スクープ連発の「文春砲」が問う報道の存在価値(後)
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『週刊現代』元編集長
元木 昌彦 氏次の号では、捜査を再開した刑事たちの生の声が「録音」されていたと報じた。捜査を再開した女性刑事は、被害者の両親にこう語っている。
「捜査は尽くされていないので、少なくとも。結果はどっちに転ぶか、ちょっとそれこそ捜査をしてみないと分からないんですけど、でも終了しているとは思えないので、それをちょっと再開させていただきたいと思っています」。彼女は、両親に、息子のへその緒をもっているかと聞く。DNAが取れるものを捜しているのだ。
さらにその次の号では、息子を亡くした両親が「捜査を再開してくれるよう」警視庁大塚署長宛てに上申書を提出したと報じている。だが、木原官房副長官側が沈黙を守り、他のメディアも一切報じないため、文春の追及も手詰まりかと思わせたが、そうではなかった。
超ド級のスクープを次の号で放った。「木原事件 妻の取調官(捜査一課刑事)実名告白18時間」(週刊文春8/3日号)がそれである。
警視庁捜査一課殺人犯捜査第一係、通称「サツイチ」といわれる部署に昨年まで在籍し、木原の妻X子を取り調べたことがあるサツイチの「エース」佐藤誠元警部補が実名で告白したのである。公務員の守秘義務違反に問われる危険を冒してまで、事件をこのままで終わらせたくないという刑事魂に、私も胸が熱くなった。
佐藤によると、木原は当初から「国会の召集日までに取調べを終わらせろ」と捜査幹部に迫っていたそうである。X子は取調べが終わるとタクシーに乗り込み帰宅する。その際、木原と落ち合って共にタクシーで帰ることがあったという。
捜査員は常に彼女の行動確認をしていて、当該のタクシーを見つけ出し、ドライブレコーダーをつぶさに分析して、こういう会話をつかんでいたというのである。木原は、「大丈夫だよ。俺が何とかするから」と。そしてこうもいったという。
「俺が手を回しておいたから心配すんな。刑事の話には乗るなよ。これは絶対言っちゃ駄目だぞ。それは罠なんだから」。佐藤はこの声を聞いて、「もうX子は絶対に喋らないと思った」という。そして10月下旬、国会が始まる直前、突然、「明日で全て終わり」と上司である佐和田立雄管理官(当時)から告げられたというのである。
概要を紹介しただけだから、面白さは伝わらないかもしれないが、興味があったら文春のバックナンバーを探して読んでもらいたい。木原側は何らアクションを起こさず、最近は岸田首相に付き添って外遊しているようだが、毎週執拗に自身のことを取り上げている文春に、平穏ではいられないはずである。
文春側は、このような権力者のスキャンダルを取り上げるときは徹底的に取材をし、丹念に事実を積み重ねていく。こうしたテーマを追いかける際の文春の取材力は、新聞をはるかに凌駕している。だが、もし1つでも事実と違うことを書けば、相手から突っ込まれ名誉棄損で訴えられ、雑誌は信用を失い、休刊に追い込まれるかもしれないのである。
よく、文春はなぜあのように権力に挑み続けることができるのかと聞かれる。だが、文春にとって木原誠二官房副長官の妻のスキャンダルも、広末涼子のW不倫も同じなのである。それは編集者や記者の「好奇心」から出発しているからだ。
『ニューヨーカー』という雑誌をつくったハロルド・ロスという名編集者がこういっている。
「編集者は自分を喜ばせるものしか活字にしない」
週刊誌は、編集者がこれは面白いと思うものを軸に、新聞やテレビができない「権力者のカネと女のスキャンダル」を武器にジャーナリズムの一角を占めるようになった。立花隆は「『言論の自由』VS.『●●●』」(文藝春秋)で、週刊誌の存在理由についてこう書いている。
「日本の新聞(政治部)は時の権力を正面切って批判しようとしない。権力に対してあまりにも臆病であまりに従順すぎる。むしろ、(欧米ジャーナリストたちによれば=筆者注)日本の週刊誌に対する評価のほうがはるかに高いのである。
週刊誌は、少々品が悪いところがあるが、権力に平気でタテつき、平気で毒づく。そして、新聞がことの上っ面だけの報道に終始しているのに対し、週刊誌は、何でも表側より裏側をひっくり返してのぞこうとする。そのあたりがマインドの問題として、欧米のジャーナリストにぴったりくるのだ」新聞、それにテレビは、立花がこう指摘してから後も、上っ面報道を続けている。しかも、そのことを疑うことさえ忘れてしまったようである。だが、そうしたマインドを受け継いでいる週刊誌も、ほぼ文春一誌だけになってしまった。こうなれば、文春にどんどん暴れてもらって、週刊誌ここにありという存在感をますます高めてもらいたいと思うしかない。
(文中敬称略)
(了)
<プロフィール>
元木 昌彦(もとき・まさひこ)
1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に講談社を退社後、市民メディア『オーマイニュース』編集長・社長。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。現在は『インターネット報道協会』代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。▼関連記事
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