僅差の長崎4区補選、世襲隠しの弔い合戦演出作戦は成功するか(前)
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自民党の北村誠吾・元地方創生大臣の死去にともなう与野党激突の長崎4区補選(22日投開票)が10日に告示された。立憲民主党の末次精一・前衆院議員(社民推薦)と、自民公認で公明推薦の金子容三氏の一騎打ちだが、“叩き上げ対世襲”の構図にもなっている。小沢一郎氏の元秘書で県議を経て衆院議員となった末次氏に対して、元日興証券社員・金子氏は政治経験ゼロだが、父親の金子原二郎・前参院議員(元長崎県知事・元農相)の地盤・看板・鞄を引き継ぐかたちで立候補した世襲候補。末次候補の出発式(10日)で泉健太代表が「二世三世の、世襲ばかりが目立つ政治を変える」と訴えたのはこのためだ。
金子容三氏の祖父・岩三氏も、科技庁長官や農水大臣を務めた元自民党衆院議員(旧・長崎2区)で、60年以上前の1962年に「石木ダム計画」(事業費538億円)の予算化に尽力したことでも知られる。
金子家三代目への世襲に批判的な地元ネット媒体「JCネット」が「62年の石木餅、金子岩三がつき、息子の金子原二郎がこねし、石木餅、座りしままに、食ふは孫の金子容三である」と銘打った記事を連続して出しているのはこのためだ。
これに対して金子陣営は“世襲隠しの弔い合戦演出選挙”でマイナスイメージの払拭をしようとしているように見える。出陣式での金子候補の演説について11日の『長崎新聞』は「8期目の半ばで亡くなった自民の北村誠吾衆院議員の『後を継ぐ』と力を込め、政治経験がない『民間感覚』も強調した」と紹介。同日の『西日本新聞』も「金子氏は証券会社勤務の経験を全面に出し」「昨夏、参院議員を引退した父原二郎氏の名を陣営が『封印』している」「(出陣式でも)金子家の家系にまつわる説明は一切、出なかった」と報じた。政治に染まっていない民間感覚(日興証券勤務経験)と故・北村元大臣の後継者と強調することで、金子家三代目(三世)候補の印象を薄めようとする狙いは明らかだ。
しかし“世襲隠し作戦”が成功するのかは未知数。日興証券コネ入社説を先のJCネットが2022年3月24日に「金子原二郎、早くも大石県政への人事介入か?」と題する記事で次のように指摘していた。「SMBC日興証券で思い出すのは長崎県の基金30億円が、金子原二郎氏が長崎県知事だった時代に三菱証券から日興証券、現在のSMBC日興証券に不可解に付け替えられているという事実である。また、その金子原二郎氏の御子息である金子容三氏が、その前後に日興証券に入社したこともすでに判明」。
そして今年9月23日にもJCネットは「衆院長崎4区補選・金子容三氏が末次精一氏を約3ポイントリード」と銘打った記事のなかで、僅差の理由をこう分析した。「そもそも、金子家の三代目だという理由で、秘書の経験も政治経験もない父親の口利きと長崎県の基金30億円の持参金で入社した証券マンに対する有権者の反応は手厳しい」。
もし“日興証券コネ入社説(県の基金付け替えと交換条件)”が事実なら、民間企業勤務も父親の七光り(政治力)の産物になってしまう。世襲隠し狙いの「民間感覚」強調が逆に、「かつての就職も今回の補選も親頼りの世襲候補」というマイナスイメージが強まる恐れがある。
有権者は「日興証券勤務(政治経験のない民間感覚)」をプラスに捉えるのか、それとも「父親の政治力によるコネ入社説」に信憑性を感じてマイナスと捉えるのか、これが急浮上した長崎4区補選の注目ポイントといえるだろう。
なおJCネットに問い合わせたが、金子家の関係者から「記事内容は事実無根」「削除しないと名誉棄損で訴える」といった抗議は来ていないという。
12日に平戸市での街宣を終えて車に乗り込んだ金子候補に「日興証券コネ入社説について一言、県の基金付け替えと交換条件だったのではないか。(長崎県知事だった)父親の政治力で民間企業に就職したのではないか」と聞いたが、一言も答えずにマイクで演説を始めながら走り去った。
もう1つの“弔い合戦演出作戦”も十分な効果を発揮するのかは不透明だ。告示日には茂木幹事長と盛山正仁・文科大臣、告示前にも林芳正・前外務大臣や鈴木善幸・財務大臣ら自民党大物議員が応援に駆け付ける一方で、街宣や集会で故・北村元大臣の夫人ら遺族が金子候補への支持を訴える場面が見られないからだ。いくら候補本人が「後を継ぐ」と訴えても、北村家遺族ら関係者の支持表明なしでは説得力に欠ける。「後継者として認められていないのか」との疑念さえ生じる。11日の『読売新聞』はこう指摘した。
「(長崎4区補選の候補選定に)北村氏が後継指名した地元県議も候補に名乗りを上げたが、党本部の決定で、金子候補が公認を勝ち取り、北村氏の支援者には反発が広がった」「同党関係者は『北村氏の遺志が尊重されず、弔い合戦とは言えない。茶番にしか聞こえない』と突き放す」
弔い合戦ならば後継候補が大きくリードとなるのが通常だが、長崎4区補選は僅差の激戦となっている。その一因が「北村氏の支援者に広がった反発」にあるのは間違いない。北村氏後継指名の地元県議(山下博史氏)ではなく、金子家三代目が割り込んできたかたちというのだ。「弔い合戦ではなく、“世襲候補割り込み選挙”だ」と北村氏の支持者が思っても不思議ではない。
この記事に符号する噂話も耳にしていた。9日配信のネット番組【横田一の現場直撃No.236】で紹介したが、「根本匠・岸田派事務総長が地元関係者に『北村家のご遺族が候補と一緒に支持者周りや集会参加をしてもらえないか』というような要請をしている」という情報が地元で囁かれているというのだ。
(つづく)
【ジャーナリスト/横田 一】
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