激化する中東情勢 駐在員の退避を考える
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国際政治学者 和田 大樹
10月7日にパレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスがイスラエル領内へ奇襲攻撃を仕掛けて以降、イスラエル軍はガザへの攻撃を強化し、これまでの犠牲者数は双方で3,000人を超えている。情勢は悪化の一途をたどっており、今後さらに犠牲者数が増えることが避けられない状況だ。
情勢の悪化を受け、イスラエルと諸外国を結ぶ国際線フライトの運休が広がっている。10月10日時点で、デルタ航空、アメリカン航空、ルフトハンザ、エールフランス、ハンガリーのウィズエアーなどが相次いでテルアビブ便の運航を停止した。一方、カタールやUAEとイスラエルを結ぶフライトの運航は続いているという。
そのような中、日本外務省は10月10日、ガザ地区および境界周辺の危険度を「3」から「4」(退避勧告)に引き上げた。まだ1,000人近くの日本人がイスラエルに在留しているというが、イスラエルに進出する日本企業の間でも駐在員を国外退避させる動きが広がり、14日には韓国軍の輸送機に日本人51人が搭乗してイスラエルを脱出、ソウル近くの空港に無事に到着した。
今回の中東情勢激化を受け、企業のセキュリティコンサルティングに従事する筆者にも、イスラエル進出の日本企業関係者からいくつか問い合わせがあった。問い合わせは正に駐在員を退避させるかどうかで、筆者は現状と今後懸念されるリスクを考慮し、できるだけ早期に退避させることを強く推奨した。
確かに、戦闘が激化しているのはガザ地区であり、日本人が多く滞在する最大都市テルアビブに被害が拡大しているわけではなく、現在も国際空港は稼働している。イスラエル軍とハマスでは軍事力の差は歴然としており、民間シェルターも発達しているので、邦人の身の安全が脅かされるリスクは低いとの見方もある。
しかし、今日の状況は、イスラエル・ハマス間だけの問題ではない。ハマスは長年イランから支援を受けて、イスラエルの隣国レバノンやシリアなどには親イランの武装勢力が活動し、そういった組織は反イスラエル感情を強めている。イスラエルもそれを警戒し、シリアの空港などへ空爆を最近も実施しており、イスラエル周辺を巻き込んで情勢が悪化する可能性がある。仮にそういった情勢になれば、航空機の運行停止、航空機チケットの購入でパニックが広がり、イスラエルからの退避がいっそう難しくなる。
また、情勢が悪化するに従い、駐在員とその帯同家族の間で緊張や恐怖感がいっそう強まり、メンタル的にも問題を引き起こす可能性がある。これは人によって感覚が異なるかもしれないが、多くの現代日本人は戦争やテロを対岸の火事と意識しがちで、いざ情勢が悪化すれば、そのギャップに苦しむことが考えられる。
今回の件を受け、筆者は上述のようなアドバイスを企業に提供しているが、企業自身として、情勢の変化だけでなく、そういった緊張下での生活を余儀なくされる駐在員のメンタルなども考慮し、可能な限り早い段階での退避が望まれる。
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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