元総合商社駐在員・中川十郎氏の履歴書・ニューヨーク編(7)
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日本ビジネスインテリジェンス協会
理事長 中川 十郎 氏スウェーデン・ルンド大学での
ビジネスインテリジェンス講演1991年4月のルンド大学での筆者の講演に、デジエル博士はスウェーデンの2新聞社の記者を取材に招待していた。講演後、これらの記者から質問を受けた。この講演にはスイス銀行の幹部も講師として参加しており、紹介された。デジエル博士によると、世界の代表的情報機関はバチカン、スイス銀行、国際石油会社ロイヤル・ダッチ・シェルの3機関だということであった。
バチカンは世界中に教会、神父を有し、そこからもたらされる情報はCIAをしのぐほどの膨大なものだ。スイス銀行は金融業務において世界中の金融、財務情報の宝庫である。セブン・シスターズ(国際石油資本7社)代表格のロイヤル・ダッチ・シェルは、中東をはじめ世界中のエネルギー、経済、政治情報を収集しており、その情報収集、分析力は他産業の比ではないというのが博士の持論であった。
筆者は講義において、情報化、サービス、ソフト時代には旧来の“Gross National Products”(GNP、国民総生産)に代わり、“Brain Power Products-BPP”(頭脳生産力)が決め手になると強調した。その点、物の生産よりも情報ソフトや、サービス、デザイン、企画などで優れている、スウェーデンをはじめとする北欧が今後有利になる。ルンド大学のあるルンドは、世界中で親しまれているテトラパックの発祥の地である。また、お隣のフィンランドには、パルプ製紙工場から世界的な通信機メーカーに転身したノキアがある。スウェーデンでも情報化時代に頭脳産業、AI(人工知能)、ソフトサービス産業に注力すべきだと力説した。
翌日の新聞の一面に、戦車のキャタピラーの上の脳に大砲を付けた絵が描かれ、「日本からルンド大学にビジネスインテリジェンス講演に来た商社マンの中川氏は、情報化時代のスウェーデンは頭脳産業、ソフト、サービスに特化すべきと力説した」と記事が出て驚いた。
ほどなくして、たまたまJETROに出向し、フィンランド・ヘルシンキで所長をしていたニチメン(現:双日)の1年先輩のHより、「フィンランド王立研究所の関係者がこの記事を目にし、中川をヘルシンキに招聘するので、BPP論を含め日本総合商社の情報収集、分析などについて講演してほしいと要請を受けた」と連絡があった。しかし、総務部はビジネスに関係ないので、講演のためにヘルシンキに出張するのであれば、有給休暇をとり、自費で出張するなら許可する、と冷たい態度で、結局ヘルシンキ講演は残念ながらあきらめざるを得なかった。
NY駐在から帰国後の1992年4月、NYの得意先の紹介で、ハーバード大学から「日本の貿易商社は将来の中国市場をどう見ているか」と題し講演してほしいと要請があったときも、総務部の対応は同じで、講演を断念した経緯がある。これらの出来事が後年、筆者が定年前に退職し、大学への転身を決心する1つのきっかけになったのは事実である。
(つづく)
<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)
鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。関連キーワード
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