2024年12月22日( 日 )

奇妙な岸田自民一強体制 焦点は国内よりもバイデン政権の行方(後)

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ジャーナリスト 鮫島 浩

 ポスト岸田候補も野党も岸田政権の脅威とならないなか、岸田首相は来年秋の自民党総裁選での再選を狙う。この奇妙な岸田一強はなぜ成立しているのか。ロシアのウクライナ侵攻で、野党は岸田政権の対米追従を後押しし、なし崩し的な安保政策の大転換の推進を許した。ウクライナ戦争が国際情勢を覆うなか、バイデン政権に依存した岸田政権の一蓮托生関係を論じる。

ロシアのウクライナ侵攻で対米追従は固まった

 米国はウクライナの親露政権の転覆を水面下で支援し新米政権を樹立させた。ゼレンスキー政権が誕生した後も軍事支援を進めてロシアを挑発し、軍事的緊張を高めた。ロシア軍がウクライナ侵攻に踏み切った後は、自らの参戦は避けつつ、ゼレンスキー政権を全面支援し、巨額の武器を供与し、ロシアとの代理戦争に押し立てたのである。トルコや中国が停戦協議を目指して動いても冷ややかに突き放し、プーチン政権の打倒を最優先に戦争を泥沼化・長期化させる戦略を取ったのだ。この結果、米国の軍需産業とエネルギー産業は大きく潤い、米経済は活性化した。ウクライナは米国の国益やバイデン政権の支持率維持のために使い倒されたといってよい。

 ロシア軍がウクライナに侵攻したとき、米国がウクライナを前面に押し立てる「対露戦争」にどこまで付き合うのか、日本は大きな岐路に立った。そこで岸田首相が選択したのは、ロシアを敵視してウクライナに全面加担するという、バイデン政権の注文通りの外交だった。まずは国会でウクライナを一方的に支持する「ロシア非難決議」を可決し、ゼレンスキー大統領の国会オンライン演説を実現させてスタンディングオベーションで称賛。「ウクライナ=正義、ロシア=悪」の善悪二元論の世論を形成したうえで、対ロシア経済制裁やウクライナへの防衛装備品支援に踏み切ったのである。さらに、ロシアがウクライナに侵攻したように、中国も台湾に侵攻するかもしれないという「東アジア危機」を煽り、防衛費の大幅増額に突き進んだのだ。

 この流れを止めるどころか後押ししたのが、立憲や共産だった。両党は安倍政権下の安保法制に強く反対したが、ウクライナ戦争勃発後は、ロシア批判決議に賛成し、対露戦争への支援を求めるゼレンスキー大統領の国会演説でのスタンディングオベーションにも加わったのだ。日本社会が当時、米国の軍事支援を受けながら国民総動員令を出し徹底抗戦するゼレンスキー大統領を少しでも批判すると罵詈雑言を浴びる言論抑圧の風潮に覆われたのは、立憲や共産を含めて国会が「ウクライナ=正義、ロシア=悪」一色に染まったことと無縁ではない(国会決議に反対しスタンディングオベーションに加わらなかったのは、れいわ新選組だけだった)。その後、立憲や共産が防衛力の抜本強化やゼレンスキー大統領の広島サミット参加などに断固として抗うことなく、結果として岸田政権による安保政策の大転換を許したのは、ウクライナ戦争勃発時の対応を誤ったことに大きな要因があると私はみている。

バイデン再選の行方が岸田政権の命運を左右

岸田首相とバイデン大統領(首相官邸HPより)
岸田首相とバイデン大統領
(首相官邸HPより)

    だが、ウクライナ戦争が長期化し、ゼレンスキー大統領の武器供与の要求がエスカレートするなかで、欧米では「ウクライナ支援疲れ」の気配も出てきた。リトアニアでのNATO首脳会議では、ウクライナ加盟への道筋は明確にならなかった。英国のウォレス国防相はウクライナに対して「我々はAmazonではない」と不満を伝えたことを記者団に明らかにした。

 バイデン大統領は記者会見で「ウクライナがNATOに加盟すれば、第三次世界大戦になる」と明言し、米国の参戦を避けるためにウクライナの加盟には応じない姿勢を鮮明にした。一方で「プーチンはすでに戦争に負けている」と楽観論を示し、「ウクライナが反転攻勢で大きな進展をみせ、どこかで交渉による決着がつくことが私の希望であり期待だ」と語った。米国は犠牲を払わず、ウクライナに武器を供与してロシアとの「代理戦争」を続行させ、ロシアが劣勢になったときに初めて停戦協議をもちかけ、米国の国益に沿ったかたちで決着させるという、実に都合の良いシナリオを描いていることが明らかになったのである。

 バイデン大統領は、岸田首相が台湾有事に関連して「ロシアの18万5,000人の軍隊が他国を侵略している。次は台湾ではないか」と発言したことも暴露している。中国が台湾に侵攻したとき、米国は犠牲を避け、日本を対中戦争の当事者に押し立てて中国を押し返すという、今般のウクライナの役割を日本に負わせるバイデン政権の意向に忠実に従って、岸田政権が防衛力強化を進めていることをうかがわせる発言といえるだろう。

 岸田政権はこのままバイデン政権の描く通り、日本を「米国を中国の脅威から守るための防波堤」とするつもりだろうか。岸田首相が対米追従路線を自ら変更する気配はないし、自民党内の「岸田降ろし」で対米追従路線が見直される可能性も低い。野党が岸田政権を倒して路線転換することもなかろう。

 あるとすれば、バイデン政権が倒れることだ。バイデン氏は来年11月の大統領選への出馬を表明しているが、再選をはたし任期を終える際には86歳になる。このところ、聴衆の面前で何度も転んだり、言葉が詰まったり、固有名詞を間違えるなど高齢不安をさらけ出す出来事が続出し、民主党内からもバイデン氏に引退を求める声が出始めた。民主党は「トランプ氏に勝てる候補」という一点でバイデン氏を前回大統領選に擁立したが、高齢不安からトランプ氏に勝てないとの見方も広がっている。

 来年は9月に自民党総裁選、11月に米大統領選がある。「日米同時政局」の年といっていい。岸田首相が「国内に敵なし」になっても、最大の後ろ盾であるバイデン大統領の再選に黄信号が灯ったとき、米国の政局が日本の政局にも波及して「岸田勇退論」が台頭してくるのではないかと私はみている。トランプ氏が大統領に復帰すればウクライナ戦争への対応が抜本的に変わることは確実だ。トランプ政権の再来がないとしても、バイデンに代わる民主党大統領が誕生して「ウクライナ支援疲れ」が一気に表面化し、停戦へ動き出す可能性もある。そのとき、バイデン政権に追従してウクライナ支援に深く肩入れしてきた岸田政権は梯子を外され、巨額のウクライナ復興資金だけを背負わされることになるだろう。そうなれば日本国内の世論はとてももたない。自民党は岸田政権を退陣させて「新たな顔」のもとで内政外交全般を仕切り直し、国政選挙に臨む道を選択するのではないか。

 岸田政権はバイデン政権と一蓮托生というのが私の見立てである。

(了)


<プロフィール>
鮫島 浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校、京都大学法学部卒業。1994年、朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年、39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年、特別報道部デスク。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年、福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月、49歳で新聞社を退社し独立。著書に『朝日新聞政治部』『政治はケンカだ! 明石市長の12年』(共著)。
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