IAEA報告は海洋放出を承認していない 中国を「非科学的」と断じる日本の傲慢(前)
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共同通信客員論説委員 岡田 充 氏
日本ビジネスインテリジェンス協会より、共同通信で台北支局長、編集委員、論説委員などを歴任し、現在は客員論説委員を務める岡田充氏による、汚染水海洋排出をめぐる日中関係に関する論考(海峡両岸論153号)を提供していただいたので共有する。
福島第1原子力発電所の溶け落ちた核燃料を冷却する汚染水の海洋放出が近づいている。日本政府やメディアは、国際原子力機関(IAEA)の「国際的安全基準に合致」とした調査報告書(7月4日)によって、海洋放出の安全性と正当性が保証されたかのように主張する。だが報告書が「放出の安全性を判断する内容ではない」ことを、どれほどの人が知っているだろう。報告書で「お墨付きを得た」とし、地元・福島の漁民や市民団体、中国や太平洋の島しょ国など海外の反対を「非科学的」「外交カードにしている」などと決めつけるのは、あまりに傲慢な態度ではないか。
報告書までの経緯
まず「処理水問題」を振り返ろう。2011年の福島原発事故で「メルトダウン」(炉心溶融)を起こした1、2、3号機では、溶けた核燃料を冷やすために毎日、大量の水が原子炉に注入されている。燃料デブリに触れて高濃度の放射性物質を含んだ「汚染水」は、原子炉建屋に流れ込む地下水や雨水と混ざり合うことで、新たな汚染水を発生させている。
汚染水に含まれる放射性物質は、多核種除去設備(ALPS)という専用設備で浄化しているが、トリチウム以外の放射性物質を海洋放出の規制基準以下にした水を、いわゆる「処理水」と呼ぶ。処理水は現在約1,000基(約137万t分)のタンクで保管されている。東京電力は2024年には満杯になるとして、処理水のトリチウム濃度を国の規制基準の40分の1を下回るように海水で薄め、海底トンネルを通じて沖合約1km先の放水口から海に流す計画を立てた。
これに基づき、日本政府は2021年4月、東京電力が作成した「処理水の海洋放出に係る放射線影響評価報告書」と原子力規制委員会による海洋放出計画の審査プロセスが、IAEAの安全基準に整合しているかの確認を求めた。IAEAは7月4日、海洋放出計画が「国際的な安全基準に合致している」とする内容の調査結果を公表し、同機関のグロッシ事務局長が岸田首相に報告書を提出した。
中国などの反対で外交問題化
海洋放出に対しては全国漁業協同組合連合会(JF全漁連)や地元福島漁協、反核市民団体などが強く反対してきた。IAEA報告を受け、中国や太平洋島しょ国からも反対の声が挙がり外交問題に発展した。まず中国の主張に耳を傾けよう。
呉江浩・中国駐日大使と大使館報道官は7月4日の記者会見で、海洋放出に反対する理由を次のように列挙した。
(1)日本側は周辺近隣国など利益関係者と協議をせず一方的に決定。
(2)原発事故で生じた汚染水の放出は前例がない。
(3)中国も原発から放出しているというが、放出しているのは冷却水であり、溶けた炉心に接触した汚染水ではない。
(4)溶け落ちた炉心に直接接触した汚染水には60余種の放射性核種が含まれており、多くは有効な処理技術がない──呉大使は「日本は直ちに海洋放出計画を中止して国際社会と真剣に協議し、科学的、安全、透明で、各国に認められる処理方式を共同で検討すべき」と主張するのである。
IAEAが定める安全基準には、放射線リスクから人の健康を守るため、「放出などを正当化する条件」として、すべてのステークスホルダー(利益関係者)との協議が必要、という項目がある。利益関係者には中国、韓国、台湾、太平洋諸国も含まれると解釈すべきであり、彼らの懸念と抗議は正当な権利だ。
呉大使らが列挙した(1)は、まさにその点を指摘しているのである。日本政府やメディアは中国の批判を「外交カードにする」と反論するのだが、その主張こそ放出問題を「外交カード化」しているのではないか。
(つづく)
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