からの最後通告
6月21日、総務省は「700MHz帯における移動通信システムの普及のため、周波数の割当てに関する開設指針案等」を発表した。このなかで700MHz帯の電波のうち未使用であった「715MHz~718MHz」と「770MHz~773MHz」の2つの帯域を、LTE-Advanced(4G)規格の通信サービスに新たに割り当てるとした。
700MHz~960MHzは、ビルなどの障害物があっても回り込んで電波が届きやすい周波数帯いわゆる「プラチナバンド」と呼ばれる帯域であり、すでに既存3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)が、700MHz帯に10MHz幅と800/900MHz帯に15MHz幅をそれぞれ上下2本ずつ割り当てられている。
18年4月に移動通信事業に新規参入した楽天モバイルは、1.7GHz帯に20MHz幅を上下2本、割り当てを受けたものの、公平な競争の下で通信サービスを提供するにはプラチナバンドの割り当てが必要と主張していた。それに対して総務省は、すでに既存3社に割り当てられている周波数帯以外には携帯電話用に割り当てできる帯域がないとしており、それを受けて楽天モバイルは、既存3社の割り当て済み帯域から10MHz幅と5MHz幅をそれぞれ上下2本ずつ自社へも割り当てるように、再割り当てを要請していた。しかも、再割り当てにかかる巨額な設備工事費用も全額、既存3社が負担することを求めており、22年11月8日に総務省が示した報告案は、楽天モバイルの主張を概ね認めた内容であった。
ところが、直後の11月30日、総務省における「新世代モバイル通信システム委員会 技術検討部会」でNTTドコモは、現在使われていない2つの帯域(715MHz~718MHz、770MHz~773MHz)を携帯電話用に割り当てることを提案した。これを受けて総務省は検討を進めた結果、今年4月、松本剛明総務大臣が、この2帯域を携帯電話用として今秋ごろに新規割り当てを行うと発表していた。
今月21日に総務省が発表した指針では、この新規割り当て帯域は、「プラチナバンドを保有していない」事業者へ優先的に割り当てることが示されており、事実上、楽天モバイル向けに用意される帯域である。
では、この総務省指針が楽天モバイルに肩入れした救済措置であるかというと、そうではない。というのも、楽天モバイルはまだこのプラチナバンドを自社回線として利用し、収益化のメドをつける段階までたどり着いていないからだ。
現在、楽天モバイルは、KDDI回線のプラチナバンドをローミングで利用しながら「Rakuten 最強プラン」による契約の取り込みで将来的な収益化が見込めるかどうか、状況を見守っている最中だ。KDDI回線の借用プラチナバンドで契約数を稼げなければ、到底、設備投資をつぎ込んで自社回線でプラチナバンドを運用しても、収益化の見込みはない。
つまり、この指針は事実上の既存3社のプラチナバンド保全の決定通知であり、一方で、モバイル事業収益化の道筋を示すことができない楽天モバイルに対する最後通告なのである。
(つづく)
【寺村朋輝】
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